弐福神:今年は子年だよ!
……も、申し訳ありません(-言-;)小説に重複が見られましたので修復致しましたm(__)m
人間、生きてれば何らかの危機に直面することもある。それは心、または身体に残る小さな事だったり、または生命、己の存在に関わることだったり……。
そして今、俺にふりかかろうとしているのは、紛れも無く後者の方だ。
「……んだよ、コレ…」
目の前に広がる異様な光景。紅い月に照らされた学校。それより高く、山の様に盛り上がる紅い光の集合体。その光りに照らされるモノは、うごめきながらこちらの様子を伺っているように思えた。
(これがヒロフミが言ってた化け物……なのか?)
光りの逆行で影に包まれながらも、威圧感を放つモノ……そして、次の瞬間それは動いた。
「!?」
咄嗟に四肢を弾いて後ろに跳び、崩れるように倒れ込んできたモノを回避する。
「!? ……単体じゃないのか!?」
少々距離をとり着地すると、さっきまで俺が居た場所は、黒い何かの塊によって埋めつくされている。
「……んだよ、こいつは」 さっきまでは紅月の逆光でよく見えなかったが、倒れ込んできた今なら分かる……。
「こ、こいつは―――」
「―――ネズミ!?」
夜の散歩は俺の日課だ。程よい暗さは心を落ち着かせてくれるし、何よりも静かなのがいい。
ケド……今度からはやめようと思う……。
「おぃおぃ……冗談やめてくれよ」
片膝をつきながら周りの状況を確認する。紅く光るはネズミの瞳。大量に光る紅い瞳は今や俺をすっかり取り囲んでいる。
「……俺がネズミに何かしたかよ……!? ちっ!」 不協和音な鳴き声と共に、ネズミの塊が俺めがけて波を打つ。
「このっ……天!」 被さるように突っ込んできたネズミが俺の身体に触れた瞬間、右足で思いきり地面を蹴り、左足を軸にコマの要領で高回転する。
そんな俺に触れたネズミの波は勢いよく肉片に成り果て飛び散る。が、その中でミキシングを避け、生き残ったネズミが今度は単体で飛び掛かってくる。
「くっ、化け物の被害者第一号になってたまるか!」 少し腰を落とした俺は、背筋を少し曲げ、両拳を腰の位置に構える。
「連撃昇華!」
手足、四肢の連携コンボを駆使し、飛び掛かってくるネズミを吹っ飛ばしていく。
(……ちぃ、強くはないケド……数が多すぎる!)
もう何匹肉片に変えただろうか、ネズミの勢いはやむ事なく、地から湧いて出て来るように突っ込んでくる。
(……このままじゃ守りのスタミナ勝負か……なら―――)
イメージするのは鋭利な刃物。それを身体の表面に貼付ける。
そして攻撃は舞うが如く……。
「―――時雨…」
攻守逆転。ネズミに向かい、俺は突っ込む。
殴らず、蹴らず、ただ触れるだけ。身体に纏った鋭利な気の衣はネズミの存在を消失させる。
「……ふぅ…」
一息ついてから辺りを見回すと、もう俺に向かってくるネズミの姿もなく、どういう訳か、肉片に変えたネズミすら消えていた。 「…本当何だったんだ……アレ」
さっきの非現実的な出来事に俺は困惑する。あれが本当に化け物の正体なのか? でも、普通じゃあんなこと起こらないし、ありえないことだ。
が、その考えは次の瞬間、感じ取った悪寒に掻き消された。
「!?」
背筋を氷が滑り落ちるような悪寒。さっきのネズミとは格が違う。
「今度はなんだ!?」
悪寒がはしった方とは逆方向に跳び、姿勢を低く、奇襲に備える。
「……な……」
それはいつからそこに現れたのか。唖然とする俺が目にしたのは宙に浮かぶ何か。視認出来ないのは暗いこと、その何かに纏わり付く大量のネズミと、地面からあふれたネズミが俺に向かって飛んで来たからだ。
「……くそっ! 上等だっ!! ただじゃやらねぇ!!」
恐怖感はない。ただ、逃げるのは嫌なだけ。
第二波、ネズミの大津波。俺はそれに向かって大地を蹴って突き進む。
「あぁぁぁっ!!」
踏み込んで放った俺の拳とネズミがぶつかり会うその瞬間。いきなり俺の周りの地面が輝きだし、夜空に向かってのびる。
「なっ!?」
パァーンという甲高い音と共に、光りの中にいたネズミが粉々に弾けとび、散る。
「……何が起きた……」
一瞬、光りに目が眩んだが、すぐに慣れた俺の瞳が見た光景は異様なものだった。
……目の前、光の円柱の外ではまるで時間が止まったかのように固まるネズミ。そこに確かな存在を確認できるが、まるで気配を感じさせない。
「……頭がおかしくなったか……俺は?」
今すぐにでも光の円柱から離れたいと思ったが、裏腹に身体がそれを拒絶する。仕方がなく頭を回し、辺りに目を向けると宙に留まる葉、微動だにしない木。
「本当に時間が止まっているのか……」
生気を感じない辺りの雰囲気に俺の思考は困惑する。
「あの〜?」
「!?」
いきなり聞こえた声に鳥肌が立つ。
「もし〜? 聞こえますか?」
「なんだ!? 誰だ!」
姿の見えない声に俺は声をあげる。
「あ〜、よかった聞こえてましたか」
暢気な声に逆に警戒心が高まる。
「なんなだ、お前は! 姿を見せろ!」
「あ、失礼しました」
急に目の前に白い球体が現れ俺の周りをグルグルと飛行する。
「すいません、人間の前に出て来るのは久しぶりなもので……」
「人間の前って……お前は何者なんだ!? 一体何が起こってるんだよ!?」
俺の問い掛けに白い球体は上下に揺れる。
「ん〜、今説明するのはちょっと無理ですね……時間を止めていられるのも後少しですし……。所で、貴方に聞きたいことがあるんですが?」
「……なんだよ?」
「……貴方、まだ闘えますか?」
「……はぁ!?」
……そして何かが始まった。
『一家に一匹、人喰パンダ』




