表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Soul overlay  作者: 546 nm
6/15

本の虫

05;


私の持論に過ぎないが、学校というものは通っている間こそその価値に気づかないことが多いと思う。

いわゆる学校教育を受ける子どもは、その学年に従いいくつかに分類される。

幼稚園や保育園に通う間は「幼児」

小学校に通う間は「児童」

中学校、及び高校に通う間は「生徒」

大学生や大学院生は「学生」   である(*1)。


耳にたこができる程に、『学生の本分は勉強だ』と聞いた人は私だけではないだろう。

しかし、実は大学にあがるまでは『学生』ですらないというのだ。


昔、教職課程で聞いたことがある。

学生になって、初めて世の中で解明されていない未知に触れることができる。そこで初めて『学ぶ生徒』になるのだ。

それまでの過程は、『学ぶ』までの手続きを『習っている』ものと言える、と。

それに関連するか、高校までは『授業』と呼ばれるものが、大学では『講義』となる。

なぜなら、大学で得られる内容は『今現在、真実と考えられている』内容を教授から授かるからだ。


義務教育では、与えられる真実とひたすらに習い覚えることが重要であり、ある種の修行といえる。

その修行を終え、晴れて自らが未だ解明されていない謎と向き合うことが出来るのだ、と。


せやから机に突っ伏してグースカこいとるそこのおまえら

『学生』する気がねぇなら講義室からさっさと出て行け。


---正直思い出すのも恥ずかしい。


そして、辛くも卒業後、就職してから気づくのである。

何であの時もっと勉強しなかったのか、と。


社会人になってからの勉強法は、基本的に文献 or 論文を読むしかない。

学生の頃、生き字引がすぐ隣に居たのに、どうしてもっと勉強しなかったんだろうか、と。


一方では、社会に出て初めて自分が学ぶべきことを見つけた、という見方もある。

学ぶ立場にある間は、世の中の極表層しか教えてもらえない。

どこまで広い地図を作ろうとするか。

広い地図が出来るほど、地中深くに眠るであろう宝に出会える確率も上がるのだ。



-------------



---あれ、何か今回説教臭くない・・・?


「・・・お腹いたいの? ご・・ごめんね!? まさか全部食べるとは思わなかったから・・・」


どうも私は考え事をする際にお腹を抱えて俯く癖があるらしい。

心配するように顔を覗かせるセシリア。


「ちっ・・ちがうんです! 少し考え事をしてただけで・・・あ。パフェはおいしかったですよ? ごちそうさまでした!」


あはは、と誤魔化す女王アリシア。体に染み付いた習慣は今も尚健在だったらしい。




お腹を満たした昼下がり、魔法学園への道すがら。

---ところで、と続けるセシリア。


「何か違和感あるなーと思ったら、その敬語だね。自分で言うと恥ずかしいんだけど、私たち結構仲良かったから、さ。普通に話してほしいな?」


何か、アリシアがアリシアじゃない気がしちゃうから、と。

少し物憂げな表情をするセシリアに、私は---申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

しかし、この気持ちだけは誰にも吐露してはならない。最終的に、私という存在とともに消滅すべきものだから。



「きゅ・・・急にはちょと難しいです・・・むずかしいよ? でも、ありがとう セシリア」


「あはは 会って間もない頃もそんな感じだったね。ほら、行くよ?」


一歩前に出たセシリアが差し出した手を---『アリシアは』は自然と取っていた。



「学園はもうすぐそこだよ」



--------------



---プリンストン魔法学園


緑豊かで広大な敷地面積を保有する、本都市唯一にして最大の王立学園。

この国の人々は、程度の差はあれ何かしら魔法を使う力を有しているらしい。

ここは、その魔法を知り、応用するための技術を学ぶ場所だ。


---その外れにひっそりと佇む学舎のひとつ。


「ここだね、私たちが居た部屋。 今は私がひとりで使ってるけどね」


まるで自宅に招き入れるかのように。


「えと、おじゃまします・・・」

「あなたも実質住んでた部屋なんだから、遠慮なんてしないのっ!」


ぺしっ、とセシリアにお尻を叩かれる。いや、撫でてないかこれ・・・っ


「ひゃぅっ!?////」

「うん、今のはアリシアだね」


セクハラしてきたわりに満足げな表情を湛えたセシリアが、ぱたんと扉を閉めた。

もぉっ、と口をとがらせる『アリシア』。


---どうも私が意識的にとる行動以外、例えば歩き方や外部からの刺激に対する反射などについては時々アリシアの素が出る様だ。やはり、彼女の体に繋がっているのは彼女自身の脳だからだろう。


