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「……うーん。何だか賑やかだなぁ」
○○○○は音のする方へと走り続けていた。最早耳を澄まさなくてもハッキリと音が聞こえる。硬い何かをガキンガキンと打ち合わせる様な音と……
「間違いない。コレは人間の声ですねぇ……」
○○○○は笑みを浮かべる。この先に人間が居ると確信したからだ。何故確信したか?それは聞こえてくる音が○○○○の最も聞き慣れたモノだった。
怒号と悲鳴。
ガキンガキンと何かが打ち合わされる音と共に聞こえてくるソレは○○○○がこれまで殺してきた人間達が最後に上げる断末魔と……そしてその行いを糾弾する人間達の声と同種のモノだったのだ。故に○○○○は確信したのだ。この先に人間が居ると。
その事に○○○○は興奮を隠せないと言った風に顔を上気させた。
「……!!おぉ」
やがて走り続けていた○○○○は眼前に広がった光景に目を奪われて足を止めた。そして己の中に狂喜と言う名の情念が灯った事を自覚した。
「あははははは。これはこれは!」
走り続けた○○○○の前に広がっていた光景。それは正に戦場と形容されるに値する凄絶極まる地獄であった。
☆☆☆
ガキンガキンと言う音の正体は、剣と剣が打ち合わされる事によって生じているモノであった。人間達は怒号を上げて殺し合い、そして断末魔の悲鳴を上げて死んでいく。辺り一帯は濃密な血の臭いに包まれ、無惨な屍がそこかしこに転がっている。
正に死屍累々。
しかし目の前に広がる地獄に○○○○は恐怖しない。むしろ心に生じた情念が更に燃え上がっていく。そしてこの狂気の宴に己も参加しようと思い○○○○は己の身体を動かそうとしたが、そこで一度思い留まった。
「……今は状況確認が先かなぁ?」
己の欲望を優先させたが故にドジを踏んで捕まり、そして死刑になったのだ。同じ過ちは繰り返すまいと○○○○は争っている人間達を注意深く観察する事にしたのだ。そして○○○○の立ち位置は小高い丘になっており、幸いな事に眼下に広がる戦場がよく見えた。○○○○はその場に腰を下ろす。すぐ隣に屍が転がっているのだが、そんな事は全く意にかえさずに。
「……ふーむ」
しばらく観察した結果、眼下の争いがかなりの大事らしいと言う事が分かった。屍の数も含めれば、一万は居るかもしれない。そして争っている人間達には明確な違いがあった。それは着ている甲冑の色が違うと言う事だ。片や黒を基調としており、片や赤を基調としている。そして赤を着ている人間達が黒を着ている人間達に取り囲まれる様にして戦っている。どうやら赤が劣勢らしい。転がっている屍達も赤を基調としている数の方が圧倒的に多い事からそれは明らかだろう。つまりもう少しで決着がつくと言う事だ。
「……うん、成る程ね。よいしょっと」
○○○○は戦況確認を終えると、一つ息をついてその場で立ち上がる。そして口元に笑みを浮かべながら隣に転がる屍の腰から剣を引き抜く。それはまごう事無き真剣であった。○○○○の世界は真剣を所持しているだけでも罰せられたし、なによりこんな殺し合いなど出来る筈も無かった。ではここは何処なのだろうか?
「ま、ここが何処でも別に良いんですがね!……っと」
○○○○は湧き出る疑問を振り払うかの如く、引き抜いた真剣を屍に突き立てる。するとズブリと肉を貫く感触が如実に感じられた。その感触をハッキリと手のひらに感じた事で○○○○は首をコキリと鳴らす。次いで笑みを浮かべる
○○○○は何故己が生きているのか、ここが何処なのかは相変わらず分からない。しかしここが己にとってこれ以上無い程の理想郷なのではないかと、そう感じたのだ。
「……はははっ。さてと、それでは参加しますかねぇ?」
○○○○は屍から剣を引き抜き、そして血を払う。そしてそのまま戦場に身を投じる為に歩きだすのだった。狂気じみた歪んだ笑みと共に……