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探偵Nの狂気


挿絵(By みてみん)



まえがき及び用語解説


 当作品のルビの多くは正しい読み方ではありません。

 ルビのふってある文字が読めない場合は辞書を引くしらべるか、テキストにコピーして再変換するなどして、正しい読み方を確認する事を推奨おすすめします。

意味が違う場合もありますので、どちらかというと辞書がお薦めです





探偵(エクスポーザー)

世界探偵協会(レーツェル)の探偵をそれ以外と区別して創られた造語

ときに現実世界のハッカーと揶揄されたことから生まれた




‘名無しのウィザード’の徒弟達(とリスペクター)

多くの悪行を暴いた事で知られる謎のハッカーの名や公開された手口を真似たハッカーやクラッカー達のこと

弟子を名乗るものが多いことからそう呼ばれる




(evil)を喰らう惡

evil は唯一神教文化によって生まれた悪の概念で「悪の枢軸を倒し米国の正義を証明しよう」などのように使われる

惡は武家によって生まれた悪の概念で、力ある無法者の意味として「信長は幕府を滅ぼそうとする大惡党だ」のように使われる




見立て殺人

推理小説用語で、通常は童謡や伝承を思い浮かべるように見立てられた殺人現場を装飾したものをいうが、後年では状況のみでそういわれる場合もある




そして誰もいなくなった

アガサ・クリスティの推理小説で見立て殺人を扱った最古の作品

題名どおり孤島に集められた人間全員が死亡

集められた人間は全員悪人で犯人は自殺という結末を迎える




日本人(バナナ)

自分達を先進国として西洋諸国を先進国でそれ以外を後進国として扱うことや、戦前に西洋列強の真似をした政策をとっていたこと、あるいは西洋型の体型に憧れたりというところから、外が黄色でも中身が白色と非白色系のアメリカ人が日本人を揶揄した言葉

GHQの占領政策のせいなので米国人にそれをいう資格があるのかとかは考えないようで、割と最近では白人も使う




たったひとつの冴えたやりかた

自殺したSF作家が書いた名作SF

感情や欲望を排除した論理以外が許されない場合があることを描き、多くのパロディやカルネアデスの舟板を組み込むなどの類似物語が書かれた。




‘’で囲まれた単語

基本的にはフィクション 検索してもでてこない





“ ”で囲まれた単語

 基本的には実在する 検索すると色々でてくるので止めておいたほうが無難









探偵Nの狂気探偵Nの狂気探偵Nの狂気探偵Nの狂気探偵Nの狂気探偵Nの狂気探







 



ボクは探偵だ。

 世界探偵協会(レーツェル)D級探偵、九頭竜乃亜(クズル ナイア)


 なんだD級か(たんていじゃない)と言われるかもしれないが、天才で(ギフトをもた)ない探偵の中では、これでもトップクラスの探偵だ。


 最年少最短でA級に上がってきた高校生探偵(めだちたがり)などのように、日本の誇りとまでは言われないにしても、純然たる(くもりなき)推理だけでここまでクラスを上げてきたのだから、誇れる(よしとすべき)ことだと思う。


 そう、ボクは探偵(エクスポーザー)だ。

 正義の味方ではないが悪の敵。

 感情を失くしてはいないが論理に生き。


 時に秘密をもって誰かを破滅させ

 あるいは罪無き人を泣かせても罪を暴く。


‘ 名無しのウィザード(ししょう)の徒弟達(とリスペクター)のように。

 ときに革命家(テロリスト)のように。

 ときに検察(けんりょく)のように


 (evil)を喰らう惡。

 罪を暴く罪人。


 だから、ボクは、非力な老人や女子供(ようぎしゃたち)と、血塗れで巨大で怪物じみた容貌の第一発見者(ようぎしゃ)を前に口にした。


「犯人に心当たりはありませんか?」


 その問いに対する答えを聞いた瞬間、ボク達全員を殺し尽くせる腐敗した血に塗れた怪物に脅える恐怖(にんげんせい)は消え、探偵(ボク)だけが残った。


 非力な老人? 


 いや、オード・シャティロンは世界政府樹立を叫ぶ‘人類統一戦線’の中でも過激な部類で、何の後ろ盾もなく理想を求める‘ワールデェア’達とは違い、目的の為に手段を選ばないことで知られた男だ。


 オードに破滅させられ自殺あるいは事故死した人間は3桁に達し、その中には汚職疑惑で罪を被った秘書が7人も含まれる。


 “ ほめ殺し ”という言葉が広まるもととなった政治屋や、“ アベノミクス ”という造語の基になった“ 自殺内閣の長 ”とは桁が違う汚れた権力者だ。


 これは、“ 原発の安全性を指摘されても対策を取らず原発事故の要因となった ”などの政治的な要因を除いたもので、世界政府樹立運動によるテロなどをオードの責任とするならば、その数は更に桁違いになる。


