零福神:プロローグ
梅雨の時期になり、初夏の蒸し暑さが始まる頃……さして大きくもないこの町、『仰天』の町長は何を考えたのか、急遽『町おこし』をやるとか言い出しやがった。
初めは
「何してんだか……」とか他人事みたいに思ってたんだケド、このことがきっかけで日常からよく分からない、非日常な生活が始まるなんて思ってもみなかった……。
あーあーああああーああーああああー……
朝。
一昔一世を風靡した…と思う着うたで目を醒ますと、目の前には最近育て始めたアロエで臭くなった俺の部屋。一つ、背伸びをしてジェルベットから身を起こすと、俺は窓を開ける。すると、窓から入り込む初夏の心地いい暖かい風。そして―――
ガガッ、ガガァァァァ……
「……うっせぇっ!!」
俺の大声も掻き消される程の騒音。最近業者が来て行った外からの防音をしっかりしないと、ゆっくり過ごせやしない。
(ったく、早く終わんねぇーかな…この工事)
朝食をすませ、外に出るといっそう耳をつんざく工事の騒音。
こうなったのは一ヶ月前だろうか……。いきなりうちの町長が『町おこし』をやるとか言い出して、都心へと続く大規模な道路なんかを作り始めた。そのせいで道路周辺に住む俺はモロ被害を被っている。
「よっ、ユーキ。相変わらず騒音がうるさいな」
ふと、自分の名前を呼ばれて振り返ると、そこには金髪のツンツン頭、同じクラスの『籏野 拡史』が苦笑いをしながら立っている。
「……おぉ、ヒロフミ。…まだまだ終わりそうにないな、この工事は」
俺も苦笑いをヒロフミに返すと、学校へと続く道を歩く。
少しすると、学校が見えてきて、俺とヒロフミは正門に足を踏み入れる。
……と、その時ヒロフミが急にそわそわし始め、俺に顔を近づけてくる。
「……! おっ!? ユーキっ!! あそこに芹沢さんがいるぞ!!」
「何っ!? 芹沢さんがっ!?」
多くの生徒が登校中で賑わう、校舎へと続く道。そんな生徒達の視線を浴びている女の子は―――
『芹沢 深雪』
我が学びの庭、『仰天高校』に首席で入学し、女子の中では身長も高い方で、その抜群のスタイルや、艶やかで腰まである長い髪、夏用の制服から覗く白い華奢な腕について性格までいいときたら非のつけようがない。二年生になった今でもその人気は衰えることを知らず、逆に上昇し続けている。……ちなみに男の影は全くなし、告白者撃退率は男女含め百パーセント……。
「マジで可愛いぃぃ!! あれなら男子と言わず女子からコクられても不思議じゃねぇなっ」
ヒロフミが腕を組みながら何か満足そうに頷いている。
「……確かに…。あれだけの容姿を持ってればな」
「あーあ、何? この貧困感!!」
「おいおい、妬むなよヒロフミ。お前だって黙ってりゃイケメンだぜ?」
「……その言葉そっくりそのままお前に返す」
「……ほっとけ」
キーン、コーン、カーン、コーン……
朝のホームルームも終わり、一限目の国語の授業が始まる。
視線を斜め右横に向けると、そこには凛と立ちながら教科書を音読する芹沢さん。俺はそんな凛とした彼女を見ながら、今日もまた同じクラスになれたことに感動する。
「そーいや、ユーキ」
っと、斜め前に座るヒロフミが控えめに振り向くと、俺に声をかける。
「あぁ? なんだ??」
音読する芹沢さんに夢中な俺は、半ば右から左に受け流す感じに耳向け、そんな俺にヒロフミが言葉を続けた。
「ユーキは知ってるか? 最近起きてる仰天町の怪奇現象について」
「……怪奇…現象??」
「そっ、怪奇な現象!」
小声だが好奇心に満ちたヒロフミの声。
それがこれから始まる非日常の日々に繋がるなんて思っても見なかった。
「だまってればカッコイイ」……言われてみたいね。