何故か身の危険を感じさせられた私は、無意識にもセシリアから背中を守るように若干の距離を取っていた。



「そういうところは昔と変わんないのになぁー・・・」


少し残念そうな表情を浮かべたセシリアに、そうなんですねと、警戒心を解いて周囲を見渡す。


「まぁ、ゆっくり思い出せばいいよ。 何か見たいものある?」

「あ・・ぇと、魔法に関する書籍と、私の・・研究に関する履歴ってある・・かな?」

「あはは そういうトコも変わってない」


笑いながらも少しだけ涙を溜めたセシリアは、目じりを中指で払いつつひとつの戸棚を開けた。


「これ、ぜーんぶあなたの本と記録よ 何であなたより在籍年数長い私の方が少ないのかぁ」


棚にいっぱい詰められた書籍の類はいずれも、よく読みこまれた形跡がみられていた。





---ぺらっ


自然科学の元に生活してきた私なりに理解すると、この世界でいう魔法とは、物質がもつエネルギーを何らかの形で操作する様だ。例えばエネルギーを増幅したい場合、この世界では空気同様にあふれる魔素とよばれる素粒子に近い要素からエネルギーを取り出したり、逆に格納することが出来る。


火系魔法や雷系魔法はまさに魔素からエネルギーを大量に取り出した結果と言えよう。

この様に、目に見える物理現象を魔法で再現することは比較的一般な様だ。


---ぺらっ


一方、元居た世界では全く説明のつかない技術に『テレポーテーション』があった。

元居た世界でも、『量子テレポーテーション』(*2)という言葉を聞いたことはある。しかしこれは鍵となるエンタングルメントと呼ばれる『情報』を受信者側と送信者側に予め持たせている必要がある。通信傍受を防ぐ最も有効な手段の一つとして研究が進められている(*3)が、あくまでも観測情報の送信自体には古典回路(光回線など)が必要だ。簡単に言えば、ある情報をA→Bに移す場合、送信側と受信側、そしてある瞬間における『情報』を決定づけるために必要な鍵をお互いに有している必要がある、ということだろうか。


四次元なポケットを持つ例の青い狸--猫ですね--が頻繁に使う何とかドアは送信側の役割こそ果たせど、受信側は任意の場所となる。---それこそ入浴中の浴室であっても。

この世界に於けるテレポーテーションも、このような感じで超えられない物理法則の壁を、何等かの魔力で超えているのだろうか・・・実にファンタジーである。


---ぺらっ


・・・余談が過ぎたが、テレポーテーションに関する魔法は上級魔法の一種とされている様だ。

移したい物質が現在存在している場所と、移したい先を『正確に』認識できる場合、この物質の瞬間転移を可能にするらしい。


ただし、この瞬間転移を人間に応用することは、倫理上禁じられている様だ。

魔法の発現者自身であってさえも、絶えず動く心臓の位置を体の外から把握することは実際不可能なので、禁じられているというよりは不可能とされているが---そう、わずかでも自発的に動くものは転送しようとすることも出来ないのだ。


---ぺらっ


その点で、アリシアが研究した『雷魔法の応用による自己反射速度の向上』は見た目に異端ともいえる。瞬間移動とまでは言えないが、外部観測者からすれば、彼女自身が瞬きの間にその姿を消してしまうのだから。お蔵入りとされた理由もわからなくはない・・・。



興味深いことに、彼女の記述は、私の『加速波動』に関する考察とおよそ一致していた。即ち、アリシアは恐ろしく細かく、複雑な電気操作を行えたことになる。およそ人間離れしていると言えるだろう。


それよりも、彼女の考察はこの世界の基準というより、地球における自然科学のそれに近いように見える点が気になる。彼女は一体---




---ぱたん。



「はふ・・・///」

「・・・没頭したら手元しか見えてないのは変わらないのね」

「わ、もうこんな時間 ご・・ごめんなさぃ」

「敬語! ・・もぅ、いいわよ」


そういって苦笑するセシリア。

既に傾きつつある太陽が、当時二人の在籍していた研究室にオレンジ色の光を落としていた---


「で、何か思い出した?」

「えと・・ううん、ごめん・・・ でも、魔法のことは『思い出してきた』かな・・・」


目的の一つであった魔法の知識に加え、アリシア自身に関する謎に触れる機会を得られたことは大きい。彼女は、単に繊細で思慮深いだけでなく、何かしら大きな発見---他の人にはおよそ理解できず、認められなかった---をしている様に思えた。


これが、私がこちらの世界に来たことと関係しているかは分からない。しかしアリシアはこの世界にとって何か重要な役目を担っていた、あるいは担うかもしれない---そんな考えが脳裏に浮かんでいた。




「---これからどうするの?」


若干の静寂の後、セシリアが心配そうに聞いてきた。


「うん・・神様に・・・会えないかなって」


書物より、もう一つ重要な情報を得ていた。「神」に関することだ。

やはり神そのものは実体のない信仰上の存在ではあるが、神の力---『神力』というものはこの世界に実在するらしい。神への祈りを捧げ、奇跡ともいえる恩恵を享受するというもの。

