「体重50キロ以上の女は愛せない」と言われて婚約を破棄されたので重力を破棄します
タック・サン・モブイール宮殿で開かれた盛大な舞踏会の夜。
「おまえとの婚約は破棄する!」
婚約者だった第一王子に体重をきかれて答えた直後に、私は婚約を破棄された。
「体重50キロ以上の女は愛せない」
それが婚約破棄の理由だった。
王子は隣の国——体重先進国であるカロリーヌ王国での留学を終えて帰国したばかり。どうやら、あちらの価値観に染まりきってしまったらしい。
舞踏会に出席していた貴族の中にも、隣国のプロパガンダに踊らされている者たちがいるようだ。
「そんな理由で婚約破棄を?」
「いや、王子の言うことにも一理ある」
「もはや体重50キロ以上の時代ではない」
「王太子妃の体重が50キロ以上では、国の威信にかかわる」
しかし、彼らは知らない。
この私は、神と人間との契約(重力部門)をつかさどる〈重聖女〉だ。
宮殿の中庭に出た私は、さっそく自分に対する重力を破棄した。
これで私の体重はゼロ。
そして、おもむろに放屁。その噴射の力で空に舞い上がる。これが私の返歌。
「浮いた!」
「50キロ以上の体が浮いた!」
「なんたる放屁!」
「もしかして軽いのでは⁉」
空を見上げて驚き騒ぐ貴族たちを尻目に、私はそのまま屁をこきながら帰宅した。
翌朝。
体重50キロ以上の女が屁で空を飛んだことを報じる新聞記事を読みながら、私は国家の行く末を案じた。
この国の頭は大丈夫なのだろうか。
体重先進国の影響を受けすぎだ。
50キロ以上の女を愛せなくなった、というだけならそれは勝手にそう思っていればいい。王子の頭の問題だ。
しかし、そんな理由で一国の王子が婚約を破棄していいわけがない。
契約よりも体重主義を優先する国家に未来はない。
王子には、国の中枢から外れてもらおう。
体重の虚しさを知る私にも、国を愛する心はあった。
まずはカロリーヌ王国の影響力を削る。あの国を統治する者たちには、少々ブザマな目にあってもらう。
私は隣国の王宮に作用している重力を調整し、夏の嵐で倒壊したように見せかけた。私の重力破棄と再契約のコントロールは完璧なので死傷者はゼロ。ただ純粋に笑えるだけの話となった。
カロリーヌが誇る古代のピラミッドも軽くした。そしてネズミの聖女にステーキをおごって協力を要請。ピラミッドはネズミの群れに押しまくられて我が国の領土へようこそ。
王室コレクションの中でも最高に価値があるとされてきた3000豆重の宝石も1カラットに。その直後、鑑定の聖女が突入させた国際鑑定団の調査によって偽物と判定された。
カロリーヌの王族や貴族の体重も、死なないていどの範囲で操作した。
「いくら食べても太らない体質」と豪語していた体重37キロの王妃は、再契約で100キロになった。体質よりも神との契約のほうが強い。天才はルールによって生まれる。
さらに貴族令嬢たちの体重も乱高下。吹き荒れる婚約破棄の嵐。
体重を理由にした婚約破棄が当たり前になっていたカロリーヌ王国の閨閥は、もはや私の思うがままだ。隣国の価値観に染まってしまった我が国の王侯貴族についても同様。
両国の上流階級にいる者たちの信頼関係と力関係を調整したところで、いよいよ第一王子を排除することにした。
この時、我が国の領土に運ばれたピラミッドの件は、当然のことながら国際問題になっていた。
ピラミッドの返還を要求するカロリーヌ王国。
自然現象なんだからムチャを言うなと主張する我が国。
戦争を回避しようとする穏健派の貴族たちの意見が通り、ピラミッドの置き場所は決闘で決めることになった。
決闘の種目はボクシング。厳格なルールと、細かく分けられた体重別階級制のもとで行われる最もフェアなスポーツだ。
我が国の代表は、もちろん第一王子。貴族たちの推薦で決まった。
彼はスポーツ万能。しかし、〈体重〉という才能には恵まれていなかった。
相手国の代表は、計量の時だけ王子と同じ体重になっていたヘビー級ボクサーのドルジサンドル・パッキャメイソン。
射撃と乗馬なら誰にも負けない王子は、リングという檻の中でアゴを砕かれて敗北した。これがボクシングの現実。
そして国際決闘裁判所の裁定により、我が国はピラミッドを返還することになった。
私との婚約を破棄したせいで決闘に敗れた王子は、今でもまだピラミッドを押している。




