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勇者ではないのでほっといてください!【旧太陽の勇者と月の巫女】  作者: 涙花
第1章 勇者召喚されたけど人違いでした。
9/40

09

 呪いをどうするかについては追々考えるとして、今は依頼品を集めるのに専念しよう。

 依頼品っぽい草を見つけたら魔眼で確認。魔眼を発動させるには対象をジッと見つめていれば発動するんだけど、もっと簡単に発動出来ないもんかな。


 魔眼を使いながら地道に探し続けて(ようやく)く依頼品の薬草ポポル草を見つけた。


 ――――――――――――

 名前:ポポル草

 効能:回復(微)

 備考:回復薬(ポーション)の材料の1つ

 ――――――――――――


 ふーん。回復薬(ポーション)の材料だったのか。

 一株ずつ確認しながら引き抜き根の土を落として麻袋に入れる。その作業を繰り返し周囲に生えていたポポル草を全て引き抜いた。


「全部で43株か」


 依頼数にはまだまだ足りない。ちなみに俺が受けた依頼はこれだ。


 ――Gランク依頼書――

 ポポル草  200

 フィアの花  50

 クコの実   4


 報酬 小銀貨4枚

 ――――――――――


 まだまだ先は長い……と思ったけど、それから間もなくポポル草の群生地を連続して見つける事が出来た。そのお陰でポポル草はコンプリート。今はフィアの花とクコの実を探している。


 ガサガサと俺の後ろから草が揺れる音がした。振り返ったけど何もいない。気のせいかと思って足を進めるとまた後ろからガサリと音がした。足を止めて振り返ってもやっぱり何もいない。首を傾げながら音のした方向から視線を外した時、ガサガサっと草がひと際大きく揺れる音がして、茂みの中から水色の半球体の物体が飛び出してきた。


 ――――ステータス―――――

 名 前:ブルースライム

 レベル:5

 備 考:どこにでもいる低級の魔物。

 ――――――――――――――

 これがスライムか。中華饅のような形で大きな目と大きな口がある。但し、目の瞳孔は蛇のように縦長で口は三日月形に吊り上っている。全然可愛くない。某ゲームのスライムとは大違いだ。


 剣を鞘から引き抜き構える。剣が効くか分からないけどやるだけやってみるか。…駄目な時には逃げよう。

 

 剣を正面に構えスライムと真っすぐと向き合う。

 目の前でピョコピョコと跳ねていたスライムが突然正面から勢いよく飛びかかってきたので、そのまま剣を真っすぐ振り下ろした。

 

 スパッ


 軽い手ごたえがありスライムは真っ二つになった。

 俺よりレベル高いのに1撃で倒せるのか。スライムって弱いんだな。


 でもさっき見たコイツのステータス、名前とレベルと備考しかなかったんだよな。魔眼のレベルが低いからか?レベルが上がればもっと詳しく見れるようになるんだろうか。


 氷塊が背筋を滑り落ちるような感覚。全身の毛が総毛立った。背後を振り向きながら、右手に持っていた抜き身の剣を思い切り水平に振り切った。


「ギャイン!」


 血を撒き散らしながら灰色の獣が地面を転がる。

 危なかった…。後少し気付くのに遅れていたら死んでいた。

 剣を強く握り締めて灰色の獣に意識を集中する。


 ――――ステータス――――

 名 前:ウルフ

 レベル:7

 備 考:この地域に生息している低級の魔物。

 ――――――――――――――


 こいつも低級ランクなのか。


 ステータスを確認していると、ふらつきながらもウルフが立ちあがり、憎悪の籠った目で俺を見た。


 剣を持つ手に力を込める。


(向こうは殺る気だ。殺す事を躊躇ったら俺が死ぬ。)

 

 嫌な汗が出てくる。スライムの時にはあまり感じなかった、生き物を殺す恐怖。分かってる、スライムだって生きてた。ゲームに出てくるような架空の生き物なんかじゃない。ここはゲームではない。斬ったら死ぬし、斬られたら死ぬ世界。殺されたくなければ、殺すしかない世界。

 

