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「だめだ。ディークも、お前も支部へ連行する」


 ロズエンの言葉は揺らがない。

 彼にはヘリオンが影狼の思想に染まっているか知る由もない。それはこれからの取り調べで判断することだ。


「いいことを思いついた」


 祖父の罪を孫が土下座して許しを請う、そんな場面には場違いな明るい声色だ。

 カーネリアンはヘリオンが投げ捨てた輝剣を拾い上げながら、嬉しそうに言った。


「ヘリオン。君は祖父であるこの男が村で何もしていなかったといったが、それは間違いだ。彼は一つだけ大仕事を成し遂げている」

「いや、そんなこと、村には輝石院との関係も、カンデラ教の教会もない。村の人に聞けば、ダスクがずっと村から出ていなかったって言うはずだ!」

「ああ、それについては私たちもこの男を捕まえた後で聞いて回ったよ。なにか怪しい動きはなかったかと。だが村の住民はそろってダスクは怪しいと言っていたが?」

「そ、それは村と仲が悪かったから!」

「彼は村の仕事を手伝いもせず、君に剣の修行をつけていたらしいな。それだけはどの村人の証言でも一致していた」

「影狼とか、犯罪みたいなこと俺たちはしていません。剣の修行だって他にはなにも、なにもなかったから……」

「それだよヘリオン。影狼とは関わりのない君に、なぜ彼は剣を教えた?」

「なぜって……」


 ダスクに残された唯一の価値は、剣の腕だけだった。それを残そうとしていただけだ。

 ヘリオンが村人との生活に近づいたときに、家族の繋がりを維持する方法は他になかった。

 ダスクは選べなかった。


「こう言った方が分かりやすいか。君が祖父から剣の修行を受けた結果どうなったか、だ」


 ヘリオンは自分の力に可能性を求めて村を旅立ち、その先で二人の騎士と出会った。そして騎士の部下である従者を、戦いによって打倒し、馬を盗んでこの場所にいる。

 それでは影狼とやっていることが変わらないじゃないか。


「お、俺のしたことはダスクとは関係がない!」

「大いにあるとも。君に抵抗する力がなければ大人しくセルゲイに捕まっていたはずだ。正義に反するその力は、誰から与えられたものだ?」


 老騎士の手には輝剣があった。ダスクの物でありヘリオンが持ち出した輝剣。


 従者セルゲイがヘリオンたちを捕まえようとしたとき、彼は輝剣ではなく魔法の紐を使った。

 彼は疑いはしたもののヘリオンとステアを傷つける意図はなかったのだ。先に輝剣を発動させたのはヘリオンだ。


「君たちが村で暮らしてきた時間は、光の道に繋がるといえるのかい?」

「そんな……」


 村で二人が過ごした十一年間。ダスクがそれまでの人生を捨てて得た寂れた生活と、ヘリオンが捨てたかった中途半端な人生。

 ダスクが犯した過去の罪と、ヘリオンが犯した罪によって、すべてが無駄になってしまう。


「私たちが君に示せる道が二つある。どちらにせよ、まずは君を連行させてもらうが、その後のことだ」


 カーネリアンは指を一本立てた。


「支部で取り調べを受け、影狼の幹部だった男について知っていること、君が今日行った従者への職務妨害についてを洗いざらい話してもらう。審問会へ引き渡し罪状が下され、地下牢でその罪を償う」


 二本目の指が立てられる。


「もう一つの提案だ。私はこちらを強く勧める。従者との一件は保留とし、身柄は騎士団預かりのものとする。その後、中央輝石院に入学してもらおう。そこで学び、白華の騎士になってもらう」

「カーネリアン卿!」


 ロズエンは抗議するが、カーネリアンはそれを無視してヘリオンを見据える。


「白華の騎士……あなた達と同じように?」


 白き一輪の花を背負い影狼を追う。

 光の神カンデラと、この国の秩序を守る者たち。


「君には知らなければいけないことがある。全てを知った後、もう一度証明してみせるといい。君の人生。君を育てた祖父。君が振るうその剣。その正しさを」

「俺が騎士になれたら、ダスクはどうなりますか」

「彼が尋問でどれだけ我々に協力的でも、過去に犯した罪は償ってもらう必要がある。だが、君が自身の正しさを証明することができるのであれば、それを贖罪の一つとして考慮しよう。少なくとも、影狼を離れ君と暮らしていた時間に罪はなかったのだと」


 ヘリオンが騎士となり、ダスクとの十一年間に、今までの人生に間違いがなかったのだと証明する。


 滅茶苦茶な理屈だ。目の前の騎士は自分を利用しようとしているに違いない。

 これからもずっとこういう事が続くのだろう。ヘリオンには確信的な予感があった。


 かつて村で、村人たちはヘリオンを山羊飼いにしようとした。

 ダスクの持ってきた財産を村の利益にして、残った孫も労働力として利用するために。

 けれどそれは、ヘリオンにとっては救いでもあったはずだ。村人が彼ら家族を迎え入れるために必要なことだった。


 ステアはヘリオンの才能を見出し、村から連れ出して自分の商売に利用しようとした。

 彼女がどれだけの利益をヘリオンから得ようとしていたかは分からないし、ヘリオンはステアに利用されることを受け入れた。

 ヘリオンにとっては救いの手でしかなかった。


 目の前の騎士は、騎士にするだけの利用価値がヘリオンにあると考えている。

 罪の償いという救いを餌にぶらさげて。平原で出会ったときにはこうすることを決めていたのかもしれない。


 見方を変えれば。

 ダスクから与えられた力を利用して、ヘリオンは騎士という身分を手に入れる。

 辺境の村で生まれた人間にとって望外の地位だ。


 きっとヘリオンが騎士になってもダスクが牢から出られることはないだろう。

 温情によって扱いが変わるかもしれないが、それを分かっていながら、救いを、許しを得るのだ。


 ただ旅がしたかっただけなのに。

 山羊飼いにもなれず、衛兵にもなれず、商人にもなれず、旅人にもなれなかった。何者にもなれなかった人生を全て捨てることも出来ない。


 ヘリオンがここまでしてきたことを証明するしかなかった。

 それによって意味を、救いを得られるなら、ヘリオンは騎士になるという提案を、受け入れる。


「わかりました」


 ヘリオンにとって、本当の旅が始まった。


「俺は、白華の騎士になります」


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