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第3話 西の大魔女がやってきた ~思春期の幻想はいつしか現実を侵食し始める~

帰らざる時の彼方より来たりし乙女。


「放課後、湊斗(ミナト)の家に行っていい? こないだの続きをしようよ」


 よりにもよって学校の教室で幼馴染の吹守(フイス)雨乃(アメノ)は例の件を持ち出した。


「雨乃。声の音量を落とせ」


「なんで?」


 きょとんと首をかしげる様子は、学園一の美少女にたがわぬ可愛らしさだったが、今はそれどころではない。


 案の定聞き耳をたてていた隣の席の伊藤がすかさず割り込んできた。


白間(しるま)、こないだの続きとは何のことだ?」


「試験勉強の続きだ」


「そんなわけあるか! 試験はとっくに終わっている。白状しろ。試験勉強にかこつけておまえは何をしたんだ?」


 伊藤の質問に雨乃が嬉しそうに答えた。


「キスしたんだよね。あたしはエッチしたかったんだけど、湊斗は今日はキスまでだって言って」


「なんだとぉーーっ! まるで愛のレッスンじゃねえか。まったくうらやまけしからんやつだ!」


 クラスメートの視線がいっせいにこちらに集中した。


「もうすぐ授業が始まる、その話はまた放課後にな」


「うん。またね」


 手を振りながら雨乃は教室から出ていった。


 伊藤がジト目で睨んでいた。


「ただの幼馴染だって言ってたくせに」


「何も間違ってないさ。試験勉強前も後も幼馴染に変わりはないからな」


「この屁理屈野郎が!」


 伊藤には悪いが個人的な問題にこれ以上他人を踏み込ませるわけにはいかない。



 * * *



「編入生を紹介します。遠い異国の地からやってきたニニアンナさんです」


 担任に紹介されて教室に入って来たのは銀色の髪の10歳くらいの少女だった。


「えっ!?」


 ドキッとした。夢の中に何度も出てきたニニアンナと寸分たりともたがわない、銀色の長い髪も、ちっちゃな背丈も、子供みたいな顔も手足も、膨大な魔力量を誇るものの成長は10歳で止まってしまったが実年齢は300歳を超えている彼女が教壇に立って挨拶をしていた。


「わらわはエストガルド出身のニニアンナじゃ。ふつつかものじゃがよろしくたのむ」


 あらゆる魔法に精通したニニアンナは『西の大魔女』と呼ばれている。


 夢の中の登場人物がなぜ現実に現れるんだ? 疑問で頭がいっぱいになったその時……。


「おお、ロリコン大賢者、会いたかったぞ! すっかり若返りおって。どれどれ、少々味見してみるかのう」


 ぶちゅううっっ!!


「わああぁぁーーっ!!」


 教室中が悲鳴にも似た歓声に包まれた。


 何が起こったかって?


 ニニアンナが僕の唇に吸い付いて、舌を挿し入れてきたのだ。


 むちゅ、むちゅ、れろれろれろ。


「こら!」


 ニニアンナの小さな体を引き剥がした。




「ゴホン! ニニアンナさん、学校ではそういうことは慎むように」


「なんじゃ、キスなどただの挨拶じゃろうに」


 担任が注意を促したが、クラスメートたちは興味津々で質問を投げかけた。


「ニニアンナさんは、どこで白間くんと知り合ったの?」


「吹守さんに続いてなんで白間ばっかり」と嘆くのはもちろん隣の席の伊藤だ。


 僕の膝の上に腰かけたニニアンナはクラスメートたちの質問に笑顔で回答した。


「こやつは湖のほとりで水鳥と戯れるわらわを見てひとめぼれしおったのじゃ」


 確かにエマーリンが湖の乙女ニニアンナと出会い恋に落ちた夢を見た記憶はあるが。


「あくまで夢の話だろ?」


「封印をかいくぐり記憶を取り戻そうとしておるのじゃよ。エマーリンはだてに大賢者と呼ばれていたわけではないからのう。神々の封印を打ち破る方法を模索しておるのじゃろう」