 大きく息を吸ってゆっくりと吐き出す。意識してゆっくりとした呼吸を繰り返す。

 落ち着け。焦りは禁物だ。


 ウルフから目を離さないで、動き出す瞬間を待つ。そして、遂にウルフが動いた。

 






 地面に座り込んで荒い呼吸を落ち付かせる。その横には血に塗れたウルフの死体が転がっていた。

 飛びかかってきたウルフを剣で斬りつけ、怯んだ隙を逃さずに2撃目、3撃目を撃ち込んで殺した。

 殺す前はあんなに殺す事が怖かったのに今は何も感じない。…それでいいのだ。俺は俺が生きる為に魔物を狩る。元の世界に戻る為にも死ぬわけにはいかないのだ。

 頭を軽く振って思考を打ち切り、改めてウルフの死体に目を向ける。


「死体が残るんだな…」


 ゲームのようにドロップアイテムだけを残して、消えるという事はないらしい。

 スライムがいたところに目を向けるとそこには白く濁った青い小さな石が1つ転がっていた。立ち上がって転がっていた石を拾い上げる。


 ――――――――――――

 名前:魔石(小)

 備考:スライムの魔石。

  純度の低い小さな魔石。

 ――――――――――――


 魔石…あのスライムのか?もしかしたら売れるかもしれないし貰っていくか。あのウルフも売れる素材があるかもしれないけど、どこの部位か分からないし剥ぎ取り方も分からないから諦めるしかない。

 無駄にしない為にも剥ぎ取り方を勉強しないといけないな。


 さてと、そろそろ街に戻らないといけないんだけど、その前にこのウルフをどうするかが問題だよな。ここに放置してもいいんだろうか?それとも穴を掘って埋めた方がいいのか?でもスコップとかないから穴は掘れないし……あれ、よく見たらコイツ額に石みたいなのが埋まってる。


 剥ぎ取り用のナイフを取り出して、ウルフの額にある石を取り出してみる。するとウルフの体が粒子になって消えていった。残った白く濁った緑色の石を見てみる。


 ――――――――――――

 名前:魔石(小)

 備考:ウルフの魔石。

  純度の低い小さな魔石

 ――――――――――――


 魔物は魔石を持ってるっぽいな。んで、魔石を取ると体は消滅する。なんで消滅するのか分かんないけど、処理する手間が省けたのは助かる。問題も片付いたし街に戻るか。



 出る時は門の前に長い列が出来ていた今は門番の兵士の姿しかいない。


「身分証を出せ」


 ポケットからギルドカードを出して門番に見せる。


「Gランク冒険者か。暗くなると凶暴な魔物も活動する。もう少し早く街に入った方がいいぞ」

「分かりました。次からはそうします」

「よし、いっていいぞ」

「ありがとうございました」


 礼を言って街の中に入る。疲れたし宿に戻ってゆっくりしたいところだけど、その前にギルド支部にポポル草を持っていって…3つの依頼品の内の1つだけ納品って大丈夫なのか?まあ、持ってってみるか。



 ギルド支部の中に入り冒険者ギルドのカウンターに行く。


「冒険者ギルドへようこそ」


 ギルドカードを作った時とは違う淡い緑色の髪を肩の少し上あたりで切り揃えた水色の瞳のお姉さんが笑顔で応対してくれた。


「すみません。3つの採取依頼の内1つだけ数が揃ったので持ってきたんですけど、全部揃ってからじゃないと駄目ですか?」

「いえ、期限内に納品していただけたら大丈夫ですよ。確認しますのでギルドカードと依頼品を出してください」


 期限内に納品すれば分割で持ってきてもいいのか。良かった。

 カウンターにギルドカードとポポル草を置く。


「ギルドカードをお預かりいたします。…………依頼はポポル草200、フィアの花50、クコの実4、期限は明日まで、本日納品されるのはポポル草ですね」

「はい」

「ポポル草の確認をします。少々お待ちください」


 お姉さんがポポル草を麻袋から出して1株ずつ確認していく。そのスピードは速くあっという間に確認は終わった。


「初心者で1株も間違わなかった方は久しぶりです。いい眼をお持ちですね」

「ありがとうございます」


 全部魔眼で確認して採取したから間違うことなんてありえないんだけど、1つ2つくらいは違うのを紛れ込ませたほうが良かったか?でも過去に間違わなかった人もいるみたいだし大丈夫だろう。…多分。


