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返礼

 幽霊や化け物や、その他諸々の出来事が、何らかの形で一応解決し、安定した日々が戻ってきた。


 そんなある日。いつものように登校し、自分の教室に向かっていると、教室の入り口に見慣れない人が、複数たむろしていた。その集団の中を通って教室に入るのは恥ずかしいので、どこかに行くまで時間をつぶすため、振り向こうとしたその時。


「お前、宮野だろ?」


 ばっちり目があって、しかも話しかけられてしまった。俺としたことが、リスクを回避し損ねたようである。だからと言って回避が可能であったかどうかは怪しいが。


「え、ええ。そうですけど…」


 ぞろぞろと俺のほうに近づいてくる見慣れぬ人たち。数えると7人だった。その7人ともが3年生のようで、ということは原因は1つしか考えられなかった。


「宮野一姫さんの弟だな?」


「は、はい、そうですけど…?」


 不幸にも予想は当たってしまい、これから面倒なことに巻き込まれるのは必至であった。とはいえ、姉がこのような状態になってしまったのは、俺の責任によるところが大きいので、一方的に姉を責めることはできなかった。


 責めることはできなくとも、助けを求めるくらいは許されるはずだ。


「(というか、早く助けてくれ)」


「ごめんね九ちゃん。迷惑かけちゃって。でも、心当たりがないから何の用なのか聞いてみてくれない?」


「あの、それで、僕に何かご用でしょうか?」


「一姫さんは今留学中なんだよな?」


「は、はいそうですが…?」


 というか、この人たち近いよ!話し合う距離じゃなくて、これはもう殴り合う距離なんですが?恥ずかしいを通り越して恐ろしいんですけど。まあ、辱められるのが恐ろしいんだけど。


「あー、連絡先。連絡先を教えてもらえないか?」


「はい?(どうすんの?この人たち姉ちゃんのファンなんだろ?)」


 姉は俺と違って交友関係が広く、異性にも人気があるので、おそらくこういうことだろうと思っていたのだが。ちなみに、次点は姉にのされた仕返し。こっちじゃなくてよかった。


「だから、一姫の連絡先教えろっつってんの!」


「この屑どもがぁー!九ちゃんを脅すなんていい度胸じゃねぇか!あと、どさくさに紛れて私のこと名前で呼んでんじゃねぇよ!」


 だいぶ怒っていらっしゃる。この人たちは姉に直接聞けなかったんだろうな。それで、姉がいないのをいいことに、ちょろそうな俺から聞き出そうとしたと。たぶんそんな感じだろう。


「九ちゃん!」


 少々かわいそうな気がしないでもないが、本人に教える気がないのだから仕方ない。俺は姉の言葉を復唱する。


「先輩方が、姉とどんな間柄か分からないので、お教えすることはできません」


「はぁ、そんなことはどうでもいいんだよ。ちゃっちゃと、…」


「まぁ、待て。落ち着けよ。」


「俺たちは一姫さんのクラスメイトで、仲のいい友達なんだ。一姫さんが急に留学したもんだから、元気にやってるか心配になってね?それで、連絡先を聞きたいんだけど」


「仲がいいのなら連絡先を知らないのはおかしいでしょ?」


「ちっ、こまけぇことはどうでもいいだろうが!黙って教えろや!」


「だから落ち着けって。ここだと周りに迷惑がかかるからね。ちょっと移動しようか?」


 俺はあっけなく人気のないところへと連れ込まれてしまった。いやいや、7人から逃げるのは無理だって。


「九ちゃん。いざという時はお姉ちゃんの力を使っていいからね?とりあえず連絡先を教えて…」


「(いや、流石にあの力を使うのはまずいだろ)」


 だとしても、この期に及んで、連絡先を教えるだけでは済まなそうだと分かっていたし、直接でないにしろ断ってしまった手前、はいどうぞと教えるのは恥ずかしかった。


 だからと言って、殴られでもして顔に絆創膏を張るはめになったら恥ずかしい。でも、あのままからまれてるのを大勢にみられるのよりは恥ずかしくないかな?なんてことを考えていた。自分の置かれている状況が全く理解できていない。


