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弟は辛いよ  作者: 八月河
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叢林の牧歌 数年後

木々の茂った葉の間から陽光が差し込み、静謐な谷間にまだら模様の光と影を落とす。清らかな小川がせせらぎ、この世俗から隔絶された小さな天地に生命の息吹をもたらしている。数匹の肥えた羊と数頭の逞しい子牛が、谷に生い茂る豊かな牧草をのんびりと食んでいる。


小川のほとりでは、二人の身のこなしの軽い少年が忙しく動き回っている。年長の少年は、すらりとした体躯で、眉宇の間には生まれながらの英気が漂っており、まさにテムジン(鉄木真)その人である。彼は先端を尖らせた木の棒を持ち、周囲の動静を警戒しながら見守っている。一方、やや小柄な少年は、まだ体つきはいくらか頼りないものの、その眼差しは異常なほど鋭く、集中しており、ベクテル(別克帖爾)である。彼は地面にしゃがみ込み、簡単な罠を注意深く点検し、近づく可能性のある野ウサギや他の小動物を確実に捕獲できるようにしている。


彼らがタイチウト部(泰赤兀部)に追放されて以来、ベクテルが密かに準備していたこの谷は、一家が生き延びるための避難所となった。ここは人里離れているものの、十分な水源と食料があり、彼らに息をつく機会を与えてくれた。


「兄さん、今日の罠はどう?」


ベクテルは立ち上がり、泥のついた手を叩きながら尋ねた。


テムジンは振り返り、明るい笑顔を見せた。陽光が彼の顔を照らし、ひときわ精悍に見える。


「なかなかいいぞ。太ったヤマドリが一羽かかった。母上が今日、焼き鳥を作ってくれるぞ」


ベクテルの顔にも一瞬笑顔が浮かんだが、すぐにわずかな憂いに取って代わられた。


「でも、油断は禁物だよ、兄さん。この辺り、最近狼の足跡があるみたいだ」


テムジンは手にした木の棒を振りながら、気楽な口調で言った。


「心配するな、ベクテル。俺がいれば、あの畜生どもを家畜に近づかせない。それに、俺たちももう、昔みたいにただいじめられるだけの子供じゃないんだ」


この数年間、この荒野で生き残るために、テムジンとベクテルは並々ならぬ努力を払ってきた。テムジンは生まれつき負けん気の強さと統率の素質があり、その身のこなしはますます軽快になり、弓術も着実に上達している。一方、ベクテルは前世の記憶と、並外れた冷静さと細やかさによって、水源の発見、植物の識別、罠の設置などにおいて驚くべき才能を発揮している。


勇猛果敢な兄と、思慮深く抜け目のない弟。二人は草原で互いに支え合う二匹の若い狼のように、この一見穏やかな谷で、困難に立ち向かいながら逞しく生きている。母ホエルン(訶額侖)は、その勤勉な両手でこの質素な家をきちんと整え、草原での生き方を彼らに教えている。


「ベクテル、あっちを見て」


テムジンは突然、遠くの茂みを指差し、声を潜めて言った。


ベクテルはすぐに警戒し、兄が指差す方向を見た。茂みがわずかに揺れており、何かが近づいているようだ。


「気を付けて、兄さん」


ベクテルは握りしめた石のナイフに力を込め、鋭い眼差しでその茂みを見つめた。


しばらくすると、茂みの中から痩せたキツネが一匹現れた。キツネは警戒しながら辺りを見回し、素早く走り去った。


テムジンは安堵の息をつき、笑いながら言った。


「ただの腹を空かせたキツネだったみたいだな」


しかし、ベクテルは警戒を緩めなかった。彼は周囲を見回し、どこか不安な気配が漂っているように感じていた。


「用心するに越したことはないよ、兄さん。この叢林には、僕たちの知らない危険がたくさん潜んでいる」


「わかったよ、俺の小さな賢者」


テムジンはベクテルの肩を軽く叩き、からかうような口調で言ったが、その眼差しには弟への信頼と依存の色が濃く表れていた。


夕暮れ時、夕焼けの残光が谷全体を照らし、すべてを金色に染め上げた。テムジンとベクテルは家畜を追い立てながら、質素な放牧地に戻った。ホエルンはすでに篝火を焚いており、空気中には肉の焼ける香りが漂っている。


「今日はいい収穫だったわね、二人とも。」ホエルンは彼らが持ち帰ったヤマドリと元気な家畜を見て、安堵の笑顔を見せた。


「ベクテルの罠のおかげだよ」テムジンは笑いながら言った。


ベクテルは黙々と母の手伝いをして獲物を処理しながら、時折周囲の暗い叢林に視線を走らせた。心の中に残るわずかな不安感は、消えることがなかった。


夜が訪れ、篝火がパチパチと音を立て、一家の姿を照らし出す。テムジンとホエルンは篝火を囲んで低い声で話し、ベクテルは少し離れた場所に一人座り、夜空に輝く星々を見上げていた。


前世の記憶は彼に、彼らの目の前の平和は一時的なものだと告げていた。草原の情勢は予測不可能であり、より大きな危機が後に待ち受けている。彼はもっと強くならなければならない。兄と母を守るために、この残酷な世界で生き抜くために。


彼は握りしめた石の小刀に力を込め、心の中で固く誓った。いつか必ず、この叢林で最も警戒心の強い蒼い狼のように、彼の家族を守り、二度と傷つけさせないと。そして今、彼にできることは、この一時的な静けさが少しでも長く続くように、できる限りのことをすることだった。


夜風が谷間を吹き抜け、木の葉がサラサラと音を立てる。それはまるで、大自然の無言の囁きのようだった。ベクテルは静かに耳を傾け、その眼差しは夜空の星々のように明るく、そして揺るぎなかった。未来への道はまだ長く、未知に満ちている。しかし、彼はあらゆる挑戦を受け入れる準備ができている。彼のそばには、彼の兄と母がいる。彼らはこの異世界における唯一の絆であり、彼が前に進むための原動力なのだから。


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