仕事を依頼される
前回のあらすじ
ケットシーと出会う。
「ご主人様、勝手な判断で正体不明の人間を助けてしまい、すまんかった。重症じゃったから、助けた方が良いと思ってのぉ」
「きねの判断は正しいよ。どうやら敵じゃなさそうだし、助かって良かったと思う。ありがとう、きね、ワンコ」
「お褒めの言葉、身に余る光栄でございます。本来ならば、治療行為は回復役担当のベルの仕事ですけど、あの程度の怪我ならば私でも治せます。ですから、差し出がましいかと思いましたが、私ときねで治療を行いました」
「結果的に助かったから、気にしないで。それに…………今のベルは、治療行為が出来ないと思う」
チラッと、ベルの様子を確認したら、正座でレイの説教を受けぐったりしていた。
「今回のドラコがやらかした事の原因は、何も考えず突撃したベルにあります。ですから、もうしばらくレイの鬼説教を受けて、反省すべきですね」
「うむ、我も同じ考えじゃ。無理だと思うが、もう少し思慮深くなって欲しいのぉ」
「あー、うん、そうだね」
誠志郎たちが会話に気を取られていると、怪我から回復した護衛たちが起き上がり、傷の無い体を不思議そうに触っていた。状況が分からず困惑していたが、助かった事を実感すると仲間同士抱き合って喜んだ。
その様子を見たケットシーは、無事に助かった事が嬉しくて、護衛たちのもとに歓声をあげながら走って行く。
ケットシーと護衛たちの様子を見ていたら、近づいてきたドラコが誠志郎に話しかける。
「ねえねえ、ドラコ敵を倒したよ。えらい?」
「えっと、うん、ドラコえらい! 良くやった。だけど、ブレス攻撃を使ったのは良くないと思うなあ」
「えぇ~っ、どうしてダメなの?」
「ヒーローは、簡単に必殺技を使わない。最後の切り札として、必殺技を使うんだよ」
「ふ~ん、そうなんだ!」
「だからドラコも、最初はパンチとキックで戦うのが良いよ」
「はーい、ドッカァーンって殴り飛ばすから、ドラコに任せて!」
(はぁ、ゲームと違って実際のドラコは非常に危険だな。暴走しないように注意しないと)
「そんニャ、待って欲しいニャー!」
「ケットシーの旦那、無理なものは無理ですぜ。俺たちは護衛を止める! 悪く思わないでくれ、命が惜しいんだ」
誠志郎は、ケットシーの大声が気になり様子をうかがう。すると、護衛の男たちが走り去って行くところだった。
ダッシュで逃げて行く護衛たちを見て、ワンコは呆れ顔で話し出す。
「はぁぁ~~、治療の礼を言わずに居なくなるとは、いやはや、礼儀知らずな人間ですね」
「う~ん、どうしたのかな? とりあえず、猫に話を訊いてみよう」
「御意」
きねとワンコを従え、誠志郎がケットシーに向かって歩き出した。すると、気配に気付いたケットシーは、嬉しそうな声で話しかけてくる。
「ハンターさん、ありがとうニャ。おかげさまで助かったニャ~」
「気にしないで良いよ。困った時はお互い様だから」
(たぶん、猫たちはブレス攻撃に巻き込まれた被害者だろう。感謝されても気まずいなあ。即死しなかったのは、ベルが防御系の技で守ったからだろう。とにかく、治療が間に会って良かった)
「いったい何があったのニャ? どうして、森がこんなに破壊されているニャ~」
「…………それはね。強い怪獣が現れて暴れたんだよ。でも、俺たちが追い払ったから大丈夫。安心して良いよ」
「ニャンですと!? うぅ~っ、やっぱり絶望の森は危険過ぎなのニャ。討伐隊のハンターさんに出会えて、良かったニャ~」
「あのさ、言いづらいんだけど、俺たちはハンターじゃないよ。森の中を歩いていたら、偶然出会っただけなんだ」
「ニャンと! …………ハンターさんじゃニャいの? じゃあ、どうしてこんな場所にいるのニャ?」
「う~ん、たぶん迷い込んだ。正直言って、この森がどんな場所なのか分からない。よかったら、教えてくれないかな?」
目を大きく開けて驚いた後、ケットシーは口に手を当てて考え込む。黙考した後、笑顔で話しかけてくる。
「お兄さん、仕事は何をしているのニャ?」
「…………無職だよ」
「おぉー! それなら、大金を稼げる仕事をしないかニャ? お兄さんなら、安心できるニャ~」
「やりまぁーっす!」
