表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

奪われた世界で

作者: なお吉

思い付きと、息抜きで書きました。

設定とか甘いと思いますが、楽しんで頂けると、嬉しいです。

 



「ザッザッザッ」と足音が、荒野に響いている。

 音が鳴る感覚からして、一人分の足音みたいだ。



「ここも、何もかも無くなっちまったなぁ。この場所は、気に入ってたんだけどな」



 彼にとってここは、かつて恋人と訪れた場所。

 その思い出の場所の変わり様を見据え、寂しそうに呟くのは20代の男。

 黒く長めのコートと、その下には戦闘服を身にまとい、右肩には自身の丈よりも長い、赤色のブレードを担ぎながら歩いていた。



 男が言う様に、この荒野には何もない。

 いや、正確には。

 ()()()()()()()()()



 荒野になる前、ここには綺麗な森林と透き通る程に美しい湖があった。

 そこを利用出来るホテルや、飲食店、屋台、広い公園等が建ち並んでいた。

 憩いの場として、人々で賑わい毎年大勢の人達が連休を利用し訪れ、笑顔でこの場所で思い出を作っていた。

 小さな子供を連れた家族連れや、仲睦まじい恋人、学生の合宿等でも利用されていた場所。


 そんな、人々にとって大切な()()が、何も無い荒野になったのには、理由があった。



 人類が平和と繁栄を謳歌していた、西暦21○○年。

 突如として、次元の裂目が世界のあちこちに出来た。



 その次元の裂目は、一つ一つが直径20メートルはあった。

 世界中で観測されたこの突然の出来事は、マスコミや、SNSによって、瞬く間に世界中に発信され、緊急速報にもなりほぼ全ての人達が映像として、この光景を観ることになった。



 各国の先進国、発展途上国も含め、国のトップがオンラインや電話等も駆使して、話し合われ、人類は前例の無いこの突然の現象に、どう行動をすれば良いのか意見が別れた。



 まだ何かも分からないから、調査を優先した方が良いという意見。

 様子を見た方が良いという意見。

 何かあってからでは遅いと、攻撃した方が良いという意見。

 三つの意見に別れた。



 だが。

 それらは無意味に終わる。



 あーだこーだと話し合っていると、その裂目から膨大な数の、()()()が、出てきた。



 人類よりも、数倍大きいのから、小さいもの。

 見た目も、明らかに地球上のものとは、かけ離れている。

 腕の数から、目の数から、何もかも。


 大きさも、見た目はバラバラ。

 ただ、それらには共通していた物があった。

 それは。

 非常に獰猛で、攻撃的で、とてつもなく強く。

 人類を主食とすることが。



 最初の一匹が、一番近くにいた兵士を殺す。

 それは、あっさりと。

 抵抗もさせること無く。


 当然、殺された人は現代兵器でも最先端の武装をしていた。

 だけど、そんな物は彼等には全くの無意味。


 殺された兵士の仲間達が、その化物に向けて兵器を乱射する。

 命令されたからではなく、本能的に、こうしなければ次に殺されるのは、自分だと分かったから。


 だが、それらは効果を生み出さなかった。

 外皮が恐ろしく硬いのか、銃弾を弾き、傷をつけることも出来ない。


 凄まじい兵器を乱射する音が響き渡る中、人類を嘲笑う様に、一人また一人と殺されていく。食べられていく。

 ゆっくりと、兵士達の手足を咀嚼し、血を啜る。

 味わうように()()をする様は、まるで人間が美味だと言わんばかりだ。

「ゴクン」と喉をならして飲み込んだ化物は、雄叫びをあげ始めた。


 そして、その食事の一部始終の映像も、SNSによって拡散されていく。

 視聴者の数が、グングンと上がり、上がり、上がっていく。


 

