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勇者ではないのでほっといてください!【旧太陽の勇者と月の巫女】  作者: 涙花
第1章 勇者召喚されたけど人違いでした。
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06

 外に出る為に歩いていると、言い争う声が聞こえてきた。

 

「そんなもん買い取れん」

「じゃあ、タダでもいいの。引き取ってよ!」

「断る!タダでも引き取れるか!そんなもん!!」


 何かの引き取りを依頼してるらしい。好奇心の赴くまま近づいて、後悔した。

 スカートを穿いた背の低いスキンヘッドの男が体をくねくねさせながら、おねえ言葉で店主らしき人に頼みこんでいるところだった。


 フリッフリのミニスカートを穿いているが、生物学上は間違いなく男だろう。

 どうして男って断定できるのかって?それはだな、上半身裸だからだ!あの立派な大胸筋、厚い胸板、間違いなく男だ。


 でも上半身裸で下はフリルたっぷりのミニスカートってのはなぁ…。個人の趣味に口を出すつもりはないけど、理解できないし、したくない。

 

 俺があまりの光景に動けないでいる間も、店主らしき人と女装男は揉め続けていた。

 でもタダでも引き取れないような物ってどんな物なんだろう?いや、タダより高い物は無いともいうし、関わらない方がいいよな。


 その時、女装男と目が合った。


(うわぁ…化粧もしてたのか……。これはもう兵器だな。誰か止めてやれよ)

 

 最初の衝撃からも回復していなかった俺は動く事は出来なかった。目を逸らす事もできない。

 

「丁度いいところに。君!これあ・げ・る。遠慮なんてしなくてもいいのよぉ。とっても珍しい魔具だけどぉー、ただであげちゃう!遠慮しないで、受け取って頂戴!」

 

 勢いよく捲し立てながら、駆け寄ると俺の腕に持っていた腕輪を嵌めて走り去ってしまった。走り方まで女より女らしい走り方だった。

 

「あっ!!おいこら待ちやがれーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

 

 店主らしき人がが呼び止めたが、振り返りもせず走っていった。実にいい逃げっぷりである。

 

 のろのろと腕の見てみると細い金色の腕輪が嵌っていた。

 腕から外してよく見てみる。表面に花のようものを中心に蔓や葉が描かれている。とてもきれいな腕輪だった。


 どうして買い取って貰えないんだ?それどころか、タダでも引き取ってもらえないなんて、こんなに綺麗なのに…。店主らしき人はこれがなにか知ってるみたいだし聞いてみるか。

 

「すみません。これって何…!?」

 

 足が動かない。根でも生えたかのようにピクリとも動けなくなっていた。

 

(なんだよこれ!全然足が動かない!?まさかこの腕輪のせいだったりするのか!?)

 

「もしかして動けないのか?」

 

 店主が気の毒そうな顔で聞いてきた。

 

「足が動かない。もしかして、この腕輪のせいだったりするのか?」

「…最近この街にきたのか?」

「今日初めて来ました」

「お前さん、運が悪いな…。それは呪いの腕輪だ」

「呪いの腕輪?」

 

「ああ。かなり特殊でな、人によって呪いが変わるんだ。捨てたり落としたりしても勝手に戻ってくる上に呪いも追加される。呪いの効果も最悪でな、アイツのあの恰好も喋り方とかも全部呪いの所為なんだよ」


 なんだと!?そんな危険な物を押し付けられたのか!


「………引き取って…」

「断る!!」

 

 ですよねー。俺だってお断りだ。誰が呪われると知ってて引き取るものか。

 

「呪いを解除する方法はないんですか?」

「神殿にいけば解呪してもらえるぞ。ただ寄付がいる。」

「いくらあれば足りますか?」

「呪い1つに小金貨1枚だが、その腕輪を持っている限り解除してもすぐにまた呪われるぞ」

「解呪してもまた同じ呪いに掛かるんですか?」

「いや、多分変わるぞ。今までもそうだったしな」

 

 このままここに突っ立ってるわけにもいかないしな。

 解呪して呪いが変わるならせめて動けるような呪いになるのを期待して一度解呪してみるか。

 

「神殿に行けない場合は来てもらえますか?」

「追加の寄付を払えばな」

 

 くそ、仕方ない。

 

「追加の寄付も払うので呼んでもらえませんか?」

「ちょっと待ってな。おーい、ヘレンー。ちょっと来てくれ!」

 

