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第9話 天の方舟 ~世界の中心で愛を叫んだ大賢者~

ハズラム教団に攫われた幼馴染を救出せよ!

「なんでお父さんが雨姉を攫うの?」


 杏樹の疑問はもっともだ。


「僕にもわからん」


「捕まえて聞きだすしかあるまいのう」


「オフクロは何か心当たりは?」


 オフクロは首を横に振ったが僕はなおも詰め寄った。


「オフクロは魔法だって使えるんだろ? だったら何か知ってるんじゃないのか?」


 そんな僕を諫めたのはニニアンナだった。


「エマーリン、そやつは宮廷魔術師シベールじゃ」


「オフクロが王国の宮廷魔術師?」


 ニニアンナのかわいい口からとんでもない事実が明かされる。


「わらわの予想が正しければ、おぬしの父親はハズラム教団の魔術師に間違いなかろう。各組織がおぬしを監視するために派遣した監視員なのじゃ」


「へ?」


 なんだコレ?


 家族だと思っていた人間が実はみんな他人だった。宮廷魔術師(シベール)ハズラム教団の魔術師(オヤジ)監視員(アンジュ)


「呑気に偽物と家族ごっこをしていた僕はさしずめマヌケな道化師といったところか」


 もしかしてこの世界そのものが偽物なのでは? そんな疑問を抱いているとニニアンナに言われた。


「おぬしは神がストレンジ・チャイルドの(つがい)として生成した大賢者エマーリンの模造生命体(シミュラクラ)なのじゃ」


「シミュラクラ」


 偽物なのは世界ではなく僕の方だったってオチだ。驚くどころか笑ってしまった。


「神が自ら生成したおぬしは『神の愛し子』なのじゃ。目を開いてしかと周りを見るがよい。そこに何が見える?」


 ニニアンナの言う通り周りを見てみた。


「血は繋がってなくてもアニキはうちの大切な家族だよ。クリだって好きなだけ触っていいよ」


 と杏樹が抱きついた。


「エマーリン様、出生など問題ではありません。魂こそが重要なのです。この身は永遠にあなた様のものです」


 とパーメラが寄り添った。


「隠していたことは謝罪するわ。でもわたしはあなたを愛してしまったの、ひとりの女性として。この思いは誰にも止められない」


 シベールが背中から抱きついた。


「あーしは子種さえもらえれば満足じゃん」


 ゴツン! パウエラは杖で殴られた。


「ニニアンナ様、痛いじゃん!」


「おぬしは黙っとれ!」


 杏樹のペッタンコの胸とパーメラの温もりとシベールな大きな胸を背中に感じる。


「うむ。思い悩む必要など全くないな」


 三人とも間違いなく僕の家族。そして連れ去られた幼馴染もまた。


「ハズラム教団め、家族(雨乃)に手を出したことを必ず後悔させてやる!」


 僕たちは旅館を出てオヤジたちの後を追った。



 * * *



 (あま)方舟(はこぶね)、温泉街の観光名所となっている古代遺跡。巨大な舟の形をした遺跡は古代の儀式に使われたとか、異星人と交流していたとか様々な説があるが、謎はいまだに解明されていない。


 オヤジと雨乃は天の方舟にいた。


「逃げても無駄だ、オヤジ!」


「ワイは逃げも隠れもせんのだな。なぜならこの杖があるからなのだな!」


 オヤジが手にしていたのは漆黒の杖だった。


「なんだあの禍々しい杖は?」


「無限に悪魔を召喚する杖じゃな。禁忌の杖として封印されておったはずじゃが」


「世界の支配者たるハズラム教団に封印など無意味なのだな。悪魔召喚!」


 オヤジが杖を振るうと地面に魔法陣が描かれ悪魔たちがゾロゾロと這い出してきた。


「『サンクチュアリ』」


 パーメラが聖域結界を張る。


「エマーリン様、ニニアンナ様、ここはわたしたちに任せて先に行って下さい」


「うむ、頼んだぞえ」


「任せる、パーメラ、パウエラ」


「任されたじゃん」


 僕たちはオヤジの元へ急いだ。


 ズズズズズ!


 突然地面が大きく揺れオヤジはニヤリと凶悪な笑みを浮かべた。


「瞠目するがいいのだな。ストレンジ・チャイルドに反応して起動する天の方舟の勇姿をだな」


 ゴゴゴゴゴ!