 ニニアンナの言葉から察するに、エマーリンの記憶は僕の中に封印されており、これまでに見た夢はエマーリンからのメッセージらしい。


「死してなお大賢者というわけか」


「あやつの執念深さは凄まじいからのう。意中の女の子は必ず落としおった。わらわの処女もあやつの執念深さの前に儚く散ってしもうたわ」


「いやいやいや。エマーリンと出会っときのあんたは齢100を超えてたはずじゃなかったか?」


「えーっ、そうじゃったかのう。そんな昔の話は覚えとらんのう」


「ゴホン、ゴホン!」


 こめかみをピクピクさせた担任が何度も咳ばらいをして注意を促した。


「ほら、席に付け。郷に入っては郷に従えだ、ここはエストガルドじゃないんだからな」


「わかっておるわい。ほな、またあとでのう」


 そこでニニアンナは僕だけに聞こえる様に声のトーンを落とした。


「おぬしのムスコがわらわのお尻を突っついておったぞよ」


「!」


 膝から降りたニニアンナは自分の席に戻っていった。


 彼女は僕の秘密を知っている。



 * * *



「おぬしはエマーリンの生まれ変わりじゃ」


 お昼休みにニニアンナははっきりとそう言った。


「全然実感がないんだが」


「無理もない。記憶が封印されておるからのう」


「今まで見た夢が前世の記憶だったなんて、なかなか気持ちが追い付かない」


「ところで、赤ん坊とはもうエッチしたのかえ?」


「なっ、何を言ってるんだ!」


「わらわはおぬしの為を思って言ってやってるのじゃぞ。赤ん坊は18歳までに番を見つけなければ死んでしまうじゃろう」


「なんだって!?」


「外宇宙からの来訪者の宿命じゃ。本来なら異物として排除されても仕方がないものを、番を見つけて子を成せば例外的にお目こぼしを受けられるというシステムなのじゃ」


「異世界に逃がせば生き延びられるって言ったじゃないか」


「当面の話じゃよ。エストガルドに残れば赤ん坊は即座に殺されたのじゃ。異世界に行けば18歳までは確実に生きられる。じゃが、その先の未来は不透明なのじゃ」


 ニニアンナはポーチの中を探って中から虹色の石を取り出した。


「おぬしにこれをやろう」


「魔石……なのか?」


 虹色の石は凝縮された魔力が詰め込まれた魔石だった。


「こちらの世界では魔法は使えん。じゃが、どこにでも抜け道はあってのう。魔石を使えば魔法も使用可能なのじゃ」


「エマーリンの記憶があると言っても夢で見た程度でしかない僕に魔法は使えない」


「使えないなら使えるようになるしかあるまい。命を賭して赤ん坊を守るのじゃろう?」


「できるのか、僕に」


「できるのか、ではない、やるのじゃ。こちらに来ておるのはわらわだけではない。ハズラム教団の魔術師たちも赤ん坊を狙ってやってきておる」


「なにィ!?」


「あやつら赤ん坊をエストガルドに連れ帰り孕ませる気まんまんじゃぞ」


「エマーリンの命を奪ったあの魔術師たちか。だが、あいつらに異世界に渡る能力なんてあったか?」


「おぬしが書き残した魔法陣を盗んだのじゃよ」


「森の遺跡に描いた魔法陣だな」


「じゃな」




「それよりも、なにをもたもたしておるのじゃ? もうとっくにエッチをすませたものとばかり思っておったぞよ」


「キスまではしたんだが……」


「エッチの仕方がわからんのなら、わらわが手取り足取り教えてやろう。わらわもひさしぶりにエッチがしとうなったでの」


「ちょま……!」


「よいではないか。昔はさんざんやりまくった仲じゃろう」


 学校でベッドのある場所といえば保健室だ。ニニアンナにグイグイ引っ張られて保健室までやってきた。


「おじゃまするぞい」


 養護教諭が何事かと振り返った。


「どこか具合が悪いの?」


「一時間ほどベッドを借りるだけじゃわい」


「はあ? あなたたちベッドで何をするつもりなの?」


「男と女がベッドですることといったら決まっておろう」


「なんですって? そんなこと学校では許されませんよ!」


「ええい、うるさいのう。眠るのじゃ! スリープ!」


 バタン! グーグー……。


 養護教諭は眠ってしまった。


「これで邪魔者はいなくなったのじゃ。さあエマーリンよ、わらわとエッチをしようぞ」


「マジでやるのか?」


「乙女を待たせるものではない、ほれほれ、さっさと脱ぐのじゃ。ぐふふふふ。若い男とエッチをするのは何十年ぶりかのう」


 ブレザーを脱ぐと、パラパラと小さな袋が床に落ちた。


「おっ、これは避妊具ではないか。なんだかんだでおぬしも準備万端なのじゃな。あいかわらずスケベよのう」


「もしもの時のために買っておいたんだ」


「女の子のイカせ方も全部忘れたのじゃろう? わらわが仔細に教えてやるから安心せい。きっと赤ん坊も大喜びじゃ」


 エマーリンの生まれ変わりと言っても現状はただの高校二年生に過ぎず、幼女からのエッチの誘惑に抗う術もなく、保健室のベッドの上で愛のレッスンが始まった。


「ギンギンではないか。転生してもおぬしは変わらぬのう」



 * * *



「湊斗が保健室に入るのを見たって聞いたんだけど、どこか具合が悪いの?」


 このタイミングでドアを開けて入ってきたのは幼馴染の雨乃だった。


 全裸でベッドの上で睦み合っているニニアンナと僕を見た雨乃は硬直した。


「湊斗……」


 硬直が解けた後、顔を真っ赤にして目をつり上げた雨乃は、怒りだすかと思いきやくるりと背を向けて去っていった。


「雨乃!」


「あー、これはダメかもしれんのう」


「なんだって?」


「女子は一度嫌った相手は徹底的に嫌うからのう」


「どうしてくれるんだよ!」


「記憶を操作してしまうという手もあるが、ストレンジ・チャイルドに効き目があるかは不透明じゃ」


「うわあっ! 僕はなんてことをしてしまったんだ」


「強引に孕ませてしまえば問題なかろう」


「それではハズラム教団の連中と変わらないじゃないか!」


「まずは愛のレッスンじゃ。やり方を知らなければイザというとき困るのはおぬしぞえ」


「おまえ、エッチをしたいだけなんじゃないだろうな?」


「そんなことあるか、たわけが! わらわを誰と心得る!」


「ドスケベロリババア」


「ぬううーーっ! こうなったら愛のレッスンの時間を延長して徹底的にヤりまくるのじゃ!」


「雨乃はどうするんだよ?」


「今から追いかけても逆効果じゃ。頭を冷やして考える時間が必要な時もあろう」


「雨乃、すまん……」


 去っていく幼馴染よりも目の前の10歳の幼女とのエッチを選んでしまった僕。


 愛のレッスンは二時間みっちりと行われた。




ニニアンナ……前世の元カノ。奔放な性格のニニアンナとエマーリンは、くっついたり別れたりを繰り返していました。

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