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第8話

 私は魔法使いのローブではなく、鋼の鎧に身を包んでいた。少し重たくて動きにくいけれど、これでも少しはマシになったほうだ。毎日、体を鍛えた甲斐があったというものだ。

 髪は邪魔にならないように、まとめ上げている。髪留めは、お父様からいただいたものだ。無事に帰ってこられるようにと、神殿で祈りの加護を付与してきてくれたそうだ。

 万が一、同行者とはぐれたとき用にマッピングするための紙とペン、携帯食料、ランタン、寝袋などなど、一通りのものを揃えて荷造りした。


「名誉回復のためとはいえ、どうしてお嬢様がダンジョンに……」


 荷造りを手伝ってくれたドロリスが、悔しそうに唇をかんだ。そんな彼女に感謝しながら、私はカラカラと明るく笑った。


「信じて待っててよ! 私、この日のためにたくさん稽古して、いろんなことを調べて準備してきたんだから!」

「まさか、そんな……! 王子殿下からの裏切りを、前々から予測なさっていたんですか!?」


 驚くドロリスに、苦笑いで「まあね」と答えた。


 リュックを背負い、旅立ちの準備をする。見送りに来た家族たちとハグをして、泣き顔のドロリスの頭を撫でてやった。


「シルビア。これを持っていけ」


 師匠が剣を一振り、こちらに差し出してきた。


「懇意にしている刀匠に頼んで、魔法具を作るのに使われる鉱物を織り交ぜて作ってもらった。これなら、普通の剣と比べたら、少しは魔法に耐えられるだろう」

「師匠、ありがとうございます……!」


 私はそれを両手を差し出して受け取ると、精一杯のお辞儀をして感謝した。



***



 ダンジョン入口に到着すると。近くの大きな木にもたれかかるように、二人の戦士が私を待っていた。私がダンジョン攻略を成し遂げるかどうかを見届けるために、王家から手配された人たちだ。見届けるといっても、まだ一応、私は王族の婚約者という身だ。そのため、護衛の役目も担っているらしい。

 彼らは私の姿を見るなり、腹を抱えて笑い出した。


「王子殿下から『シルビア嬢は頭がおかしくなった』と聞いてはいたけどよ、まさか、本当だったとはね!」

「魔法使いのくせに、何で戦士の恰好で来たんだよ。なあ、お嬢様?」


 ……あ、駄目だ。こいつら、王子(モラハラ)の息がしっかりかかってるわ。公平な人選なんてしてくれる気ゼロってわけね。下手したら、後ろから刺されて始末されてしまうかも。

 私は剣の隣に吊るしてある魔法の杖に手をかけると、戦士たちに向かってにっこりと笑ってやった。


「うるさいな。あんたたち、氷漬けにでもされたい? お望みなら、今すぐにしてさしあげるけれど」


 そのまま杖を抜こうとしたら、戦士たちはヒュッと息を飲んだ。そして顔を青ざめさせると、小さな声で謝罪してきたのだった。



***



 私と戦士二人の即席パーティーは、さっそくダンジョンに足を踏み入れた。


 出立前に調べたところによると、このダンジョンはおそらく人工のダンジョンだろうということだった。というのも、この付近には魔物たちが好むような魔素を含む鉱石の鉱脈とかは全然ないし、そういった類の水脈もないからだ。

 魔素を含む何かしらが元からあれば、そこに魔物たちが集まってきて、洞窟の中に生態系ができ、ただの洞窟もダンジョンへと進化していく。しかし、魔素がなければ洞窟は洞窟のままだ。それをダンジョン化させるには、ダンジョンメーカーという特殊な魔道具と、かなりの魔法力がないといけないのだと本で読んだ。


 また、このダンジョンは、伝説の存在であるはずの”聖女”が現れたこともあり、そのことをよく思っていない者たち──ゲーム上では、世界を破滅に追い込んだ”災厄の魔女”を復活させようとしている秘密結社とされている──が、聖女とその仲間たちを陥れるために作ったダンジョンなのではないか、といううわさだ。

 というのも、ダンジョン内に出没する敵があまりにも強すぎて、王属冒険者ギルドも手を焼いていたのだ。


「……というわけで、地図も途中までしかできておりませんので、慎重に進みましょう」

「俺ら、お嬢様の前後をお守りいたしますんで、どうぞ安心して真ん中をお歩きください」

「嫌だよ。そう言って、後ろ担当の人が私のこと刺し殺す気でしょ?」


 戦士たちを睨んでそう返すと、二人とも「滅相もない!」と言いたげに首を横に振った。そうは言っても、私は信用できない人間に背中を任せたくなかった。


「私、魔力探知の魔法をかけ続けることができるからさ、後ろは自分で面倒見るから。だから、二人とも前を歩いてよ」


 戦士たちは私の提案について渋ったが、私が魔法の杖に手をかけると二つ返事で前を歩きだした。


 戦闘は度々起きたけれど、私はその全てを魔法で対処した。体力は極力温存したかったから、剣を抜くのはボス級のモンスターと出くわしたときだけと決めていたのだ。

 王子の息がかかってるとはいえ、戦士たちはとてもよく働いていた。そして、二人とも、中々の腕前だった。──私のランドルフ師匠に比べたら、全然だけれども。


 戦闘と休憩を繰り返しながら、少しずつ奥へと進んでいく。そろそろ地図のないところに差し掛かるから、ここから先はマッピングをしながら進まなければならない。

 私は地図を持っているほうの戦士に声をかけた。


「ここから先はマッピングが必要になるけれど、あんたのこと、本当に信用して大丈夫?」

「俺らも命かかってますんで。──ここら辺で、お暇させてもらいます」

「は?」


 私は怒りを表しながらも、すかさず杖に手をかけた。けれども、その隙にランタンを持っていたほうの戦士に後ろを取られていたようで。

 私は背中に力強い蹴りを入れられたのを感じて、受け身を取ろうとした。しかし、そのまま私の体は下へ下へと落下していった。どうやら、蹴り飛ばされた先に落とし穴があったらしい。


「痛っあ~……」


 起き上がりながら、魔法で周囲を照らす。すると、大きな影が私を覆った。ゆっくりと振り向くと、そこには巨大なミノタウルスが一体立っていた。

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