第109話 コラージュの部屋
あっという間に飲み込まれたアーデルハイト達。
彼らの両眼は、まぶたを通じて明るさに慣れてきた。
心地よい室内楽の音楽が鼓膜にソッと触れ、徐々に遠ざかる。
訪れる無音の世界。
彼らは、固く閉じたまぶたを恐る恐る開ける。
そこで彼らが見たものは……。
大舞踏会が開かれるようなだだっ広い部屋。
濃い茶色の天井が恐ろしく高く、金色に輝く豪華なシャンデリアが4つ下がっている。
それより驚いたのは、壁の装飾、そして空間に漂うもの。
壁は、ローテンシュタイン帝国中の絵画、書物、新聞、ポスター、チラシをちぎって張ったような、色彩豊かなコラージュで包まれている。
それだけではなく、高さ2メートル、幅1メートルの板状のコラージュが、そこかしこで宙に漂う。
ゆっくり回転するもの、左右に揺れるもの。
それらは行く当てもなく、勝手気ままにフラフラと漂い、互いにぶつかりながら方向を変えていく。
よく見ると、窓がない。
いつの間にか、扉も消えている。
トールはアーデルハイトに向って『ここはどこでしょうか?』と問うが、口から出ているはずの声が鼓膜に届かない。
喉から骨を伝わって鼓膜へ振動が行けば、違った声音であっても何かしら聞こえてくるはずが、それもない
金魚のように口をパクパクしているだけなのだ。
それはアーデルハイトも同じだった。
お互いが顔を見合わせ、唇で双方の言葉を読む。
『周りをよく見て!』
『はい! 先輩!』
彼らの間で、声のない会話が続く。
聞こえるのは自分たちの衣服がこすれる音のみ。
シャルロッテもマリー=ルイーゼも首をかしげて口をパクパクしている。
ヒルデガルトとイヴォンヌは、手話めいたことを始めた。
その不思議な空間に、突然、オルゴールの音色が響き渡った。
懐かしくもあり、安らぎを与えるが、しきりに転調し、どこかもの悲しさを覚える旋律。
すると、天井からイゾルデがフッと現れて、スーッと降りてきた。
彼女はいつの間にか、年中組の戦闘服を着ている。
上は黒色のセーラー服風、下は細くて萌えるような草緑色の横ストライプが2本入った白いミニスカート。短めの黒いブーツ。
よく見ると、斜め下に下げた両手が、何やら長い金属の棒を握っている。
その彼女が、3メートルほどの高さでピタリと止まった。
トール達は戦慄する。
その金属の棒は、二丁のショットガンであった。
「ここは、私のお気に入りの一つ。コラージュの部屋へようこそ。さあ、用意はいいかしら? では、始めましょう――」
宙に浮いた彼女は、ショットガンをトール達にサッと向けて、下目遣いでほくそ笑む。
「リアルな鬼ごっこを」




