07
「そうか・・・。辛い事もあるかもしれんが、頑張れよ。腕輪は絶対に捨てるなよ。」
「これ以上呪われたくないですから捨てたりしません。でも心配してくれてありがとうございます」
「困った事があれば相談に乗ってやるからいつでも来い。ところであんちゃん冒険者だったのか」
「はい。ついさっき登録してきたばかりなので新人ですけど」
「うん?まさかその格好で依頼をこなしに行こうとしてないだろうな?」
「……まずい、ですか?」
店主の表情が厳しくなっていく。
「お前さん、名前は?俺はブライアンだ」
「アキトです」
「アキト、見たとこ武器も防具も持ってないようだが、本当にその格好で凶暴な魔物がうろつく外に行くつもりなのか?」
依頼票に書いてあった薬草を取ってくる事しか考えてなかった。
ここは俺達のいた世界じゃなくて、魔物や魔王がいる剣と魔法の世界。当然街の外には魔物がいる。そんなところに丸腰で防具も無しに行くのは自殺行為だ。
「……武器屋と防具屋ってどこにありますか?」
「………おまえなぁ…」
「すみません。冒険者になって浮かれてました」
呆れたように大きな溜息をつかれてしまった。
「はあ、武器屋と防具屋ならお前の目の前だ」
目の前。確かに目の前の店には剣やら盾が飾ってある。今日はこんなのばかりだ。
「もしかしてブライアンさんのお店ですか?」
「ああ、必要な物揃えてやるから寄ってけ」
「ありがとうございます」
「礼はいい。それより持ってる物を見せてみろ」
「何も持ってません」
「何も?」
「はい」
「持ってるのは財布と服ぐらいです」
ブライアンさんの目が可哀そうな奴を見る目になってた。
「………揃えてくるからちょっと待ってろ。っと、そうだ。武器は何を使う?」
「剣です」
「剣な。んじゃ少し待ってろ」
「はい」
大人しくカウンターの前で待っていると、次々とカウンターに物が並べられていく。必要な物って結構あるんだな。
「待たせたな。俺の店で用意できるのはこれだけだ」
――用意してもらった物――
・鉄の剣
・鉄の胸当て
・皮の手袋
・鉄の小手
・アイアンブーツ
・レザーマント
・剥ぎ取り用ナイフ
・剣帯
・ポーチ
・肩掛けバッグ
・革の袋×3
・麻の袋×3
・水袋
――――――――――――
いろいろ必要なんだな。これ全部でいくらするんだろう…。
「剣を振ってみろ」
ブライアンさんに言われ鉄の剣を持ってみた。
鉄の塊だから結構重いだろうなと思ってたけど意外と軽い。両手で持ってたのを片手に持ち替えて軽く振ってみる。うん。これぐらいの重さなら片手でも問題ないな。
「剣はそれで良さそうだな。おし、じゃあ試しに全部着けてみろ」
着け方の分からない物もあったが、教えて貰いながらなんとか全部着け終わった。
「なかなか様になってるじゃねえか」
「ありがとうございます。あの、これ全部でいくらですか?」
「小金貨1枚と銀貨2枚、銅貨2枚だが小金貨1枚にまけといてやる」
「・・・いいんですか?」
「ああ、そのかわりこれからも贔屓にしてくれ」
まだ回復アイテム(あればだけど)と服とか生活雑貨も買わないといけないけど、装備ケチって死ぬのは御免だ。
財布から小金貨1枚を出して支払いを済ませる。
「アキト、宿はもう決めたのか?」
「いえ、まだです。どこか安い宿屋ありますか?」
「それならシルフの安らぎ亭に行け。1泊小銀貨2枚、食事は1食銅貨3枚で食えるぞ」
銀貨1枚で1日3食付けても3日は泊まれるな。
「ありがとうございます。それならなんとかなりそうです」
「ったく…出かける前に宿を押さえてから行け。夕方になると部屋が埋まっちまうぞ」
「わかりました。場所が分からないので教えて貰えますか?」
「手間のかかる奴だな。地図書いてやっからちょっと待ってろ」
