1話目
生まれてきた意味?
簡単よ
支配するため、それだけよ
忘れられない顔がある。母の顔だ。
母は、いつも明るく、些細なことで笑う人だった。今まで関わったどんな人よりも、明るい人だった。
そんな母が、稀に、もの凄く痛そうな、辛そうな顔をすることがあった。
彼女は、そんな顔をした後、よく俺を抱きしめた。
そういう時俺は、彼女の辛そうな顔が、ちょっとでも和らぐように、少しばかり傷んだ、明るい茶色の髪を撫でつけるのが好きだった。
そうすると、彼女は口角を上げて、いつもの、底なしに明るい笑顔を俺に向け、
「さぁ、頑張るわよ!」
と俺の背中をバシバシと叩くのだ。
あぁ、そうだ、母のあの笑顔、それよりもっと忘れられない、あの…
あまりの寒さで目が覚めた。
所々穴の開いた、酷い臭いのする毛布に包まっても、一向に寒さは手加減してくれない。
昨日の真夜中から、体の感覚が無くなっている。凍傷になっているのは明白だった。
多分、もう手遅れだろう、ちらりと見ると手足は変色して、殆ど紫色になっていた。
けれどもう、どうでもよかった。そんなこと、どうでもいいのだ。
もうとっくに、俺は疲れ果ててしまった。
あれほど感じていた苦しみも、なくなってきた。
全身が気怠く、意識は遠のいていく。
酷く長かった。前から数えると、何十年だろう。
やっと、死ねるのだ。
この苦しいだけの生は、ようやく終わりを迎えることができるのだ。
意識はさらに遠のいていく
全身の力が抜ける
あぁ…また…あの顔が…
「あら、こんな所で、良い拾い物をしたわね。」
「そうだな。フランセ。」