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壱福神:夜のグランドは始まりの場所

短いですケド、とりあえず。

 夜、俺は一人家の道場で座禅を組みながら今日、ヒロフミが言っていた事を考えていた。

「俺は見てねぇーケド、最近増えてんだよ……化け物を見たって奴がさ」

「…化け物ねぇ……おぉ、コワ」

「……信じてねぇな、ユーキ?」




「信じられるわけ……ねぇだろ!!」


 足の指で床を弾き、一気に正座から中腰姿勢になると、そのまま目の前にある木製の板に向かって一気に加速する。

「ふんっ!!」

 右足を深く踏み込み、腰から出した右拳が板に触れる。

 その瞬間、板の中心が炸裂音とともに破裂し、床に散らばった。

「……はぁ」

 ゆっくりと出した右拳を戻すと姿勢を直し、深呼吸をする。

「化け物……いたら手合わせ願いたいね」

 闘いが三度の飯より大好きな爺さんに鍛えられて早十年。爺さんは色んな格闘技、戦闘術、我流の技を見て……その中で特に気に入ったものを自己流にアレンジして、俺を実験台にした。

 怪我、死にかけること多々。けど、確かに俺は爺さんの技をものにしてきた。

「……そのおかげで最近じゃこんな事まで出来るようになったし」

 俺はさっきブっ壊した厚さ一メートルの板の破片を見ながらため息をついた。




「今日は満月か……しかも紅い……。」

 胴着から家着に着替えた俺は、不吉な月を見ながら外を散歩する。蒸し暑さが続く夜も今日はいくらかマシに思える。

「こんな夜には俺も化け物に会えるかもねぇー」

 一つ背伸びをしつつ、家に帰る前に学校に寄ることにした。



「んっこらしょ」

 学校の正門を丁寧に飛び越えるとグランドに足を進める。さして広くはないグランドの真ん中には、先生が朝礼などで立つような台があり、そこに寝そべると紅い月に視線を向ける。

「明日もいいことありますよう……!?」

 願事のさなかいきなり感じた不穏な気配に俺は跳び起き、中腰のまま辺りを見据える。

(…なんだ……この気配……。爺さんのものとは違う……ってか爺さん確か中国にいる人喰いパンダと闘いに行ってるはずだっけ…) 辺りにはグランドを照らす心細いライトが一つ。

段々増してくる不穏な気配に俺は静かに四つん這いになるとなめまわすように瞳を細めた。

(なんだ……何が起こってる?)

 辺りに充満する殺気にも似た気配……動くに動けない。

 どれくらい経っただろうか、額から流れた汗が頬を伝わる。

「!?」 

 と、いきなり背後に強い視線を受け、咄嗟に後ろを振り返る。

「!? ……んだよ……コレ……」

 視線を向けた先に見えたのは学校程に膨れ上がった山……。そして―――




―――紅く、無数に光る小さな輝きだった。

「デーダラボッチがでぇたぁぞぉ〜」

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