第104話 トールの奥義
大きな音とともに、水を含んだ土砂がトールへ滝のように降り注いだ。
土砂は、口の中まで飛び込み、鼻の穴を塞ぐ。
突然の出来事に、彼は状況を把握しようとしたが、今度は泥人形が自分に迫ってくる。
いや、崩れ落ちてくる。
自分をつかんだまま倒れていくようだ。
彼は訳がわからないまま、土砂に埋まった。
それは、アーデルハイトも同じだった。
泥人形は単なる土塊と化して崩れ去る。
二人はドロドロになった土砂の山から、もがくように這い出てきた。
今度は、自分たちがほぼ泥人形状態になった。
もし彼らが事前に強化魔法を行使していなかったら、泥の中から這い出ることができず、窒息していたかもしれない。
最初はよろめいていた二人だったが、二本足で地面に立つことができた。
こうなれば、向かい所敵なし。
二人を襲う骸骨は、正義の剣で次々と斬り捨てられていく。
邪悪な者どもの首が、腕が、あばら骨が宙を舞う。
だが、骸骨の兵士は、一向に減る気配がない。
二人は自分達が斬り捨てた骸骨の数をいちいち数えてはいなかった。
しかし、相当数が斃れて光の粒となって消えていったのは認識していた。
であれば、残りは数体のはず。
でも、最初に見たときと同じくらいの数の骸骨どもが、性懲りもなく密集して迫ってくる。
これは、明らかにおかしい。
「大ボスを叩かないと駄目だわ!」
アーデルハイトの声の方を向いたトールは、彼女が剣先をケートの方へ向けていることに気づく。
彼は、剣先の向こうを見た。
無数の光の柱が見える。
あれはケートの魔法。
彼女が、援軍を増産中なのだ。
常に五十体以上をキープしているように見える。
これでは、体力の尽きた方が負けだ。
トールは、ここで剣を振り回しながら、骸骨どもの間を縫って突破しようかと考えた。
しかし、この分厚い壁のような骸骨の大群を掻き分けて行く自信がない。
奴らが素手ならなんとかなりそうだが、全員が武装しているのだ。
何か良い方法はないのか?
今の自分の技で、できることはないのか?
できることは……。
と突然、トールの頭の中にキラッと光るものが見えた。
(そうだ、これだ! ひらめいたぞ! 連続技だ!)
彼は目を輝かせて、傍らで奮闘するアーデルハイトに提案する。
「先輩! 僕に名案があります!」
彼女は骸骨とつばぜり合いをしながら、彼を一瞥して問う。
「名案!?」
「はい! こいつらを吹き飛ばします!」
「どうやって!?」
「説明は後でします! とにかく危ないので、ずっと後ろに下がってください!」
「わかった!」
アーデルハイトは、つばぜり合いをしていた骸骨を強烈な蹴りで倒して、素速く後退した。
トールは、剣を真横にして、三体同時に押し倒した。
骸骨どもはよろめき、将棋倒しになった。
これで、少し敵との隙間ができる。
チャンス到来!
彼はいったん長剣を地面に置き、首から提げていた指輪を素速く外して、右手中指にはめた。
そして、長剣の柄を左手で握った。