「本当ニャ? 良かった、助かるニャ~。頼みたい仕事は」
「待ちなさい! 猫、ご主人様を犯罪行為に巻き込んだり、騙そうとするなら命は無いですよ」
殺気のこもった声でワンコに威圧され、ケットシーは全身の毛を逆立てて怖がる。
「は、犯罪じゃないニャ、立派な仕事ニャ。お願いだから信じて欲しいニャー」
「…………分かりました。では、詳しく丁寧かつ分かりやすく、ご主人様に説明しなさい。いいですね?」
「は、はいニャ! えっと、この森に生息している魔物は桁違いに強いニャ。だから、凄く危険で絶望の森と呼ばれているんだニャ~」
「へぇー、そうなんだ」
「魔物が増えすぎると、森から外に出て集団暴走を起こすのニャ。そうなったら、大変な被害が出るニャ。街とか国が滅ぶニャ~」
「ふむふむ、確かに増えすぎは良くない」
「その通りニャ! 魔物を減らす目的で、キャラット王国は4年に1度、強いハンターを集めて討伐隊を結成するニャ。今回で12回目の討伐隊ニャ~」
ケットシーの話を聞いている途中で、ワンコがポンと手を叩くと誠志郎に小声で耳打ちをする。
「ご主人様、仕事の内容は討伐隊に参加して、魔物を倒せと言う事でしょう。魔物に負けるつもりはありませんが、危険ですから止めた方が良いかと」
「違うニャ、違うニャー! 話を最後まで聞いて欲しいニャ」
「…………分かりました。早く教えなさい」
「は、はいニャ! 今回の討伐隊に、僕は料理人として参加するニャ。でも、この森は凄く危険ニャ。身を守る護衛が必要なんだニャ~」
「要するに、猫の護衛をする仕事ですか。ふむぅ、お断りです。私は、ご主人様と仲間以外を守りたくないですね」
「ワンコの気持ちは分かるけど、生活費が無いと生きていけないよ。だから、もう少し話を聞いてから決めよう?」
「御意」
「えーと、労働条件と報酬額を教えてくれる?」
「日給、金貨7枚と衣食住を提供するニャ。それと、討伐隊の活動期間は半年の予定ニャ~」
(金貨7枚、価値が分からないけど大金なのかな? あっ、でも衣食住を提供されるのは嬉しいなあ。う~ん、やっぱり仕事を引き受けた方が良い気がする。だけど、護衛仕事が出来るのはモン娘たちで、俺に戦闘は無理。いや、待てよ。一般人の俺でも、スイの鎧を身に着ければ防御力は完璧だ。身を盾にすれば、猫を守れるかな?)
誠志郎が自分の世界に入り、ブツブツと独り言を始めると、きねがケットシーに話しかける。
「少し訊きたい。普通の人間が、1年で稼げる収入はいくらじゃ。それと、我らの姿を見て、お前はどう思う?」
「う~ん、金貨10枚くらいかニャ。お姉さんたちみたいな獣人は、珍しくないニャ。人間より強い、立派な種族ニャ~」
「ふむぅ、そうか…………。ところで、討伐隊に参加している獣人の数は?」
「沢山いるニャ~」
きねは、腕を組んで考えた後、誠志郎の肩を軽く叩いて話しかけた。
「ご主人様、この仕事を引き受けた方が良いじゃろう。敵の強さは未知数だが、戦ったベルとドラコの様子から見て、対応可能なレベルと思うのじゃ」
「えっ、良いの? 危険な仕事だよ? 報酬は魅力的だけど、止めた方が良いと思うなあ」
「ふふっ、我は強い。心配無用じゃ」
「ニャー、話はまとまったニャ? 護衛を引き受けてくれるニャ?」
「うん、引き受けるよ。俺の名前は誠志郎、よろしくね。えっと、名前は?」
「名前は、同族しか発音出来ないニャ。だから、ケットシーと呼んで欲しいニャ~」
「へぇ~、じゃあ君の事を『ニャゴ丸』と呼んでもいいかな?」
「ニャンと! …………まあ、別にかまわないニャ~」
その後、ニャゴ丸を護衛しながら誠志郎たちは、目的地の討伐隊キャンプ地を目指して、絶望の森を進んで行く。
移動の途中、様々な魔物の襲撃に会うが、ドラコを中心にワンパンで撃退する。その様子を見ていたニャゴ丸は、上機嫌になりおしゃべりが止まらなくなった。
次回予告、レイとスイ、ライ
「今回、貴方たち2人は存在感が無かったけど、何をしていたのですか?」
「鎧に擬態して、爆睡中」
「馬に擬態して、俳句を考えていた」
「俳句?」
「道草を、食べてみたけど、激マズだ」
「…………次回予告、討伐隊のハンターと出会う」