 もう一人のダン・ツァーミンはといえば、こちらも“ 中共 ”の暗部を代表する人物で大戦時に大日本帝国陸軍の“ 特務機関 ”と協力関係にあったため、暗殺や諜報を得意とし、清朝末期以後の世に知られている弾圧や戦争に全て関っている一族の元老だ。


 政治的思想などは権力奪取の道具としか考えず、敵対者を次々と事故死させていくと評判の男で、探偵協会(レーツェル)の調査ではその数は91人。

 間接的に殺した人間は当然こちらも数知れない権力亡者の象徴だ。


 財閥令嬢のメアリー・ジェイン・ハーストもまた19世紀から続くアメリカのメディア・コングロマリットの創業者一族で、戦争を煽りでっちあげや歪曲された報道で多くの被害を出し“ ジャーナリズムの敵 ”とまで言われた創始者の上をいくのではないかという毒婦だ。

 

 彼女の創った‘コスモポリタンウェィヴ’は、‘人類統一戦線’と呼ばれる多くの政治的経済的組織の対立を煽り、テロ戦争を起こし、メアリー・ジェインを非難する人間を破滅させ、大統領の暗殺や‘ワールデェア’弾圧も引き起こしている。


 25歳になる今日まで、3度の結婚をしているがそのうち2人は自殺、最後の一人は自家用ジェット機で山に墜落して、自殺とも事故死とも解らぬ最期を遂げた。


 本当に無力なのは警護対象のレーナくらいだろう。

 天才少女として名高く“ 実用可能な未分化細胞手術 ”に関する問題点を解決してしまったという少女で、父親は彼女に纏わる陰謀について‘名無しのウィザード’がハッキングによって知らしめた事件を題材にした物語のヒットで‘ワールデェア’の有名作家の一人となった。


 探偵は先入観(きせいかんねん)で動いてはいけない。

 これは恐怖と共に消え去った弱い人間(ボク)から生まれた無意識下のデータだ。

 それを、客観的に利用し事件を解決するのが探偵(ボク)の役割。


 そして純然たる推理と完璧な証拠で事件を解決するのがボクの手法(スタイル)だ。

 

 今のところヨシフ・ジュガシヴィリ殺害の最有力容疑者はオーベッド・ギルマン。

 だが、他の人間が共犯でないとは限らないし、精神障害のあるギルマンに容疑を推しつけたとも考えられる。


 ヨシフ・ジュガシヴィリはロシアの軍閥の有力者で民間軍事会社の名目で私兵を多く抱え、内乱や犯罪組織の掃討などに介入して、その国を骨の髄まで吸い尽くす死の商人だ。


 当然、恨みも多く買っているだろうし、この中の誰と利害対立があってもおかしくはない。


 それにボク達の中に犯人がいない場合もあるだろう。

 その場合ギルマンは本当にバラバラにされたヨシフを繋ぎ合わせて治そうとしたのだろう。


 引き千切られたヨシフの頭は間違いなく本人のものだ。

 頭といっても正確にはその半分で下顎の部分は腸の中で血と腸から漏れ出した糞便に塗れていたが、上半分でも間違いなく本人と判る。


 眼窩から垂れ下がった緑の瞳には見覚えがあったし、剥がれかけているとはいえ、紛れない銀髪も特徴的な鷲鼻もヨシフ・ジュガシヴィリのものだった。


 それらバラバラに引き千切られ裂かれたたパーツを一つに集めた奇怪なオブジェが彼の努力を表しているのだろう。


 まあ、それらは瑣末な事だ(にたいしたいみはない)


 問題はギルマンが言った言葉。

 邪神の呪いと七人ミサキだ。

 これはこのツアーの宣伝文句で“ 邪神に呪われた人を殺すことでしか消え去れない七人の亡霊が死にながら存在する苦しみに彷徨っているのがこの島 ”だというものだ。

 

 聞きようによってはこれは、連続“ 見立て殺人 ”の犯行予告だ。

 七人の亡霊が七人の人間を殺すならば“ そして誰もいなくなった ”がその結末だ。


 そういう意味ならば、殺人はこれで終わりではない。


「あなたは、これが邪神に呪われた七人の亡霊の仕業と考えているんですね?」

 それを確認するために質問をすると、ヒッと息を呑む音が聞こえる。


 見れば、メアリー・ジェインが青い顔でがたがたと震えている。

 間接的に人を死に追いやるのは得意でも自分が殺されるなどとは思っていない人間にありがちな反応だ。

 

