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僕と幼馴染みと黒猫の異世界冒険譚  作者: s_stein
第二章 魔法学校編

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第116話 クラウスの救援

 アーデルハイトの使い魔である(タオベ)ちゃんが飛び立ってから、2時間ほどたっただろうか。

 昼もとうに過ぎ、朝から何も食べていない彼らは、全員が無言だった。

 疲労も限界に来ていた。

 自分の腹はもちろん、他人の腹の鳴る音が笑えない。

 ずっと重苦しい空気の中に、彼らは沈んでいるのだ。


 今を遡ること2時間前――。


 最初、異世界転生組はアーデルハイトを取り囲んで、空腹を紛らす雑談を始めた。

 輪の中心にいる彼女は、ローテンシュタイン帝国の成り立ち、周辺諸国との関係、12(ツヴェルフ)ファミリーの話を詳しく語った。

 皆は、興味津々だった。


 一方、彼女はトール達異世界転生組の前世について、強い興味を持った。

 神に遣われし子は前世があることを、彼女は知っている。

 だが、先に結論を言うと、彼女は深くは立ち入れなかった。

 なぜなら、前世の話題に触れると、目の前でトールを巡る一触即発めいたことが起こることに気づいたのだ。


 特に、シャルロッテとイヴォンヌが声を荒げる。

 イゾルデも参戦する。

 男一人を巡る女の争い。

 これは、異世界のアーデルハイトでも察しが付く。

 このまま話題を深掘りすると、今いる人間関係がギクシャクしかねない。

 彼女は、それに気づいて、詮索するのをやめてしまった。


 こうなると、話が尽きてしまう。

 会話する気力もない。

 これで彼らは、2時間が永遠に感じるほど、無言の時を過ごしてしまったのだ。


 沈黙に耐えきれなくなったシャルロッテが何か言おうとしたその時、遠くの方から馬のいななく声がした。

 もしかして、馬車が来たのか!?

 車輪のギシギシいう音もかすかに聞こえてくる。

 全員が、まるで鶴のように首を伸ばして音の方向を見つめる。


 しかし、なかなか姿が見えない。

 通り過ぎてしまったのか?

 アーデルハイトが、しびれを切らして立ち上がった。

 皆も、遅れまいと一斉に立ち上がる。


 すると、林の木々の間から、何やら動くものが見えてきた。

 それが馬車が見え隠れしているとわかり、皆の顔がほころんだ。


 馬の鼻先、胴体、御者、そしてクラウス先生の姿。

 それを視認した生徒達は待ちきれなくなり、歓声を上げながら幌付きの馬車へ走り寄った。

 お手柄の(タオベ)ちゃんは、クラウスの肩から飛び立ち、アーデルハイトの肩に舞い降りて、クークーと喉を鳴らす。


「君達、よく耐えたね。パンとチーズとミルクを持ってきたよ」

 クラウスのねぎらいの言葉に、全員が涙ぐんだ。

 先ほどまで座りっぱなしでまだ体温の残る地べたに、彼らは差し入れを抱きかかえるようにして座り込む。

 そして、それらを野生児のようにむさぼりつく。

 クラウスは、傍らに座り、彼らを優しい目で見ながらこれまでのことを語り出した。

 その内容は以下の通り。


   ◆◆◆


 年小組一年の一時限目は科学。

 ところが、担当のメンゲルバッハ先生が急用のため、クラウスがピンチヒッターとして教壇に立った。

 教室を見渡すと、トールを始め、特待生六人が全員欠席している。

 トールのルームメイトのウルリッヒから『彼らは処理班の手伝いに行った』と聞いたクラウスは、年少組一年生が処理班の任務に就くこと自体珍しいので、事情を聞きにグラートバッハ校長のところへ行く。

 しかし、なかなか会うことができない。

 ところが、やっと会うことができたと思ったら、曖昧な答えしか返ってこない。

 さらに、魔法学担当のエンゲルバッハ先生が『首を突っ込むな』と言ってきた。


 前からこの学校の校長も教師も信用できないクラウスは、何か裏があると感じながら、教職員の城の外に出た。

 ちょうどそこに、白い鳩が飛んできた。

 飛び方が自然界の鳩と違うので、それがアーデルハイトの使い魔だとすぐにわかった。


 クラウスは、足に結ばれていた『しゃべる手紙』から、彼女の伝言を聞き取った。

 事情を理解した彼はひどく驚き、助けに行くため、口実を作って学校を抜け出した。

 それから、馬車を雇い、途中で食事を購入後、鳩の導きでここまでたどり着いたという。


   ◆◆◆


「本当に、驚いたよ。まさか、こんなことが起きていたなんて」

 クラウスは、顎で地割れや大穴の方向を指す。


「伝言を『しゃべる手紙』から聞いたとき、すごく心配したよ。とにかく、無事で良かった」

「「先生、ありがとうございます!」」

 腹ごしらえがすんだ彼らは、笑顔で唱和した。

 それから馬車に乗り込み、魔法学校へ戻っていった。


 意気揚々と引き揚げた、と言いたいところだが、幌の中では早くも、馬車の振動で揺れるトール達の寝息が聞こえていた。


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