 奥の方から恰幅のいい年配の女性が顔を出した。

 

「はいはい。どうしたんだい?」

「このあんちゃんが、例の呪いの腕輪を無理やり押し付けられちまってな。動けなくなっちまったんだ。ちょっと神殿にいって解呪できる神官様か巫女様を呼んできてくれ」

 

「そいつは災難だったね。でも寄付を払えるのかい?」

 

 心配そうにがヘレンさんが聞いてくる。

 

「大丈夫です。」

 

 財布の中には金色の硬貨が3枚ぐらいはあった気がするから多分大丈夫だろう。

 

「そう、じゃあ呼んでくるよ」

「すみません。ありがとうございます。」

「困った時はお互い様さ。気にしなくていいよ」

 

 ヘレンさんが神殿から神官か巫女を連れてきてくれるまで俺はこのままか………。


「はぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」


 大きな溜息が零れる。

 だって仕方ないだろう。寝ている間に異世界召喚され、勇者の偽物扱いされ、挙句の果てには呪われるってどんだけついてないんだよ。


 でも俺に腕輪を押し付けた奴、呪いの所為でああなったんだよな。なんで呪いを変えなかったんだ?一度解呪して別の呪いに変えればよかったのに。


「この腕輪を俺に押し付けた奴はどうして呪いを解呪しなかったんですか?解呪すれば呪いは変わるんですよね?」

「それはアイツが馬鹿だったからだ。どうしてああなったか知りたいか?」

「はい」

「そうか、なら教えてやろう。あいつの最初の呪いは、『早漏』だった」

「・・・・・・・・・」


「しばらく気付かなかったらしいが、そのことに気付いたあの馬鹿は腕輪を捨てた。だが、次の日の朝気がついたら捨てたはずの腕輪が腕にあって、2つ目の呪いに掛かっていた。2つ目の呪いではな、小さくなったんだと」

「…なにが小さくなったんですか?」

「なにって、アレだよ、大事な息子に決まってんだろう」

「・・・・・・」


「そしたらあの野郎また捨てたんだよ。捨てると呪いが追加されて帰ってくるって気づいてなかったみたいでな。3つ目の呪いで毛が無くなった」

「・・・・・・・・・」


「一夜にして全身ツルツルになっちまってな。そこでようやくあいつは呪いが増えてる事に気付いた。だが、あいつはまたしても腕輪を捨て4つ目の呪いで女と喋るときは女言葉でしか喋れなくなった」

「・・・・・・・・・・・・」


「こうしてあいつは呪いが増えると分かっているのに、腕輪を9回捨てた。5つ目で今度は体が縮み、6つ目で喋るときくねくねするようになり、7つ目で女言葉しか喋れないようになった。8つ目で内股でしか歩けないようになって、9つ目でスカートしか履けなくなった。そして10個目の呪いでとうとう不能になった」


「・・・・・・・・・・・・・・・・」


「そりゃあショックだよな。俺もな、流石に同情したよ。同じ男としてこの呪いはあんまりだと思った。だが試しに1つ解呪してみたら『スカートしか穿けない呪い』が『丈の短いフリルたっぷりのスカートしか穿けない呪い』になっちまったんだ。あとは腕輪を誰かに押し付けてから呪いを解呪するしかない。だが、呪いの腕輪の話が広まりすぎて、誰もあいつに近寄らなくなった。うかつに近づいて腕輪を押しつけられたら困るからな」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「おい。大丈夫か?」

「ダイジョブダヨ」


「いや、なんか喋り方おかしくないか?」

「ソンナコトナイヨ」


 同じ男としてその辛さは分かる。でもなんだよ。この呪いのチョイス!途中から明らかに変な方向にいってるだろ。新しい世界の扉を開かせるつもりなのか!?俺にはそんな趣味はないし、これからもその世界の扉を叩くつもりはない!