 演技ならば最上級のものだろう。

 彼女が最も身近な夫という人間を欺き殺したとすれば、その可能性はある。


 たいして、修羅場を多く掻い潜っている老人二人はそう動揺を表していない。

 顔色が青いのは肉片と腐りかけの血と糞便の臭いで嘔吐したせいだろう。


 直接死体を見ていないレーナの顔も青いのは、ギルマンの体にこびりついた臭いのせいか、子供故の脆弱さだろう。


「ノロイ、コワイ。 ジャシン、シチニン、ノ、イケニエ、モトメテル。 シ、ノ、ギシキ、ダ」

 ギルマンがボクの質問にそう答えたの聞いた途端、ガタンと音がして、広間のソファーからオード・シャティロンが立ち上がって言う。

「私は部屋に戻る。 これいじょうつきあっていられるか」


「待ってください。 捜査のため、あなたにも御話を──」

「話など聞かなくても判ってるだろう! 犯人は──」

 ボクの言葉をさえぎり言おうとした言葉を途中で止めて、オード・シャティロンは怯えを隠そうとしたのか、大声で喚く。

「いいか! おまえには捜査権などないんだっ! D級探偵の捜査が認められているのは自国だけだっ!! おまえは日本人(バナナ)だろう! 黄色は黄色らしく大人しく我々の猿真似をしていればいいんだっ!!」

 そして、それだけいうとそのまま部屋へと去っていった。


 とても人類統一などという理想を語る男とは思えないが、オード・シャティロンの場合、世界政府樹立は理想などではなく手段なのだろう。

 白人の物真似をしている滑稽な黄色人というのは、本来は日本以外のアジア人から見た言葉なので確かにある意味では、国際的な視点の持ち主なのだろうが……。


「そうだね。 君は自重すべきだろう。 先の大戦で日本人は身の程を知ったはずだよ」

「気を落とさないで探偵さん。 あなたが精一杯やてることは判ってるわ。 御老人達は偏見が強いから」


 それが、契機(げんいん)となり、もともとボクなどまともに探偵と認めてなかっただろう他の二人もそう言い残してその場を去り、それに心細くなったレーナも部屋へ戻ると言い出して、結局ボクも護衛としてレーナについていなければならずに、捜査は打ち切られてしまった。


 人数の差などギルマンが殺人をするつもりなら関係ない。

 ギルマンが犯人の場合、ボク達が殺されていないのは邪神伝説の死の儀式に見立てているから以外の何ものでもないだろう。


 最初に一人、次に二人、そして四人の生贄が星辰の導きで捧げられ、邪神が目覚める。

 見立て殺人ならば、それがシナリオだろう。

 だから、別にあわてる必要はないのに、愚かしいことだ。


 こういうときばかりは、あのA級探偵(キザやろう)が羨ましくなる。

 上級の探偵となると、権限など関係なく洗脳しているんじゃないかと思うような場の誘導をしてのけるからな。

 

 完全な理性と完全な目的があれば、理想や欲望などといったくだらない感傷は不要だというのに、なぜこうも愚かな人間ばかりのだろう。


 まあいい。 この事件を完璧に解決して見せれば協会(レーツェル)もボクを認めるだろう。

 完璧な推理で全ての謎を暴き、犯人の心の闇を見抜いて、凶行を止めるのだ。


 あのA級探偵(いまいましいこぞう)のように、洗脳まがいの能力(ギフト)などなくてもボクにはそれができるはずだ。

 心理誘導のための材料は揃っている。

 さっきは相手が恐慌状態だったからうまくいかなかっただけだ。


「ねえ、探偵さん、大丈夫?」

 レーナが部屋に辿り着くなり、急いで鍵をかけてチェーンを繋ごうとしているボクの背中に声をかけてくる。


「ああ、もちろん。 こうしておけば直ぐに破られることはないし、これもあるからね」

 そう言ってボクは安心させるためにサイドホルスターから麻酔銃を取り出す。

「これで、直ぐに眠りそうもないのはギルマンくらいだし、その場合はこれで自分達を撃って死んだふりをすれば、誤魔化せる」


「そうじゃなくて……探偵さん、さっきからオカシイよ? なんかいつもの探偵さんじゃない。 なんだか機械みたい」


「ああ、君にはそう見えるんだね。 大丈夫だよ。 論理的に感情を排除して事件を解決するのが、ボクの手法なんだよ。 仕事モードだと思ってくれ」


「…………わかった。 探偵さんはワタシを守ってくれるんだよね?」

 まだ、完全に納得してないようだが、レーナはボクを受け入れる。


 レーナにはボク以外に頼れるものはいない。

 これなら、言うとおりに行動してくれるだろう。


 ボクは探偵で彼女は護衛対象。

 彼女の感情や信頼など瑣末な事だ。

 その身柄を依頼者に引き渡すまでは最優先で守る。


 それが、探偵として自分の安全よりも優先させるべきことだ。

 他の人間がみんな死んだとしても彼女さえ生き残れば解決だ。

 そう、それが論理的で美しい“ たったひとつの冴えたやりかた ”だ。


「もちろんだ。 何があっても生きた君をお父さんのところに連れて行くよ」

 だから、ボクはレーア(けいごたいしょう)にそう約束した。









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