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十二支学園  作者: 美也
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いじめっこいじめられっこ(猫子 BL)

猫×子の幼馴染みBL。


子主人公。

昔々。俺がまだ幼かった頃の話。その頃の俺にはとても仲の良い親友がいた。俺より小さくて笑顔が他のどんな子より可愛い子。いつも一緒にいて一緒に遊んで一緒に笑って。楽しかった。


なのに、その関係を、俺は壊してしまった。


凍えるように寒い日の放課後、掃除をしながら同じグループの友達と話していた短い時間。その日あいつは確か職員室へ行っていていなかった。寂しいと思いながらも他の友人とつるみ。風邪気味で鼻はズルズル喉はガサガサいなまま皆と笑い喋っていた時。


「あいつさ、あいつ。ズボンはいてっけど、本当は女なんだぜ」


話の前後は思い出せない。ひょんなことであいつの話になった時、急に悪戯心が疼いてポロリそんなことを言ってしまった。その辺の女の子より可愛かったけど、男なあいつ。他のやつも知ってるし、俺もあいつを女の子だなんて思ったことはない。ただ女の子にも見えるってだけで思い付いた下らない嘘。ただの、ほんの小さな出来心。


けど、それをちょうど帰ってきたあいつに聞かれた。


目が合った時は怒るか拗ねるかどっちかの反応だろうと思っていた。なのにあいつは何も言わず駆け出した。踵を返す瞬間見えた顔が泣きそうで、傷付けたことに気付いた俺は頭を殴られたような衝撃に息が止まった。


傷付けた。

どうしよう。

謝らなきゃ。


慌てて追いかけたけど追い付けず、とぼとぼと帰ったその日の夜。マフラーや手袋を付けずに外を走り回った俺は高熱で寝込んだ。熱にうなされながらずっと謝らなきゃと思っていたのに、そうして休んでいた数日の間にあいつは遠くへ引っ越してしまっていた。


それ以来、俺は誰にも彼にも嘘ばかり吐いている。


まったく別人の名前を名乗るだの豪雨の前日に明日は晴れるだの数学教師は実はヅラだのなんだの。

つまんない小さなものばかりだがしょっちゅう吐き続けていれば信用をなくすのは当然で。現在、俺は学園一の嘘つき小僧として名を馳せている。


俺が言うことなんて誰も信じない。

俺が言うことの殆どが嘘。

俺はつまんない嘘つきだ。


だから、あれもただの嘘なんだ。

ただのほんの出来心だったんだ。

だから。だから……。


本人に届くわけないのに、懺悔のように他愛ない嘘を吐き続ける俺は何て滑稽なんだろう。

自嘲しか浮かばない行動だが止められず。今日も俺は嘘を吐く為ふらりと人を探した。



「ねぇ、噂の嘘つき小僧ってキミ?」


「え?ちがうよ?」


放課後誰もいなくなった教室で鞄を掴んで帰ろうとした俺に見知らぬ誰かが声を掛けてきた。シラッとまた嘘を吐いてその横を過ぎようとする。が、急に立ち塞がれた。扉も閉められた上、高い所から見下ろされたのが不快で睨む。そんな態度を取ったというのに相手は全く気にした様子なく小首を傾げた。


「ねぇ。僕のこと、おぼえてない?」


「あー、おぼえてるおぼえてる。用務員のよっちゃんだろ?おぼえてるから通してくんない?」


なんか面倒そうだからさっさと帰りたいのに通り抜けられそうもない。苛立ちながら見上げた顔は、随分と綺麗な顔をしていた。こんなやつ、やっぱり見た事もない。

しかしニコッと笑ったその顔に、なんとなく引っ掛かりを覚えた。首を傾げて見ていると、忘れちゃった?とそいつが出した名前は、俺の前から消えたあいつのもので。


「……え?」


「久し振り?」


小首を傾げて笑うそいつから、息を止めジリジリ後ずさって離れる。マジで?嘘だろ?でも、確かに面影が。いや、でも……。

考えては振り出しに戻る自問自答にグルグルと目を回し掛けていると、そいつは苦笑しながら話し出した。

また親の都合でこっちに戻ってきたんだ。クラスメイトから学校の説明聞いているときキミの名前が出てきてさぁ。なんか嘘つき小僧なんてあだ名がついてるって聞いて。ビックリしちゃったよ。それでさぁ……。


スラスラと話される言葉が俺の耳を右から左へ流れていく。

ほんとに?本物?

嘘?幻覚?

本物ならなんで笑顔で俺に接する。

あの時のこと、忘れたのか?


固まって目の前の顔をただ茫然と見上げていると、そいつは困ったように眉を下げて口を動かした。


「それで、さ。僕、キミに謝んなきゃなんないことがあるんだ」


「……えっ、な、に」


思わぬ台詞に口の中で言葉がつっかえる。逆に頭の中では想いが溢れ返った。謝らなきゃなんないのは俺だ。謝りたいのは俺なんだ。

そう言いたいけれど色んな言葉が我先にと動いて渋滞し口から出ない。鞄を胸に押し付けて身体を小さく屈め、ビクビクとしながら言葉を待つ。す、と息を吸ったそいつは迷うよう伏せていた目を俺に向け、口を開いた。


「昔、キミ、僕のこと女なんだぞーって言ったこと、あるよね」


ヒュッと呼吸が止まる。

覚えてた。忘れてなかった。

ザッと血の気が引いて背筋が凍る。謝らなければと思うのに音が出ない口を何度も開閉しているとなぜか目の前のそいつが複雑そうな顔をした。


「あれ、……ほんとなんだ」


「……は?」


パカリと顎が落ちた。きっとすごく間抜け面。そんな俺をよそに目の前のこいつは苦笑して話を続ける。


「事情あって男のかっこしてっけど、ほんとは女」


「……え?」


「隠してたのにずばりあてんだもん。さすが親友?」


……は?

明るく、ケラケラ笑って話す声は耳に入らず。今言われたことが頭をぐるぐる回る。たっぷり考えて考えて。すごく考えて口からぱっと飛び出した言葉は。


「う、嘘ぉ!?」


「うんウソ」


「……はっ?」


短く告げられた言葉に我が耳を疑って固まる。え?今なんて。……嘘?


「びっくりした?」


ニンマリ目を細めたそいつが口に手をあてククッと笑う。悪戯っぽい表情に反応できないでいると


「また会えたら仕返ししてやろうと思っててさ」


「あ、」


「これでお相子」


「え?」


またにっこりと笑った顔は記憶の通りで。懐かしさと安心がじわじわと沸いてくる。

許してくれるのか。また仲良くできるのか。


ほっと息を吐いて笑うそいつを見上げる。落ち着いた胸に、今なら謝罪の言葉も素直に言えそうだと涙が滲みそうな目をしっかり開いて口を開こうとしたのだが。


「しっかし見事騙されてやんのー!騙されやすいのは昔っから変わんないね~」


ケタケタ指を指して笑う姿にあの最後の日以外の記憶が甦る。あぁ、そうだ。こいつはこんな、人をおちょくるようなやつだったと。

一瞬にしてカッと血が全身を巡り、言いおうとしたことが全部引っ込む。代わりに昔泣きながら言っていた台詞が頭に浮かんで。


「お、お、」


「うん?」


「お前なんか嫌いだー!」


体を押し退け扉をバシッと音を立てて開く。バタバタと大きな足音を立てながら走り去った後の教室では、嘘吐き、と笑い声が響いていた。



『いじめっこいじめられっこ』

『どっちがどっち?』

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