 丘が割れ地中から全長130メートルを超える巨大な方舟が浮上する。


「遺跡の地下に方舟が埋まっていたのか!」


 重力を無視して方舟はどんどん上昇していく。雨乃とオヤジの姿も遠ざかる。


「飛ぶぞい。ついて来れるかの?」


「問題ない。『風を纏い空を切り裂け、フライ!』」


 ニニアンナと僕は飛行魔法で追跡するが、こちらに気づいたオヤジが攻撃を仕掛けてきた。


「落ちるのだな、虫けらども!」


 方舟の先端から強烈なビームが迸る。


「『アブソリュート・プロテクション』」


 方舟から発射されたビームはニニアンナが張ったシールドに当たって上空に逸れた。


「『赤ん坊を手に入れた者が世界を支配する』とはこういうことじゃったのか。天の方舟は外宇宙の兵器だった可能性が高いのう」


「何千年も前の遺跡が動くなんてとんでもないテクノロジーだな」


 続いて第二派、第三派がシールドにぶち当たる。


「くっ! なんて強力なビームなんじゃ」


「ニニアンナ、しばらく耐えてくれ。僕がオヤジを止める」


「急いでくれ。シールドがいつまで持つかわからんのじゃ」


「『テレポート!』」


 舟の上に瞬間移動し、艦橋の扉を開けると、コンソールを操作していたオヤジが振り返った。操舵席の隣の席には赤ん坊になった雨乃が眠っていた。


「雨乃、目を覚ませ! ハズラム教団に利用されておまえは平気なのか!」


「残念だったのだな、エマーリン。赤子はぐっすりと眠っておるのだな!」


「オヤジ!」


 オヤジに向けて魔法を放つ。


「『風よ啓示せよ、ウィンドアロー』」


 ウィンドアローは見えない障壁に阻まれた。


「ならば、『無辺の知識の海より生まれし黒き渦、星々を喰らい尽くす虚無の闇、寂寥と終焉の旋律を混沌に満ちたこの宇宙(ソラ)に奏でよ、ブラックホール』」


「ムダムダムダ、なのだな!」 


 バリン!


 ブラックホールが砕け散った。


「S級魔法が!」


 どんな魔法も見えない障壁を壊すことはできなかった。


「フハハハ!」


 オヤジの高笑いが響き渡る。


「赤子と方舟を手に入れたハズラム教団はマルチバースの頂点に君臨するのだな!」


「エストガルドだけでは飽き足らず多元宇宙まで支配するつもりか? いったい何が目的だ!」


「我がハズラム教団はやがて外宇宙に進出し、より高次な存在となり神をも超えるのだな!」


「寝言は寝て言うのじゃ! 『破壊の渦に身を委ね、全てを焼き尽くす炎を放て。ヴォルカニック・デストロイヤー』」


 ズドドドド!


 ニニアンナの放った爆裂魔法が直撃し方舟は大きく揺れた。


「この程度の攻撃ではワイの方舟はびくともせんのだな!」



 * * *



「さて、そろそろエストガルドに帰還するのだな。方舟には多元宇宙航行装置が搭載されているのだな。複雑な魔法陣など不要なのだな」


「させるかよ!」


「おまえにはなにもできないのだな、エマーリン、いや、湊斗。己の無力さをとくと味わうがよいのだな」


 オヤジがコンソールを操作すると僕は舟の外にはじき出された。


「だめだ、このままでは……」


 天の方舟が光に包まれた。雨乃が次元の彼方に消えて行く。


(あきらめるでない! おぬしの声は必ずフィス・アメノに届く)


 頭の中に響いたエマーリンの声に後押しされて、虹色の魔石を天に翳して詠唱する。


「『虚空に響く無尽のエネルギー、我が声は全てを貫き通す音の波動。宇宙(ソラ)に響け! アストラル・ソナタ!』」


 アストラル・ソナタ。世界中に音声を響かせる魔法だ。


『雨乃!』


 初めて会った時のフィス・アメノの眩ゆいほどの輝きをエマーリンは覚えている。一瞬で恋に落ちた彼はエストガルドで命を落とした後も転生して追いかけてきた。一番近くで彼女を観測するために。


 年月を経て美しく成長した雨乃に僕は戸惑っていた。だけどそれももうお終いだ。僕は恥も外聞もかなぐり捨てた。


『好きだ、雨乃! おまえとエッチがしたい!』


 全世界に向かって叫ぶ。


『目を覚ませ、雨乃! 眠ったままだとエッチができないじゃないか!』



 * * *



「ばぶぅ!」


「赤ん坊が目を覚ましたのだな!?」


 方舟の艦橋をすり抜けて雨乃はふよふよとこちらに漂ってきた。


「行かせはせんのだな!」


 オヤジが攻撃魔法を放ったが見えない障壁に阻まれた。


「なな、だな!」


 今度はこちらがニヤリと笑う番だ。


「見えない障壁は赤ん坊を守るために発動していたのさ!」


 どんな攻撃魔法も赤ん坊には届かない。


「ばぶばぶぅ!」


 ふよふよと飛んできた赤ん坊を両腕でキャッチする。


「おかえり、雨乃」


 赤ん坊は小さな唇で僕の唇に吸いついた。


「赤ん坊はエッチをご所望のようじゃのう」


 ニニアンナが隣にやって来て言った。


「方舟からの攻撃はもう大丈夫なのか?」


「赤ん坊がいなければただの古代遺跡じゃ。見るがよい」


 光を失った天の方舟は地面に落下し地中に姿を隠してしまった。


「オヤジは?」


「中に残っておれば生き埋めじゃ。まあ脱出しておるじゃろうがな」


 地上に降りると召喚された悪魔たちは全て浄化されていた。


「パウエラ、パーメラ、よくやってくれた」


「お褒めに預かり光栄じゃーん」


「エマーリン様の弟子として当然の務めです」


「魔法のない世界での魔法の行使はやはり疲れるのう。温泉につかって癒されたいわい」


 とニニアンナが言い、僕たちは赤ん坊といっしょに旅館に戻った。


きっと世界中の人々が湊斗の叫びを聞いたに違いありません。

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