03
寝て起きたら異世界でした。
最近小説や漫画で流行っている異世界トリップを、まさか我が身で体験する事になるなんて思わなかった。
ここ1年ぐらい突然ふらっと居なくなり、1ヵ月ぐらいでひょっこり帰ってくる幼馴染であり親友の海斗が2ヵ月ぶりに帰ってきた。行方知れずになるのは今回で3度目、折角受かった高校にも一度も行ってない。一体どこに何しに行ってるのか知らないが、出かけるならせめて一声かけて欲しい。これでも一応心配しているのだ。
いろいろ話したい事もあったし昨日の夜は海斗の家に泊まりに行った。今度からは一声かけてから出掛けろと文句を言ったら何やら達観した顔で『僕もそう思う。だっていろいろ予定だってあるんだよ。最初は腹が立ったんだけど、3回目ともなると、なんかもうね、人間諦めも肝心なのかなって…』と訳の分からない事を言い始めた。これ以上触れない方が良さそうだったから、それ以上聞くのは止めたけど海斗は海斗で大変だったのだろうと無理やり納得した。
そのあとは学校の事や授業について教えて一緒の部屋で寝た。そして目が覚めたら異世界にいた。海斗、心配してるだろうな。自分の家で友人が失踪したら心配するよな。申し訳ない。
「お待たせいたしました。異世界の方」
元の世界で心配しているであろう親友に心の中で謝っていたら、王女様が戻ってきた。王女様の後ろにはさっきはいなかった男がいた。腰に剣を下げているから騎士、かな?その手には俺が頼んだ物と思われる品を持っている。
「こちらがご希望の品です」
王女様が後ろの騎士に合図して渡されたのはこの世界の服1式と靴とお金だ。
「ありがとう」
「いえ、ご迷惑をお掛けしてしまったのはこちらです。お金の種類などについては巾着の中に入ってるメモに書いてあります」
「分かった。服はここで着替えてもいいか?」
寝てたから俺の服装は長袖のTシャツにジャージだ。出歩けない服装じゃないけどここは異世界。変わった服を着て面倒事に巻き込まれるのは御免だ。幸い髪と目はこの世界では珍しくない普通の色らしいので、この世界の服を着ても違和感はないだろう。
「はい。今から着替えられますか?」
「ああ」
「では、私は外でお待ちしておりますわ」
王女様はそう言って部屋の外に出て行った。ドアが閉まるのを待って俺は着替える。シンプルな服だったので着替えはすぐに終わった。着ていた服はきちんと畳んで服と一緒にあった袋の中に入れるる。王女様に声を掛けると部屋に入ってきた。
「とてもよくお似合いですわ」
「ありがとう。これで準備も終わったし、出て行くよ」
「…そうですか。本当に申し訳ありません」
王女様が悲しそうな表情で謝る。
「もういいよ。失敗したものはしょうがないし、絶対に帰れないって決まったわけじゃないしな。それじゃもう行くから」
「本当に、申し訳ありません。城の外まではこの者がご案内いたします。…ニヒト、異世界の方を城門までご案内して差し上げなさい」
「はっ。異世界の方こちらへ、城門までご案内いたします」
「よろしく。王女様、助けてくれてありがとうな」
王女様にお礼を言って部屋を出ると、ニヒトという騎士が城の外にある城門まで連れて行ってくれた。
「真っすぐ歩いて行くと門があります。その門を越えた先が平民が暮らすエリアです。ギルド支部もあるので、冒険者になるなら行かれた方がいいですよ」
「教えてくれてありがとう。行ってみるよ」
「いえ。それでは私はこれで失礼します」
無表情にそう告げると、踵を返して城に戻っていった。親切だけど愛想のない人だったな。その背中を見送りつつ、そんな事を考えていたら門番の人に睨まれたので、俺も外に向かって足を踏み出した。
城門から1歩外に出たらそこには、大きくて白い建物が立っていて、見える建物は全て白で統一されている。外壁の色まで決められているのだろうか?。建物大きさからみても恐らくこの辺りは、貴族が住んでいるエリアなんだろう。
建物を眺めながら歩いていると門が見えてきた。門の傍には兵士が立ってたけど、止められることなく通ることができた。
門を抜けた先は、こじんまりとした感じの建物が多く立っている。素朴な感じがして落ち着く景観である。さて、それじゃあ予定通り、冒険者ギルドに行ってみるか。
目が覚めたら異世界にいた。
異世界召喚テンプレの勇者召喚と思いきや人違いで俺は勇者ではなかった。
勇者じゃないからチートもない。元の世界にも帰れない。
仕方ないから元の世界に帰る方法を探しつつ、異世界トリップテンプレの冒険者になってみようと思います。