第117話 出迎え一人の凱旋式
馬車が年少組一年生の城の前に到着すると、ちょうど魔法学の授業が終えたエンゲルバッハが校門から出てきたところだった。
彼は、御者と並んで座っているクラウスを見つけて、ちょっと意外だという表情を見せた。
「おやおや、クラウス先生はどこに消えたかと思えば、幌付きの大型馬車でお出かけだったとは。で、どちらへお出かけでしたのかな?」
「ああ、処理班の仕事が終わった彼らの撤収の手伝いですよ」
「へ?」
「ほとんど凱旋ですけどね」
「凱旋?」
「ええ。大きな魔物を二匹も仕留めましたから」
「ほう? 処理班が、魔物を? それはまたお手柄ですな」
「そうでしょう、そうでしょう」
「実に頼もしい生徒ですな」
「ほら、エンゲルバッハ先生のお褒めの言葉が出たよ。君達、顔を見せてあげたら?」
クラウスが、今にも噴き出しそうな顔を幌の方へ向けて、声を上げた。
すると、幌の中からぞろぞろと少年少女が降りてきた。
もちろん、トール達である。
「……うあ! ……あや! ……おわ! ……へ!?」
エンゲルバッハは、自分を睨み付ける生徒達を見て、意味不明な言葉を発しながら、激しく狼狽する。
仕舞いには、腰を抜かし、その場に座り込んでしまった。
クラウスも馬車から降りて、腰に両手を当てながら、動けないエンゲルバッハに顔を近づける。
「何をそんなに驚いているのです? うちの自慢の生徒達じゃありませんか?」
「し、しかし……、あ、あ、あ……」
「おやおや? 魔物を二匹も退治したんですよ。もっともっと、彼らを褒め称えてくれないと」
「な、な、なぜここに?」
「『なぜここに』ですって? ……おやあ? 彼らがここにいるのが不自然だとでもおっしゃるのですか? よく見てくださいよ。本物の彼らですよ。幽霊じゃありませんよ」
「わ、わ、わかったぞ! アーデルハイト・ゲルンシュタイン! 貴様だな!」
エンゲルバッハは震える手で彼女を指さす。
「エンゲルバッハ先生。生徒を『貴様』呼ばわりするとは、ひどいですね。それに、アーデルハイト・ゲルンシュタインを咎めるようなことをしたら――」
クラウスは、エンゲルバッハの鼻先まで顔を近づける。
「この僕が許しませんからね!」
「……っ!」
クラウスの険しい表情に、エンゲルバッハは震え上がった。
「そ、そうか。そうだったか。……と、とりあえず、魔物退治、ご苦労!」
エンゲルバッハは、彼らの顔を見ずに立ち上がり、足がもつれながらも立ち去っていった。
クラウス達は、声を立てずに大笑いした。