私の刀に宿っているヒーリング効果もこれに由来するものと推察されるが、願えば何でも希望が叶うという訳ではない。


魔力が何らかの形で理屈を説明できる力だと定義すれば

神力は理屈で説明できない奇跡、と分類できるだろうか---



「あはは! またえらくぶっ飛んだ目標ね・・・天国にでも行く気なの?」

「そういう訳じゃないけど・・・ ねぇ、セシリア。 この街に教会ってある?」

「そりゃあるけど・・・何かお祈りする気? 神様に合わせてくださいーって祈りを捧げても顕現したりはしないよ?」

「うん、教会の人に話を聞いて・・・神の位に近い人に、会う手段がないか知りたいの」

「そんな簡単に会って貰えるとは思いにくいけど・・・ ま、あなたの気のすむようにやりなさい? あなたはそうやって、実際不可能を可能にした実績があるんだから」


ただね---と、セシリアは言葉を続ける


「教会って私はどーも好かないのよね・・ 奇跡を享受したくばお布施が必要だーとか言うし、話聞いてるようでテンプレートな回答しかしないって聞くし・・・」(*4)


「えっ・・それじゃ・・教会に行くだけでは教えて貰えない・・の?」

それでは---困る---


「ま、そういうことだろうね。 あ、でも・・・」

「教会名義で、仕事の依頼が張り出されていることはあったね。そういうのこなしていったら、テンプレート以外の話もできるかも?」


お遣いイベントの発生か---と心の中で乾いた笑いを飛ばす。


「どういう内容なんですか?」

「まぁ・・大体は運搬とかのお手伝い? 他に血生臭いのもあったりするけど・・・獣退治とか。」

「依頼は、教会に設置された掲示板に貼ってるから、その掲示物を破り取った人が案件獲得って仕組みよ。早い者勝ちってやつね。」


「そっか--- 私、明日にでも見に行ってみます。」

「私もついていくよ。記憶がないなら、色々と不都合もあるでしょ?」

「わ・・悪いですよそんな・・・ セシリアになんのメリットもないのに、お仕事一緒にしてもらうなんて・・・」


セシリアを巻き込みたくなかった私は、やんわり断る。


「じゃぁ、アリシアが私にご褒美くれたらそれでいいよー 前払いと、後払いで。」


---ご、ご褒美・・・?


「わ・・私お金殆どない・・ですよ・・?」

「アリシアからお金巻き上げるほど、おねーちゃん腐ってませんっ! 昔みたいに、ぎゅーってさせてくれたらそれでいい!」

「・・・へぅっ!?/////」


ちょっとまって、セシリア。なんかキャラが違う!

というか昔みたいに!? どんな関係だったの!?

---今更ながら、入室の際に触られたお尻がむずがゆくなってきた。


「んぅ・・・」

「・・・2年ぶりに会えたねー良かったねーだけで終わらせるほど、私は薄情じゃないわよ・・私がどれだけあなたのことを心配してたか、思い知りなさい・・・」


冗談めかして前面から抱き着いてきたセシリアだったが---耳元で囁くその声は震えていた。



----------------



「---アリシア、あなた宿のアテはあるの?」

「はひ・・や・・・やどっ・・です・・か・・? ふぅ・・・まだ決めてませんでした・・・」


一通りご満足いただけるまでお人形さん状態を貫くことに成功した私だったが---


「じゃぁウチ来なさい? ここからそう離れてないし。 2年分のアリシア分補給がまだ終わってないわ。 元先輩命令よ?」


だめだ、このままではいろいろ吸い取られて干からびてしまう。

アリシアはセシリアと本当にどういう関係だったんだ、と心配すらしてしまうほどに。




---セシリアの顔は、今日一番の笑顔を湛えていた。






(References, Remarks)

*1 在学者, wikipedia, https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9C%A8%E7%B1%8D%E8%80%85_(%E5%AD%A6%E7%BF%92%E8%80%85)

*2 古澤明. "量子テレポーテーション." 表面科学 32.12 (2011): 801-803.

*3 藤居三喜夫. "レーザーを用いた量子テレポーテーション." 東芝レビュー 59.10 (2004): 63-67.

*4 あくまでもこのお話はフィクションであり、作者自身は神の存在を否定したり、宗教を軽視するつもりは毛頭ないことを宣言しておきます。念のため。

お目通しの機会を頂きありがとうございます!


魔法を現代科学という顕微鏡で覗いたら、こんな感じで解釈できないのかなーって思いながら書いてみました。

似たような、或いはほぼ同じ考えをもつ方もいらっしゃるのではないでしょうか。というか二番煎じ? うーん...


なお、冒頭の下りは私の経験に基づいております(笑



評価やコメント頂けましたら大変うれしく存じます。

またよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