「どうしても教えてくれないのかな?」


「先輩方が誰であろうと、姉にとって他人も同然の先輩方に、連絡先を教えるつもりはありません」


「ちょっと、九ちゃん!?そんなこと言ったら!」


「こいつ、こっちが下手に出てるからって調子に乗りやがって!」


「こっちはどうしても教えてほしいんだ。そう、どうしても、何をしても、ね?分かるかな?」


「…とはどう…ていい」


「あぁ?聞こえねえよ!」


 一番近くにいた男が俺の胸ぐらをつかんでくる。


「そんなことはどうだっていいんだよ!俺はお前らみたいな群れることしかできない、1人じゃ何もできない屑が大っ嫌いなんだよ!教えるわけねぇだろうが!さっさと消えろ屑が!」


「てめぇ!もういっぺんいってみろ!コラァ!!」


 胸ぐらをつかんでいた男が、拳を振り上げ、殴りかかってくる。


 しかし。


 その拳が俺の顔面に届くことはなく。


 イメージしたとおりに白く光る鎖が、腕に巻きついているのが俺には見えた。


「な、なんだ?何でうごかねぇ…」


「あれあれ?もしかして先輩ビビっちゃいましたぁ?」


 動きを止められた男は訳が分からず混乱していた。その混乱はほかの男にも伝わっているのが見て取れた。


 俺はこの隙に逃げようと思ったのだが、


「何を逃げようとしているのかな?話はまだ終わってないんだけど。もしかして怖くなったのかな?」


 遮られてしまった。


 しかも、今度は全員で同時にやるつもりのようだ。


「九ちゃんに手を出すんじゃねぇよ!!呪い殺すぞ!九ちゃん!早く連絡先を教えて!」


「(そんなに興奮しなくても大丈夫だって)」


 とはいったものの、全員の動きを同時に止めるイメージができるかどうか、自信はあまりなかった。失敗して怪我をさせるわけにはいかないのだ。


 こういう時に助けに来てくれるのが友達なのだろうが、あいにく俺は友達が少なかった。


「先生!早く!こっちです!」


「お前たち何をしている!」


「やべぇっ!」


「逃げるぞ!」


「おい!コラ!待てぇ!!」


 どうやら誰かが先生を呼んできてくれたようだ。助かった。でも、誰が?女子の声だったようだけど、こんなことされたらうれしくて好きになりますが。


「弟君、大丈夫だった?」


 森岡先輩だった。あぁ、まるで女神のようだ。


「はい、ありがとうございます。助かりました」


「弟君と3年の男子が歩いてるのを見かけたから、つけてみたらこれだもの。ホントあいつらサイテーよね?寄ってたかって、こんなか弱い子に」


 本人にか弱いというのはどうなんだろう。俺はどう見ても屈強ではないので、間違ってはいないのだろうが。


「でもかっこよかったわ。お姉さんキュンとしたもの」


「え?………もしかして聞いてたんですか?」


「うん、ばっちり!」


「忘れてください!忘れてください!僕は何も言ってないし、先輩は何も聞いてない!いいですね!」


「何よ、そんなに顔真っ赤にして。恥ずかしがることなんてないのに」


「とにかく忘れてください!もう教室に戻りますから!」


 ああ、なんてこった。まさか聞かれてたなんて。ああ、恥ずかしい。というか聞いてたんなら早く助けてくれよ!まあ、先生を呼びに行って、先生が来るまで待っていたんだろうけど。それにしても聞かれてたなんて。何でおれはあんなことを。


「うん。お姉ちゃんもびっくりしたよ」


「(最初は、姉ちゃんには助けてもらってばっかりだから、俺も何かお礼をしようと思ったんだ。態度を急変させれば一歩引いてくれるかなぁなんて思ったんだけど、途中から本当に頭に血が上って、力を使っちゃうし、お礼になってないし、むしろ迷惑になってるし…)」


「そんなことないよ?お姉ちゃんとっても嬉しかったからね?」


「(…それならいいんだけど)」


(うん。お姉ちゃんとっても嬉しかったよ、九ちゃん)



 

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