第29話 村の子供たちと遊ぶ日々
春の暖かい日。
リゼルは村の広場で、子供たちと遊んでいた。
「リゼルお姉ちゃん、鬼ごっこしよう!」
「いいわよ」
「やった!」
子供たちが歓声を上げる。
*
「じゃあ、最初は私が鬼ね」
「うん!」
「よーい、スタート!」
子供たちが一斉に逃げ出す。
「待って~!」
リゼルも追いかける。
笑い声が、広場に響く。
*
「捕まえた!」
「きゃー!」
一人の少女を捕まえる。
「次は、あなたが鬼よ」
「はーい」
少女が鬼になって、追いかけ始める。
「逃げろ~!」
子供たちが笑いながら走る。
*
しばらく遊んだ後、皆で休憩。
「疲れた~」
「お姉ちゃん、早いね」
「そうかな?」
リゼルは笑った。
「みんなも早いわよ」
「えへへ」
子供たちが嬉しそうにする。
*
「ねえ、お姉ちゃん」
一人の少年が言った。
「聖女様だった時も、こうやって遊んでたの?」
「ううん」
リゼルは首を振った。
「全然。遊ぶ時間なんてなかったわ」
「え、なんで?」
「忙しかったの。毎日、仕事ばかり」
*
「それって……つまらなかったでしょ」
少女が言った。
「うん、つまらなかった」
リゼルは正直に答えた。
「だから、逃げちゃった」
「でも、今は楽しい?」
「ええ、とっても」
リゼルは微笑んだ。
「みんなと遊べて、すごく楽しいわ」
*
「良かった!」
子供たちが笑顔になる。
「じゃあ、ずっとここにいてね」
「ずっと、一緒に遊ぼうね」
「うん、約束する」
リゼルは頷いた。
「ずっと、ここにいるわ」
*
午後、リゼルは子供たちに花の育て方を教えていた。
「まず、種を土に埋めるの」
「こう?」
「そうそう、上手ね」
子供たちが、真剣な顔で作業している。
「次は、優しく土を被せて」
「優しく……」
丁寧に、土を被せる。
*
「最後に、水をあげるの」
「はーい」
子供たちがジョウロで水をやる。
「これで、いいの?」
「完璧よ」
リゼルは褒めた。
「後は、毎日お世話すれば、ちゃんと育つわ」
「やった!」
*
「お姉ちゃん」
少年が尋ねる。
「これ、いつ咲くの?」
「一ヶ月くらいかな」
「そんなにかかるの?」
「うん。でも、待つのも楽しいのよ」
リゼルは続ける。
「毎日、少しずつ成長するのを見るの」
*
「それって、楽しいの?」
「ええ、とっても」
リゼルは微笑んだ。
「命が育つのを見るのは、嬉しいことよ」
「ふーん」
子供たちは、まだよく分からないようだった。
「でも、やってみれば分かるわ」
「うん!」
*
それから、子供たちは毎日花の世話をするようになった。
「お姉ちゃん、芽が出た!」
「本当? すごいわね」
「私のも出た!」
「みんな、頑張ったのね」
リゼルは嬉しそうだった。
*
子供たちは、花の成長を楽しみにするようになった。
「今日は、葉っぱが増えた」
「僕のは、茎が伸びた」
「私のは、つぼみができた」
毎日、報告し合う。
リゼルは、それを優しく見守っていた。
*
ある日、少女が言った。
「お姉ちゃん、花を育てるの楽しいね」
「でしょう?」
「うん。毎日、変化があって」
少女は笑顔だった。
「これが、命を育てるってことなんだね」
「そうよ」
リゼルは頷いた。
「よく分かったわね」
*
「お姉ちゃんが教えてくれたから」
「ありがとう」
リゼルは少女の頭を撫でた。
「あなたたちも、立派に育ててるわ」
「えへへ」
少女は嬉しそうだった。
*
一ヶ月後。
子供たちが育てた花が、一斉に咲いた。
「咲いた!」
「綺麗!」
「すごい!」
子供たちが大騒ぎ。
リゼルも、一緒に喜んだ。
「みんな、よく頑張ったわね」
*
「お姉ちゃんのおかげだよ」
「いいえ、みんなが頑張ったからよ」
リゼルは続ける。
「毎日、ちゃんとお世話したでしょう?」
「うん」
「だから、こんなに綺麗に咲いたの」
リゼルは微笑んだ。
「誇っていいのよ」
*
子供たちは、自分が育てた花を見つめていた。
「僕が育てたんだ……」
「私も……」
「すごい……」
達成感が、顔に表れている。
「嬉しいね」
「うん!」
*
その夜、リゼルは日記を書いた。
『子供たちが、花を育てました』
『最初は興味本位でしたが』
『今では、ちゃんと責任を持って世話しています』
ペンを走らせる。
『命を育てることの大切さを、学んでくれました』
*
『これが、本当の教育なんですね』
『言葉で教えるのではなく』
『実際に体験させること』
リゼルは微笑んだ。
『子供たちの成長が、嬉しいです』
*
窓の外、月が輝いている。
「神様、ありがとう」
呟く。
「私に、子供たちを教える機会をくれて」
風が吹く。
「これが、私の新しい役割なんですね」
星が瞬いた。
*
翌日、村長がリゼルを訪ねてきた。
「リゼル、頼みがある」
「何でしょう?」
「村に、学校を作りたいんだ」
「学校……?」
「ああ。子供たちに、読み書きや計算を教える場所だ」
*
「それで」
村長は続ける。
「お前に、先生をやってもらえないか」
「私が……先生に?」
「ああ。お前は、子供たちに好かれてる」
村長は笑った。
「それに、教え方も上手だ」
*
リゼルは、少し考えた。
「でも、私……教師の資格もないですし……」
「資格なんて、いらない」
村長は首を振った。
「大事なのは、子供たちを思う心だ」
「村長……」
「どうだ? やってくれるか?」
*
リゼルは頷いた。
「はい、やらせてください」
「本当か! ありがとう!」
村長は喜んだ。
「じゃあ、来月から学校を開く」
「はい、頑張ります」
リゼルは微笑んだ。
*
こうして、リゼルは村の先生になることが決まった。
「先生……か」
新しい役割。
「頑張らないと」
でも、不安はなかった。
「子供たちと一緒なら、きっと大丈夫」
リゼルは前を向いた。
(第29話・終)




