第110話 鬼が銃で追い回す鬼ごっこ
部屋中に響くショットガンの発砲音。
宙を舞う薬莢。
凶弾はイヴォンヌとヒルデガルトの足下に着弾し、濃い茶色の床から破片と白煙が立ち上る。
おそらく悲鳴を上げているはずの彼女達は、口を大きく開けながら方々へ逃げ惑う。
「これは、魔法が込められた弾丸よ。つまり、私は、魔弾の射手」
まだ煙が出ている銃口が、今度はシャルロッテとマリー=ルイーゼを狙う。
ショットガンが火を噴いた。
彼女達は、足下の着弾を確認することなく、左右へ跳ぶ。
「さて、お次は……」
イゾルデは、次に狙う獲物二人へ視線を向けたが、そこには漂うコラージュの板のみ。
「あらら? 本当に、リアルな鬼ごっこになったわね。どれどれ――」
彼女は、宙に浮いたまま周囲を見渡す。
念のため、背後も確認する。
トールとアーデルハイトが示し合わせて、背後を取ることを警戒したのだ。
いない。
どうやら、全員がコラージュの板の裏に隠れたらしい。
イゾルデは、動くコラージュからはみ出た二つの人影を見つけた。
「あら、あそこにいる。鬼さんは瞬間移動できるのよ。こうやってね――」
彼女はそう言うと、瞬時に移動し、隠れている二人の背後に立った。
二人はイヴォンヌとヒルデガルト。
彼女達は背後に人の気配を感じたが、すでに遅かった。
後頭部に冷たい何かが当たる。
ショットガンの銃口だ。
二人の心臓は凍り付く。
「チェックメイト」
イゾルデの冷徹な声に、二人は両手を挙げた。
すると、空中から縄が現れ、ひとりでに二人をぐるぐる巻きにする。
「そこで大人しくしていなさい。……次は、あそこね」
イゾルデはまたもや瞬間移動した。
漂うコラージュの下に足が見える。
彼女は、その板を思いっきり蹴った。
飛ばされた板にぶつかって尻餅をついたのは、マリー=ルイーゼ。
さらにイゾルデは、その左側の板を強く蹴る。
同じく板にぶつかって尻餅をついたのは、シャルロッテ。
二人の顔に銃口が素速く向けられた。
イゾルデは、唇に縁取られた白い歯を見せて嗤う。
「チェックメイト」
イゾルデの冷徹な声に、こちらの二人は剣を捨てて両手を挙げた。
すると、空中から縄が現れ、こちらもひとりでに二人をぐるぐる巻きにする。
イゾルデは、直ぐさま後ろへ振り返る。
まるで、後二人がそこに隠れていることを確信しているかのように。
「四人は、ゲームオーバー。残りは、あなた達二人。隠れても無駄よ。大人しく出ていらっしゃい」
しかし、人の気配はない。
動いているのはコラージュの板のみ。
「そこにいるんでしょう? 来ないなら、こちらから行くわよ」
イゾルデは、中央奥の壁際へ瞬間移動する。
そして、互いに2メートルほど離れて漂う2枚の板の真ん中に立って、一歩踏み出した。




