02
男の怒鳴り声で目が覚めた。朝っぱらからなんだよ。うるさいな…。
そう思って目を開けるとそこは知らない場所だった。
目の前には中世ヨーロッパの様な格好をした奴らが4人いる。なにやら揉めているようなので、そのまま話を聞いていると驚きの事実が判明した。
ここは異世界で、勇者召喚したら俺が現れた。でも勇者は黒髪黒目、俺は金髪、黒髪じゃないから勇者じゃないという事になるらしい。てゆうか勇者が黒髪黒目って東洋人限定なのか?
そんな事を考えていると、もう一回勇者召喚をやるってことで落ち着いたらしい。そろそろいいだろうかと思って声を掛けようとしたら、腹の出っぱた頭部がツルピカな奴が俺をどうするのか『国王陛下』に確認している。忘れられているのかと思ってたけどちゃんと覚えていたらしい。元の世界に帰してくれるのだろうか?
「目障りだ。処分しろ。」
処分ってなんだよ。抗議しようとしたら王女が口を開いた。
「お待ちください。お父様。偽物とはいえ、私たちが間違えて召還してしまった者です。殺してしまうのは可哀そうです。」
間違えて召喚しといて偽物ってひどいだろう。
「おお、アンジェリーナは優しいな…ではお前の優しさに免じて放逐としよう」
「寛大なる国王陛下のお慈悲に感謝いたします。ありがとうございます、お父様」
勝手に召喚しといて放逐するとか酷いだろう。腹が立ってきた俺は立ち上がって声を上げる。
「処分とか放逐ってなんだよ。人違いなら俺を元の世界に戻せ!」
4人が驚いたように俺を振り返る。俺が起きているのに気づいていなかったようだ。
パトリックとか宰相とか呼ばれていた頭部が残念な親父が目を吊り上げて怒鳴る。
「偽物の分際で、高貴な我らになんという口のきき方だ!」
「偽物偽物ってうるさいんだよ。間違えて召喚したのはそっちだろう!」
苛立ちのまま怒鳴り返す。勝手に召喚しといて偽物扱いってなんなんだよこいつら。
「なんだと!」
パトリックが顔を真っ赤にして更に怒鳴ってくる。言い返そうとした時、
「落ち着いてくださいませ。キャンベル宰相閣下、異世界の方」
落ち着いた声音でお姫様が止めに入った。
「しかし、偽物の分際でこのような無礼な態度…!」
「召喚に失敗し、勇者様以外の方を召喚してしまったのはわたくしたちの責任です。異世界の方、ご迷惑をお掛けしてしまい、申し訳ございません」
お姫様が頭を下げて謝罪する。
「じゃあ元の世界に帰してくれ」
「出来ません」
即答されました。
「……今までの勇者達で帰った人とかいないの?」
「伝承では魔王を討伐後に帰られた方もいらっしゃるようですが、帰還方法までは伝わっておりません。魔王は強大な力を持っていて、対等に渡り合えるのは勇者様以外におりません」
「魔王を倒せば帰れるかもしれないけど、魔王を倒せるのは召喚された勇者だけ。勇者が召喚されて、その勇者が魔王を倒すまで俺は帰れないってこと?」
「そのとおりですわ。」
勇者が召喚されて、魔王を倒すまで帰れないか・・・。
いや、それも絶対ってわけじゃないからな。とりあえず魔王については勇者に任せるか。俺は他に帰る方法がないか探して、もし見つかったら勇者と一緒に帰ろう。うん。そうしよう。
「さっき俺の事は放逐するって言ってたよな」
「ふん。我らが偉大なる国王陛下とお優しき王女殿下のお慈悲に感謝するのだな。」
パトリック宰相が忌々しげに口を挿んでくる。いちいち煩い奴だな。
「放逐ってことはここを出た後は自由にしていいんだよな?」
煩い宰相は無視して王女様に確認する。
「はい。ですが、異世界から来られた事は絶対に他言しないでください」
「分かった。俺も面倒な事には巻き込まれたくはないしな」
「ありがとうございます」
王女様が微笑んでお礼を言う。
でも出て行くのはいいけど、このまま追い出されるのは勘弁だな。
寝てたから着てるのはTシャツとジャージだけ。服と靴、あとしばらく生活できるぐらいの金は欲しい。むしろそれぐらいは貰ってもいいよな。
「それと出て行くのはいいんだけど、服と靴、あと半年ぐらい生活出来る金が欲しい。その後は自分で何とかするから…駄目か?」
俺がそう告げると、お姫様がきょとんとした表情で見返してきた。
「服と靴とお金ですか?」
「あぁ、この世界でこの服は目立つだろ?変な奴に絡まれたくない。金を稼ぐのもすぐには難しいだろうし、しばらく生活出来る金とこの世界の服と靴。それだけ貰えればあとは自分でどうにかする。そっちには今後一切関わらない」
「よろしいでしょうか?お父様」
王女様が国王に確認する。
「よかろう。そのかわり受け取ったらすぐに出ていけ」
「言われなくても貰ったらすぐ出ていってやるよ」
そう返事を返すと、国王は俺を睨みつけてから部屋を出て行った。その後を宰相が追いかけていく。こいつも俺を睨んでいくのは忘れなかった。
「異世界の方、準備をしてまいりますのでこちらの部屋で少々お待ちくださいませ」
そう言い残してお姫様も出て行ったしまい、残ったのは俺と神官長のみとなった。
静寂と異様な緊張感に包まれた部屋の中でじっとしていると、神官長が口を開いた。
「申し訳ありませんでした」
俯きながら、そう謝ってきた神官長を見て俺は溜息をついた。
「はぁ。もういいよ。誰だって失敗する事はあるんだし、失敗したもんはしょうがない」
「本当に申し訳ありません。」
「いいって。それよりこの世界の事教えてくれよ。やっぱりギルドとかあるのか?」
これ以上暗い雰囲気になるのがいやなので、この世界について聞いてみる事にした。
「ございますよ。冒険者ギルド、魔法ギルド、商人ギルドなどがございます」
おお、やっぱりあるのか。ここはやっぱり冒険者ギルドだよな。
「冒険者ギルドに入るにはどうすればいいんだ?」
「ギルドに入られたいのですか?」
驚いたように聞き返された。
「あぁ、もしかして制限とか試験とかあるのか?」
「いえ特に制限や試験などはありません。ギルドに行って登録すれば入れますよ」
良かった。試験とかあったらどうしようかと思った。
「良かった。ここを出たら行ってみるよ」
「元の世界でも冒険者をされていたんですか?」
「いや、戦争してる国もあったりしたけど、俺が住んでた国は治安もいいし平和だったよ。やっぱりこの世界って魔物とかいるのか?」
「はい。命を落とす冒険者も少なくありません」
「そっか…でもせっかく異世界に来たんだしな。この世界でしか出来ない事やりたいんだ」
「……そうですか」
神官長が若干呆れを含んだ目で俺を見ているが、仕方ないだろう。
異世界と言えば冒険者これは鉄則だ。きっと俺じゃなくても冒険者になる奴はいる。絶対に。
でも元の世界に戻れたとしても『異世界に行ってました』なんて言えないよな。頭がおかしくなったって思われて檻付きの病院に入れられるのがオチだよな…。
それにしても、海斗心配してるだろうな…。自分の家で友達が忽然といなくなるなんてホラーだし、迷惑だよな…。ゴメンな、海斗。