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日々の出来事  作者: 真澄
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桃畑

 少し前のことです。親子でインフルエンザにかかって大人しくしていたころのこと。遠くからチェンソーがうなる音が聞こえてきます。母曰く、桃の木を薪にしている音だったそうです。

 父は母に何の相談もなく生涯学習の掲示板に、『薪提供します』の張り紙を出してしまったそうです。その張り紙を見た方が、我が家の桃の木を切り倒し薪にして持って行っていかれたそうです。古い桃の木を10本も切って薪にしてご持参していただける方がいるとは、奇特な方がいたものです。

 母に相談がないのですから、私も全く知りませんでした。そんな予定があるなら昨年の秋口に言って欲しかった。なんのために桃の木の冬越しの作業をしたのやら、です。

 父が桃の木を切ってしまったのは、消毒が体力的に辛かったから、だそうです。一般的に果樹は、春から夏にかけて半月に一度の間隔で、様々な消毒を行うことになります。消毒なんてと思われる方もいらっしゃるかもしれません。ですがこれを行わないと、虫食いだらけになったり、病気になったりで出荷できるものにはなりません。小規模のリンゴ畑と小規模の桃畑があれば、最盛期には毎週消毒を行うことになります。 私だって別にやる気がないわけではないのです。小学生の頃には、

「明日は消毒だからね。お前が起きるまでには終わってると思うけど」なんていわれていた身です。一言声をかけてくれれば、何とかしたと思うのです。ですが、父と母は私が果樹を営めないだろうと勝手に思って、自分たちの都合で勝手に消毒の予定を決めて、勝手に桃の木を切ってしまったのです。

 残された薪にならない枝を片付けながら、母に聞いてみました。

「4本残した桃の木はどうするの?」

「そりゃ、消毒しないとだめだろうねぇ」

「4本だけのために、発動機動かすの?」

「そりゃねぇ、発動機で消毒しないとちゃんと噴霧できなっからねぇ」

 他の果樹を植えることも提案してみましたが、やっぱり母は今まで作ってきた作物が良いといいます。


 今まで作付けしたいたのは、『川中島白桃』です。川中島平で突然変異で生まれた品種だそうです。近年は川中島平も宅地化が進み、果樹を営むことも難しくなってきました。発祥の地で作付けされている面積も少なくなってきました。

 父から聞いた話です。ある農家の桃の消毒が迷惑だと、近隣の住宅の方と裁判になったそうです。農家からすれば、桃畑があることをわかっていて引っ越してきて消毒が迷惑だもない話だと思うのです。ですが裁判では、農家が敗訴したそうです。その方は、桃の木をすべて切ってしまったそうです。こんな話を聞くと、桃を作り続けるのなんだかなぁ思ってくるのです。

 

 ですがせっかく在所の名前の入った品種があって、少しばかりの土地があって、子育ても一段落してきました。今年の秋には、少しばかり苗木を植えてみようかとも思っています。

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