「ポポル草を200株お預かりいたします。明日中に残りのフィアの花とクコの実を持ってきてくださいね」

「分かりました。あの、もし明日中に揃えられなかったらどうなるんですか?」

「納品済みのポポル草は1株2ソルで買い取らせていただきます。アキトさんはGランク、今回が初めての依頼なので依頼失敗による罰則はありませんが、次からは失敗するとランク昇格に必要なポイントが1回の失敗につき5ポイント増えます」


 確かFランクに上がるのに必要なポイントは20ポイントだったはず。今回は失敗しても20ポイントから変わらないけど、次に依頼を受けて失敗したら25ポイント必要になるってことか。でも依頼失敗しても納品した分は買い取ってもらえるのは助かる。金は少しでも必要だからな。


「早くランクを上げるために無理な依頼を受けるよりも、小さな依頼をコツコツと頑張った方が結果的に早く昇格できます。無理せず頑張ってください」

「分かりました。ありがとうございます」


 返してもらったギルドカードをポケットに仕舞いギルド支部を出た。

 お腹も空いたし早く宿に帰ろう。


 宿の近くまできたらいい匂いが漂ってきた。ドアを開けて中に入るとそこは昼間とは違い沢山の人で賑わっていた。


「おかえり。お兄さん遅いから心配したよ。食事に…っと、その前に裏の井戸で顔と手を洗ってきた方が良さそうだね」


 言われてみれば手は土で汚れてるし体も埃っぽい。井戸への行き方をおかみさんに教えてもらい宿を出た。教えてもらった井戸はすぐに見つかった。水を汲んでまず手を洗う。次に顔を洗おうと思ったけど、髪もべたついてるので先に髪を洗う事にした。残念ながら今日買った石鹸は宿の自分の部屋に置いてきたままなので水で洗うしかない。でもさっぱりした。カバンに入れておいたタオルで荒く髪を拭いて水気を取ると、タオルを肩に掛けて宿の食堂に戻った。


「すみません。夕飯お願いします」


 食堂の中を忙しく動き回っているおかみさんに夕飯の準備をお願いする。


「あいよ。用意出来たら持っていくから適当に座って待ってておくれ」

「はい」


 室内を見渡すと店の端にある席が空いていたのでそこに座って料理を待っていたら、聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「だからぁ、その無知な子にあげたのよぉ。腕に嵌めちゃえば、その子が新しい所有者になるもの」

 

「本当に持ってないんだな?あの腕輪」

「どこにも持ってないわよ!これで私は自由よ!!」

 

 俺に腕輪を押し付けていった奴だ。どうやら腕輪が無くなっても呪いの効果は継続中らしい。解呪出来なかったのだろうか?

 

「それにしても、その無知な子はどんな呪いだろうな?少し気になるな」


 最初の呪いは困ったけど、今の呪いはとても便利な呪いです。

 

「どうでもいいじゃない。忌々しい腕輪も無くなったし今日は祝杯よ!」

 

 わいわい騒いでいる奴らを眺めていると、おかみさんがご飯を持ってきてくれた。


「今日は、モーモー鳥と季節の野菜シチューとサラダと黒パンだよ」

 

 見た目は普通のシチューだな。とてもいい匂いだ。


「ありがとうございます。いただきます」


 味も元の世界で食べたシチューと変わらない。いや、むしろここのシチューの方が美味しかった。大きめの具材がゴロゴロと入っていて食べ応えも十分だ。サラダはシャキシャキしてて美味かった。黒パンは硬かったけどシチューに浸して食べれば問題ない。お腹もいっぱいになったし美味かった。大満足だ。

 食べ終わった空の食器を、カウンターに持っていって俺は部屋に戻った。

 

 俺に腕輪を押し付けた奴は、結局最後まで俺に気がつかなかった。


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