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日々の出来事  作者: 真澄
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おはづけ

 住宅街を通っているときに、どこからかオペラのような音楽が聞こえてきました。音のする方を見ると、野沢菜の大きな束が3つ玄関に置かれています。一束4キロとして12キロほどでしょうか。その近くには、ジャンバーを着てゴム手袋をはめ、防水の大きな前掛けに防寒長靴をはいた年配の方が、3人ほど見えます。お菜洗いが始まるようです。クラシック音楽を流しながらのお菜洗いって、高尚な味の野沢菜漬けが出来そうです。

 山間地では11月中旬から、里でも12月に入ると各家庭でお菜洗いが見られるようになります。我が家のババも、少し前までは、庭先の水道でお菜洗いをしていました。それがいつからか風呂場で、お菜を洗うようになっていました。ババ曰く

「だって寒いんだもん。ここならお湯も出て便利だし」とのことです。

 お湯でお葉を洗うというと、野沢温泉のお菜洗いが有名でしょうか。温泉街の真ん中でお葉を洗う様子は、ローカルニュースで季節の風物詩として紹介されます。

 野沢菜の由来としては、江戸時代に野沢温泉村のお坊さんが天王寺に修行に行ったおり、帰るときに天王寺蕪の種を持って帰って来たのが始まりとされています。ですが遺伝子研究によって、伝説の域を出ないという事がはっきりしています。全国的には、野沢温泉発祥のものという事になっているのでしょうか。

 ところが佐久市に野沢という地籍があります。この佐久の野沢で作っていたから野沢菜になったという説も、どこかで聞いたような気がします。ネットで検索しても、どこにも出てきませんでしたけど。

 在所の平らでは、野沢菜の種を9月上旬にまき11月下旬から12月上旬に取り入れをします。取り入れるまでに数回、霜に当てます。こうすることで、柔らかく独特のぬめりのある漬物になります。最近はなかなか気温が下がらないために、少しづつ漬け込む時期が遅くなってきているとのことです。

 少し年の上の方々は野沢菜漬けのことを、「おはづけ」と言います。お茶請けやご飯のおともにと頻繁に食卓に上がります。一口におはづけと言っても、すぐに食べられる浅漬けや、醤油漬け、冬中食べられるように塩分の高い本漬けなどがあります。

 気温が高い時期に本漬けや醤油漬けを作っても、醗酵して酢っぱくなってしまいます。本漬けとして、塩を強くしたおはづけも、2月も下旬になると酸っぱくなってきます。この酸っぱくなってきたおはづけを水にさらして塩を抜いて細かく刻み、甘辛く煮つけます。これが子供の頃大好きで、どんぶりを抱えて食べていた記憶があります。

 今年ババが漬け込むまでに成長しすぎないようにようにと、種をまく時期を遅らせようとしたそうです。その結果、9月の天候不順にあって種をまき時期を逸してしまったそうです。ですから、今年我が家の畑には野沢菜がありません。

 自分の家で作れないのなら、お菜採りにでも行こうかと、ババと話したことがあります。善光寺平の西方向に位置する山間地一帯を、地元では西山と呼びます。西山一帯では大規模に野沢菜を栽培して、「お菜採りツワー」として一般の方々に好きな分だけ収穫してもらって販売しています。一回行ってみたいような気もしていたのですが、

「ひとんちの畑に行って採るのもなぁ。それならきれいに洗ってあるのを買って来た方がいいよなぁ」とババは言っていました。道の駅で野沢菜が販売される時期になっても、

「まだ早い」とかなんとか言っていました。山間地では漬け込む時期でも、里ではまだ早すぎるのです。

 最近ババは、西山地区の道の駅に行ってみたそうです。そこで野沢菜の様子を聞くと、今年は野沢菜は道の駅に出されていないようです。別の道の駅では売られていたのにです。今年はどこも少しおかしいと、ババは言っていました。

 今年ババは、おはづけを作るのをやめたようです。今年は漬け方を教わろうと思っていたのですが、残念です。

 

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