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十二支学園  作者: 美也
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神経質とおおらか(亥酉 BL?)

亥×酉の教師陣。カプと言うよりコンビ。


酉主人公。

扉の小窓から教室内を見回し誰もいない事を確認しては部活の賑わいが響く板張りを踏み進む。この階で最後、と足を進めると奥の方から笑い声が聞こえてきた。覗けば橙色の光が柔く落ちる机に長い影を作り、三人の生徒が思い思い話に花を咲かせている。鞄を床に置いたままいつまでも話し続ける姿にいい加減帰るよう注意を、と戸につこうとした手が止まった。


「いーなお前んとこの担任」


「そうか?普通じゃね?お前らんとこどうよ」


「あー、微妙」


「化学の先生だっけ?」


「んー」



「そっちの先生の方がいいなー」


廊下にいる存在に気も付かず、三人は互いの担任について言い合っていたがすぐに別の話題へ移る。それを黙って聞いていた俺は声を掛ける事なく戸に背を向けて歩き出した。



「はぁ……」


準備室のベランダへ出て日の当たる白いコンクリの上に座り込む。暖かな明かりに反し、吹く風は冷たく今の気分と合間って物悲しい。サワリと揺れる木の歯を見ながらさっき聞いてしまった生徒達の会話を思い返して、頭を垂れた。


俺が怖い?小言が煩い?

お前らが授業中喋ったり話聞かなかったりするからだろ。

勉強嫌?帰りたい?

俺だって嫌だし帰りたいわちくしょう。


厳しいと生徒に思われ煙たがられているのは知っている。それでもその姿勢は崩せないし崩すつもりもない。そう決めて必死になって。嫌われるとは分かっていて、覚悟してやっている事だけど。実際嫌われているのだと突き付けられるのはしんどい。


抱えた膝に顔を埋めて湿った息を吐く。うじうじと悩む癖は捨てたつもりだったのだがそう簡単には消えなかったようだ。こんな姿生徒に見せられないし明日の準備もあるし職員室にも行かなきゃいけないし。なのに動きたくない。寧ろこのまま家に帰りたい。


「はぁぁ……」


「お?誰かと思えば」


「……あ」


人の声に慌てて顔を上げると植え込みの前に一人教師が立っていた。生徒じゃなかった事にほっとしつつ聞こえないよう舌打ちをする。不思議そうな顔をする相手は、俺の最も苦手とする人物であった。


「どうかしたんですか?こんなとこで」


「……いえ、ちょっと考え事を」


長年この学校に勤めている彼は授業の分かり易さは勿論、人柄も良いらしく生徒からよく慕われている。それを羨ましくも妬ましいと感じたのはここへ来てから何度もあった。更に今は担任する生徒に自身を否定されたばかり。恨めしく憎らしい気持ちが沸いて上がるのがどうにも止められない。


もやもやとした胸の内を悟られぬよう平静な声で話をすれば生徒を探してここまで来たらしい。教室で数名が話していたと伝えれば礼を言ってくるり背を向けた。あっさりした様子にふ、と息を吐く。抜けた気をそのままに目の前の木に意識を移した。


「……どうしたら、生徒に好かれるんですかね」


一際強く吹いた風になぶられた木々に隠すよう呟く。

元来俺は気が弱く、年下にもあまり強く出られない性質だった。その為前の勤務先では生徒が言う事を聞いてくれず、学級崩壊になりかけた事がある。生徒にはなめられ他の教師には白い目で見られ……辛かった。

だから今度はそんな事がないようにとつい厳しい態度をとってしまっている。なめられないように。隙を見せないように。

そのお陰か一応話は聞くようになった。……けど、俺目指した教師とはこんなものだっただろうか。


「単に好かれるのは簡単です。適当にすりゃいい」


ぼーっと暮れなずむ景色に思いを馳せていると、とっくにいなくなっていると思っていた先生が真っ直ぐこちらを見ていた。


「授業も注意も簡単に。話し方とかも……、あぁ、友達感覚ってやつですかね」


サンダルをペタペタと鳴らして近付き俺の前に立つ長身を唖然と見上げる。何も言わない俺を気にした様子もなく話続ける先生はでも、と言葉を切った。


「それで生徒を指導できますか?」


「……いえ」


一時、そんな関係を目指した事がある。だが、それでは生徒は教師に付いてこなくなる。指導できなかったから後悔して、だが同じ轍を踏まぬよう気を張って、また後悔して。……どうすればいいんだろうか。


「教師は生徒の前では役者でなくてはいけません」


「……はい」


「生徒には優しい顔も厳しい顔も使い分けて接するものです。とくに厳しい態度というのは、生徒を指導するために必要なものですね」


「……はい」


「その指導は、なんの為にやることですか?」


なんでだっけ、と頭が回らぬまま見返していればぴんと指を立てて首を傾げられた。


「字の通り、生徒を導く為でしょう?」


「…………」


「生徒を想う気持ちをしっかり胸に接すれば、自ずと態度に滲み出て生徒にも伝わるものですよ」


「……そう、ですかね」


そう言って晴れやかに笑う顔を直視できずに顔を下ろす。

そう、ならばいい。だが、伝わるものだろうか。そもそも、自分は彼らを導く存在になり得るのか。

ぐずぐずとした思考に陥っていってきたところにまた明るい声が降ってきた。


「そりゃ伝わるのに時間はかかりますし始めの内は生徒に振り回されまくりますけどねー」


「……先生もそうだったんですか」


「?そりゃもちろん」


「…………」


地面を見つめて考え出した俺の頭に無造作に手が置かれた。


「何事も経験。あんたはまだ若いんだ。これからこれから」


「わ」


ぐしゃぐしゃと髪をかき混ぜられ声を上げるとカカカ、と笑いながら去る広い背中。乱された髪を撫で付け直しながらそれに追い付きたいなとぼんやり思った。



『神経質とおおらか』

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