 最初にその映像を観た人は、これは現実の事では無くて何かの番組じゃないか、映画なんじゃないか、こんな事が現実に起きる訳が無いと思う人達も多かっただろう。

 だって、こんな化物が突然現れて、自分達を食べる訳が無いと。



 しかし、その認識は直ぐに間違いだと気づかされる事になる。



 今、映像で観ていた次元の裂目が、更にたくさんの数が世界中に現れ、化物がぞろぞろと出てきたのだから。

 そして、最初の一匹が雄叫びを上げたのが合図のように、世界中の化物も、動きだし手当たり次第に人間を殺し食べ始めた。



 国のトップ達は、事の事態を重く見て、空爆と爆撃の許可を出した。



 空からは爆撃機が地上を攻撃し、戦車も砲台を撃ち込む。

 同時に、国民に避難命令を出し、マスコミにも流す。


 たっぷりとミサイルも、爆薬も浴びせ凄まじい轟音と振動が響く。土煙が巻き上がり、目標が見えなくなった。


 風に流され、やがて土煙がはれた先には。

 無傷の化物達がいた。


 あれだけの攻撃を受けて、化物達はピンピンとしている。

 今度はこちらの番だと、体から鋭い触手の様な物を出して、たった今、自分達を攻撃をしてきた戦闘機や爆撃機、戦車やその兵士達を「グサグサ」と破壊し、殺した。



 大きな爆発音が鳴り、一瞬で攻撃手段を破壊された人類。

 この攻撃は、失敗だったと、この化物達を殺すにはもっと強力な兵器が必要だと、国のトップ達は認識を改めさせられた。



 マスコミには、更に危機的状況だと連絡を流させる命令を下した。



 その国のトップからの命令を受けて、マスコミも動き出す。

 テレビ番組も特番に切り替わり、避難を促すテロップが流れ、アラームが鳴り響く。


 そこで、やっとこれが現実におきていることなんだと、認識をした人達の悲鳴が響き始める。

 パニックになって、何処に逃げればいいのか分からずに飛び出す人。震え上がり家族で抱き締めあう人達。


 それでも、未だに信じられずに映像を見続ける人々は、更に絶望させられる。

 次元の裂目が更にその数を増やし、化物の数も比例して増える。

 そして、それらがありとあらゆる建物、そこにいる人類を殺し、食べる。

 もはや、安全な場所など無いのだと、化物は世界中を蹂躙していく。

 先進国の何処かの国では、最強の兵器である、「核」も使用したが、それすらも環境を破壊しただけで、無意味に終わった。



 世界中の主要施設も、そこにいた人達も壊され、喰われていく。

 どんどんと、総人口も減らされていく。

 そんな状況でも、人類は有事の際にはと密かに建造していた、地下シェルターに逃げ延び全滅は免れた。

 数は少ないが、世界にある巨大な地下シェルターを一つの国家として、突然現れた化物に対抗する術を探すことになった。



 人類の敵に名前が必要だということで、化物には一人の博士が名付けた「食べる者」という名称がついた。

 人類は一丸となって、「食べる者」に対抗する為に研究をしていった。



 それが、今から35年程前の話し。



 今それだけ経って、80億以上も居た人類はその数を1億以下にまで、その数は減らされていたが、長い研究の末、やっと「食べる者」に対抗出来る力を人類は手に入れる。


 今まで、その外皮があまりにも硬すぎて、またその圧倒的な生命力により、毒やウイルス等も無効化するその遺伝子は、ありとあらゆる人類の攻撃を防いだ。



 ただ幸いな事に、彼等にも寿命があるらしく、同じ個体は約30年しか生きられない。

 そこで、勇気ある集団は、地上に出てその死骸を入手することが出来た。

 その功績のお陰で、今まで謎に包まれた「食べる者」の生態をより詳しく調べられ、この生物の遺伝子を入手出来た。

 更に、地中深くあった鉱石「神石」を発見し、遺伝子と組み込ませる事で「食べる者」のあの外皮すら貫ける事が分かった。



 この朗報に、世界中の地下シェルターで過ごす人々は歓喜する。



 ただ、この兵器を造るには、貴重な遺伝子と、少量しか採れない神石が、必要不可欠の為に決められた数しか造れない。

 また、それを扱う者も兵器に生命エネルギーを通わせる特殊能力が必要で、その能力を持つ人間は世界中でも100もいない。



「そして、その貴重な兵器と、貴重な能力を持つのが俺だけど……。状況はきっついよなぁ。上には各施設を回り仲間と合流しろと、言われたが……まだ半日は、かかるよ。ハァ」



