どこに行こう
彼女とケンカした。
部屋を飛び出したは良いが、これといっていくあてがない。
夜のとばりが降りて、鳥たちがねぐらに帰る。
こっちへおいで。
誰かが呼んでる気がして街を彷徨う。
「……さん。兄さん」
辻占の老婆が呼んでいた。
「あんたは今迷っているね?」
「ああ」
「現在・過去・未来。占ってしんぜよう」
「悪いが持ち合わせがないんだ」
「無論、ただで良い」
水晶占いらしい。何も浮かんでこないのに、老婆は一点を見つめる。
「道は無数にある。選ぶのはあんたの気まぐれと運。たった今まで最高の運気だったのにおのずからだめにした。いつでも最良であれ。そうすれば幸運は手に入る」
「ふうん」
「今からどこへ向かうつもりだった?」
「繁華街」
「出会いを求めて?」
「まあ、そんなとこ」
「新しい出会いは凶と出てる」
「へえ?」
片方の眉を上げる。意外だったから。
「古い知り合いに会いに行きなされ」
咄嗟に思いつかない。
「ああ、まあ、気に留めとくよ」
適当に言って、手を振り払うと、老婆から離れた。
人の流れに乗ってさまよう。
様々な人の顔・顔・顔。
さがしびとはどこにいる?
「ねえ、あなた」
不意に手を引かれる。
「今夜、暇?」
振り向くと、色白の美人が露出度の高い服に身を包み、微笑んでいる。
なんだかんだ言いながら路地裏まで引っ張っていかれる。
「おい、にいちゃん。俺の女に手を出したな」
やばい。美人局だ。
「すみません、勘弁してください。一文なしです」
どが。
腹を蹴り上げられる。
「けっ。シケてやがんの」
まともに入って苦痛に転げ回る。
「なあんだ。つまんない」
女が吐き捨てて言う。
見ぐるみはがれてポイと捨てられる。
「ミサキ先生……」
小学校の頃の担任の先生の顔が何故か浮かんだ。涙がひとしずく頬を伝う。
どうしてるかな。もう、何年も前のことだし、お互い歳をとっただろう。
身を起こし、店舗の裏に干してある服を拝借して表通りに出る。
「どうして勉強しなきゃならないの?」
「仕事に就いて家族を養って行くために知識が必要だからよ」
「結婚して子どもができたら、もう、お払い箱になるのに?」
「どうしてそんなこというのかなぁ」
「俺の父ちゃん、単身赴任で病気になって呆気なく死んじゃったから。なんか、男って虚しいと思うんだ」
「それは、たまたまそうだっただけで、あなたも全く同じ人生とは限らないじゃないの。子どもができたら、奥さんと子どもを幸せにしてあげなさい。そうしたら、あなたも幸せになるから」
そうかなぁ、ねえ、先生?
「帰ろうか……」
のろのろ歩いて彼女の元へ帰ると、心配して待っていた。
「どうしたの?どこか痛いの?この服は?」
「ごめん」
ぎゅっと抱きしめる。
帰る場所があるのは良いな。うん。