ブライアンさん言葉遣いは荒っぽいけど親切だな。
「すみません、ブライアンさん。あと安い服屋と生活雑貨扱ってるお店も教えてください」
「ほんっっっっっとに手間がかかる奴だな。………魔法薬屋は知ってるのか?」
「知りません。教えてください」
「はぁ―――」
ブライアンさんは溜息を吐きながらもその手は淀みなく動いて地図を書いていく。
「出来たぞ」
「ありがとうございます。助かりました」
地図はブライアンさんの見た目に反してとても丁寧に書かれていた。
(ムキムキ筋肉で厳つい顔の人が書いたとは思えないな)
「おい、今変な事考えなかったか?」
「(勘も鋭い)いえ、何も。地図ありがとうございました。早速行ってみます」
「…まあいい。また来いよ」
「はい」
俺はブライアンさんに軽く会釈をしてここから一番近い魔法薬屋へと向かった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
セドリックさんに教えてもらった魔法薬屋に着いた。
店の前にある看板にはフラスコと薬草のような物が書かれた看板が置かれている。
扉を押し開けるとチリンチリンと鈴の音が鳴った。
「いらっしゃい。回復薬かい?」
カウンターの中に座っていたおばあさんが立ち上がって迎えてくれた。
「はい」
「回復薬は、小銀貨5枚、魔力回復薬は銀貨1枚だよ」
やっぱ高いな。でも仕方ない、死ぬよりましだ。
「回復薬を5本と、魔力回復薬を1本ください」
「全部で銀貨3枚と小銀貨5枚だよ」
財布の中をから銀貨を3枚、小銀貨を5枚出してカウンターに置く
「ありがとうよ。持ってくるからちょっと待ってな」
お金を受け取ったおばあさんが、奥に入っていく。
少しして戻ってきたおばあさんはカラフルな色の瓶が入った籠を持っていた。
「青いのが回復薬、赤いのが魔力回復薬だよ」
「ありがとうございます」
さっきセドリックさんのお店で買ったポーチの中に回復薬を仕舞っていると、
「うん?お前さんその金色の腕輪どうしたんだい?」
「さっき武器屋で知らない人に貰いました」
「ちょっと見せてもらえるかい?」
「いいですよ」
おばあさんに腕輪を見せる。
もしかして知ってるのかな。呪いの腕輪だって・・・。
「この腕輪がなにか知ってるのかい?」
可哀そうな目で見られて苦笑する。
「呪いの腕輪ですよね」
「知ってて受け取ったのかい!?」
そんなに驚かれるとは思わなかった。お年寄りの心臓に悪いことをしてしまったな。
「偶々武器屋の前を通りかかった時に押し付けられたんです。あっという間に腕に嵌められて、追いかけようにも呪いで動けなくなってしまって散々でした」
「・・・・・・・・・それは運が悪かったね」
「はい。でも今掛かってる呪いは冒険者になるのに支障はないみたいなので良かったです」
「お前さん、本当にそれでいいのかい?押し付けた奴を恨んでないのかい?」
「恨んではいないです。この腕輪も呪いさえ気にしなければとても綺麗な腕輪ですから」
多少汚れている部分もあるが、表面の花っぽいのとかもすごく丁寧に彫られている。きっと呪いなんてなければ、物凄く高価な代物になるんだろうけどな。
「面白い子だね。ちょっと待ってな」
返事を待たずにおばあさんがまた奥に行ってしまったので、言われた通り大人しく待つ。
「待たせたね」
そう時間をおかずに戻ってきたおばあさんは持っていた籠をテーブルの上に置いた。
「黄色が毒回復薬、紫が麻痺回復薬、白い瓶は怪我用の軟膏、あとは包帯と手当て用の布だよ。これもおまけしてやるから持っていきな」
籠の中に入っているのを説明されて渡された。おまけにしては量が多いと思う。
「いいんですか?こんなに貰ってしまって?」
「いいんだよ。持っていきな。これから頑張るんだよ」