 まだ一番近くのシェルターまで、距離はあると男は溜め息を吐く。




「まあ……()()()()()()()、順調に行けてだけど……。ハァッ……また出てきたよ」



 そう男がやっぱり溜め息を吐きながら、見た視線の先には。

 身の丈五メートルはある、四本足の「食べる者」が、この男を見ていた。



「邪魔すんなら、ぶっ殺す。……話しが通じる相手ではなかったな。それなら――――やるか!」




 男がブレードを両手に持ち替えて、化物へと駆け出す。

 通常の人間よりも、早いその動き出しは一気に化物へと接近し、振り上げる。


 化物は、その巨大なブレードを後ろに下がりながら、体から触手を伸ばし鞭のように、叩きつけた。



「おっと! 今のは危なかった。コイツは、スピードタイプだな。パワーはそんなには無い」



 触手をしっかりと、ブレードで受け止めて、相手の分析をする。

 今まで、徹底的に教え込まれて、鍛えて来た事の一つ。

 しっかりと、状況判断も含めて、どうすれば生き残れるのかを本気で考えて、動く。

 それを怠れば、待っているのは己の死。



 今まで、何度も死にそうになりながらも、この分析と訓練で生き延びてきた。


 そして、この男が今まで勝ち越えてこれたのは、類い稀なその戦闘センスも要因だった。

 頭脳は決して、天才とかではないが、こと戦闘に関しては人類最強と言っても過言ではないほどに、この男は強かった。


 勿論、最初から最強なのではない。死にもの狂いで訓練を耐え抜き、自身で最善まで昇華してきたから。

 その原動力は、彼の大切な存在を、目の前の「食べる者」等に奪われたことと、関係している。



 普段は、どちらかというとノンビリとした性格の男は、戦闘になると、また()()()()を前にすると、別人の様に変わった。



「さあて。分析完了。お前は……さっさと。死ね!」



 男がブレードの柄を握る力を強めると、ブレードが高速で回転し始めた。そして、そのブレードの中心にある(コア)が光出す。


「ギィユゥオオオオオオオ」と甲高い音が、荒野に響いていく。



「もっとだ! もっと! もっと輝けー!!」



 男が更に力を加える毎に、その音は大きくなり、光はその輝きを増していった。



「グルオオアッ!?」



 化物は、そのブレードの変化に本能で危機を察したが、動くにはもう遅い。



「オラァッ! ハアッ!」



 下段から、切り上げるようにブレードを振るった。


 化物はその斬擊に対応しようとするが、その速さに対応出来ずに、その硬い外皮を「ズバンッ」と両断された。



「これで、5000匹か。まだまだその数はたくさんいるって言ってたけど。先は長いな……ハァ」



 戦いが終わり、またその性格はノンビリに戻る。

 研究の為にその死骸のパーツをブレードで切り分ける。



「こうやって、倒して研究すればいつか終わるのかね。……だけど、奴をぶっ殺すまで、俺は」



 化物のパーツを保存容器に入れて、ブレードを肩に担ぎ歩き出した。


 次の目的地の地下シェルターに向けて。

 必ず大切な存在を喰った、個体を討つ為に。


お読み頂きありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 先が気になる終わり方ですね! 続きをお考えなんでしょうか? 人々が化け物を恐ろしいと思う過程が、 丁寧に書かれているのが良いなと思いました! こういう所が丁寧だと、感情移入しやすいですね…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