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 ぼんやりとヘレンさんが帰ってくるのを待つ。


 そういえば解呪にはお金がかかるんだよな。財布から出していろいろ言われるのも嫌だし、いくらかポケットに入れて、財布は隠しておこう。

 早速財布からお金を取り出してポケットに入れ財布はズボンの中に隠す。これで準備万端だ。


 ヘレンさん早く帰ってこないかなぁ。長時間このままだといろいろと我慢できなくなってしまう。パンツとズボンを履きかえるような事が起きないうちに帰ってきて欲しい。


「神官様に来ていただいたよ」


 願いが通じたのかヘレンさんが帰ってきた。


「すみません。ありがとうございました」

「どういたしまして」


 おばさんの後ろには白いローブのような服を着た男の人が立っていた。どうやらこの人が神官様らしい。


「あなたが、呪われてしまった方ですか?」

「(なんか改めて言われると、ショックだな。)そうです」


「本当は神殿まで来ていただかなくてはいけないのですが…」

「(わざわざ来てやったって言いたいのか?)ここから動けなくなってしまって、困っておりました。お優しい神官様に心から感謝いたします。ありがとうございました」


 俺は笑顔で礼をいうと、深く頭を下げた。

 解呪してもらわないといけないんだから、機嫌を損ねるような態度はとれない。


「困っている者を助けるのは当然です。ですが、神への感謝を忘れてはなりませんよ」

「(感謝の気持ちを表せってことか。)はい、呪いが解けた折にはわたしなりの精一杯の感謝を捧げたいと思います」

「殊勝な心がけですね。その心を忘れてはいけませんよ。では、解呪を行いましょう」


 ブツブツと呪文らしきものを呟き始める。声が小さいから良く聞き取れないな。これが詠唱なのか?

 まあ解呪してもらえるならなんでもいいや。


 そして呪いの腕輪さん。新しい世界への扉は勘弁してください。あと、新人だけど冒険者だから、冒険者に不利な呪いも勘弁してください。


 呪いの腕輪に新しい呪いについてのお願いをする。聞いてもらえるか分かんないけど、もしかしたら聞いてもらえるかもしれないし…。


 男としてのプライドが砕けようとも我慢するので、新しい世界への扉と冒険者に不利な呪いだけは勘弁してください。よろしくお願いします!


「悪しき力を討ち払いたまえ。解呪(ディスペル)


 神官の声が響いた次の瞬間、体が軽くなった。

 足を動かしてみると、きちんと動く。全身を動かしてみたが、どこにも違和感などはない。どうやら足が動かない呪いは解呪出来たようだ。


 腕輪は相変わらず腕にあるから他の呪いには掛かってるのだろうが動けるようになっただけでもありがたい。


「ありがとうございました!!」


 動ける嬉しさから、満面の笑みで神官にお礼を告げる。


「私の力ではありません。全ては偉大なる神の御力です。感謝ならば、神へ捧げてください」

「はい。本当にありがとうございました」


 俺はあらかじめ財布から出して上着のポケットに入れておいた小金貨1枚と銀貨を2枚取り出した。


「田舎から出てきたばかりの為、これだけしか無いのです。わざわざ来ていただいたのに、申し訳ございません」


 神官に渡しながら、申し訳なさそうな表情で謝る。渡されたお金をちらりと見た神官は不満そうだ。


「本当にありがとうございました。偉大なる神とお優しい神官様に感謝いたします」


 重ねてお礼を言って、深々と頭を下げ続ける。


「………いえ、これからも神への感謝を忘れてはなりませんよ」

「はい」

「では、私はこれで失礼します」

「ありがとうございました」


 神官が神殿に帰っていくのを見送って、俺は肩の力を抜いた。



「はあ。良かった。足りないっていわれたらどうしようかと思った」


「いくら渡したんだ?」


 店主が聞いてくる。俺がいくら渡したかまでは見えなかったようだ。


「小金貨1枚と銀貨2枚」


 俺はニヤリと笑った。


「持ってるの全部ってのは嘘か?」


 呆れたように言う店主に俺は笑いながら言う。


「ここまで来て解呪してくれたの助かりましたけど、所持金全部渡したら飢え死にします」

「それもそうだな。ところであんちゃん、本当に体に異常は無いのか?」


 店主に心配そうに聞かれた。ヘレンさんも心配そうに俺を見ている。


「大丈夫です。特に異常は感じません」


 体は自由に動くし、髪の毛もある。少し歩いてみたけど、内股にもなってないし、おねえ言葉にもなってない。もちろんズボンを履いている。新しい世界の扉は開けなくても済んだようだ。ホント良かった。


「そうか。ならいいんだが…」


 店主の心配そうな視線を俺の下半身、はっきり言うと股間に感じる。俺も心配だが流石にここで確認するわけにはいかない。


「冒険者になるのに支障がない呪いならいいんだ」


 呪いの腕輪さん、希望を聞いて頂きありがとうございました。捨てたりしないので、これ以上は呪わないでください。


 俺は心の底からそう願うのだった。


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