優しく諭すようにいわれ、俺は遠慮なく貰うことにした。
「ありがとうございます。また買いに来ます」
「待ってるよ。気を付けるんだよ」
新たに貰った分もポーチに仕舞い店を出る。次に向かったのは服屋だ。ちなみに服屋は魔法薬屋の2軒隣にあった。
あまりお金はかけられない。安い物の中からシャツを3枚、ズボンを2本、上着を1枚、下着を3枚買った。全部で銀貨1枚と小銀貨8枚だったが、これでしばらくは服を買わなくも大丈夫だろう。
次は雑貨屋だ。
雑貨屋ではタオルや歯ブラシ、石鹸を買った。ただこの石鹸、日本で使ってたフローラルな香りではなかった。昔、小学校の授業で作らされた廃油石鹸のような匂いだったけど、これがこの世界で使われている一般的な石鹸らしい。王侯貴族はもっと質の良い物を使ってるだろうけど、平民が買える石鹸はこんな物だと聞いてがっかりした。でも石鹸は買った。ちょっと高かったけど、全部で小銀貨8枚、銅貨1枚の買い物だった。
「腹減ったな……」
目が覚めてから食べたのは肉の串焼きだけ。がっつりご飯を食べたい。宿でご飯も食べれるってセドリックさん言ってたよな。お腹も空いたし、部屋を借りてお昼もそこで食べよう。
俺は気を取り直して、最後の目的地である宿シルフの安らぎ亭に向かって歩き出した。
雑貨屋から歩いて5分ほどで『シルフの安らぎ亭』に着いた。
扉を押して中に入ると、丸いテーブルと丸い椅子が並べられたスペースの奥にカウンターがあり、カウンターの近くには、ふっくらとしたおばさんが立っていた。
「こんにちは」
「いらっしゃい。宿泊?それとも食事かい?」
「宿泊と食事もお願いしたいんですけど空いてますか?」
「運がいいね。1部屋空いてるよ。前金になるがいいかい?」
「はい。とりあえず10日お願いしたいんですけどいいですか?あと途中で、宿泊の延長はできますか?」
「大丈夫だよ。延長する時は前日の夜までに言っておくれ。食事はどうするんだい」
「昼間は出かけるので朝と夜だけお願いします」
「冒険者みたいだけど依頼を受けるのかい?それなら持っていけるようにサンドイッチを用意するよ」
おお!それはいいな。最悪昼抜きかと思ってたから助かる。
「それならお昼もお願いします。今日のお昼御飯からお願いしても大丈夫ですか?」
「なんだ、まだ食べてなかったのかい。用意しとくから先に部屋に荷物置いておいで。ああ、支払いがまだだったね。3食付き10日で銀貨2枚と小銀貨9枚だ」
お金を支払うと鍵を渡された。
「部屋は2階の手前から3番目の部屋だよ。荷物を置いたら降りておいで」
「分かりました。ありがとうございます」
教えてもらった部屋に向かう。階段を上るとドアがずらりと並んでいた。手前から3番目だったよな。
階段側から数えて3番目の扉の鍵穴に鍵を差し込み回すとカチャリと音を立てて鍵が開いた。
部屋の中はベッドと小さなテーブルとイスが置かれ、窓辺には小さな花が飾ってある。部屋の隅には小さいけどタンス置かれていた。小ざっぱりとしたいい部屋である。
早速カバンからさっき買ったばかりの服やタオルを出してタンスに仕舞う。
次に財布を出して所持金を数えてみる。結果はこんな感じだ。
――財布――
小金貨 1枚
銀貨 5枚
小銀貨 9枚
銅貨 3枚
――――――
ふむ、ざっと計算してみたけど、どうやら最初は小金貨5枚分、50,000ソルぐらい入ってたらしい。
あの王女様、アンジェリーナ王女だっけ。約束通り半年分のお金を用意してくれたみたいだな。
でも多めに貰っておいて良かった。おかげで解呪費用も払えたし、他の必要な物も買えた。これなら宿代もあと20日分ぐらい払っても問題ないと思うけど、ご飯を食べてからそれは決めよう。ご飯準備しといてくれるって言ってたしそろそろ行くか。