30話
敵の数は10人。
リーダーは屋上。ナツキとかいう女は死亡。と言う事はあと、8人はどこかに居るということ。
アジトの周りにも敵がいるかもと、警戒しながら裏側へと回る。
人の気配は全くない。ここで油断して俺が殺られれば、俺らは敗北。気は抜けない。
ちょうど、正面の玄関とは真裏に当たる所に非常階段と書かれた階段が上まで続いてる。
流石に屋上までは行くことは出来ないが、最上階付近までは階段が続いてるのが確認できる。
「よしっ、ここから上へ行くか。」
足音を立てずに身長に一歩一歩階段を登る。
玄関の所に監視カメラがあったから、あいつらが侵入した事には気付いているはず。なら、こっちは無警戒だろう。
この戦、勝ちました。どうせ、屋上で呑気にタバコ吸ってんだろ、あの反面教師。後ろからコッソリ近づいて、ズドンだ。
そんな想像をしていると、笑いが止まらなくなってくる。
4階に辿り着いた時に事件は起こった。事件と呼ぶにふさわしい事ではないけど。
非常階段横のドアが空いていた。1階、2階、3階とここまでのドアは全部閉まっており鍵が掛かっていた。
誘い込んでいるかのように空いているドア。ゆっくりドアから顔だけを出して、中を見てみるが人影は無い。
廊下の灯りは消えており奥までは暗くて見えない。
非常扉がここだけ空いているなんて無用心過ぎる事かあるのか不思議に思ったが、相手の国にアホな奴がいてそいつが締め忘れただけだろう。
そう思って中に入る事を決意した。
その階には部屋が数部屋あり、またまた一部屋だけドアが空いていた。そこから、何か声が漏れている。
「誰かいるな。」
急に緊張が張り詰め、乾いたツバを飲み込む。
汗が首元を流れていく。
息を潜め、近くに行くとそれは、啜り超えのように聞こえた。
「ブハーッ!ハァハハァ。ヤベッ!」
息を潜めるのに夢中になっていた俺は息を止めすぎて苦しくなり、思いっきり息を吐き出し、吸い込んだ。
多分相手に聞こえただろう俺の声だが、反応はない。
恐る恐る、中を覗いてみると、座込み膝を抱いて泣いている女の子がいた。
えっ?どういう状況?
「誰?敵の方?」
俺に気付いて、俯いていた顔を上げ、そう問いかけてきた。
二次元でしか見たことのない美しい顔に目を奪われた。
歳は俺よりも下に見える。
「敵って言えば敵だな。何してんの?こんな所で。」
迂闊に敵に気を許してしまう。それは、相手が美女で泣いているから、他に理由は無い。
「私、味方の人にお前は使えないからここに居ろって言われて……それで……。」
再び膝に顔をうずめて泣き出す彼女。
こういう場合どうしたらいいのか分からずに部屋の中を行ったり来たりする俺。
取り敢えず肩を抱いたら良いの?
敵、味方関係なく悲しんでいる美女がいたら迷わず手を差し伸べる、それが男だろ。
彼女の横に座ってみる。体育座りをして硬直する俺。
ヤバい、緊張で心臓の音が漏れる。膝と膝が触れる距離に座ってしまった為、心臓の音が聞こえないか心配になり、距離を取ろうとした時だった。
「私を抱きしめてくれませんか?一人じゃ淋しくてどうにかなりそう。」
距離を取ろうとする俺の腕を掴み潤んだ瞳で見つめる彼女。
モテ期来た?ゲームになった世界でついに俺にモテ期が来たのか?
なんで君はそんなに美人なんだい?君が一般より下のレベルだったらすぐさまこの部屋を飛び出して屋上まで駆け上がるのに。
君が美人に生まれたばっかりに、俺は、己と葛藤しなければならなくなった。
「敵だから嫌ですか?」
さらに距離を無くしてくる彼女。俺の鼻が後10センチ高かったら当たっている距離だ。
「いや、そんな事ないんだけど。」
「少しだけ、ほんの少しだけで良いんです。」
その言葉を聞いて俺は、目を閉じた。この後は彼女に任せようと。
彼女は、細く白い腕を俺の首に回す。
みなみ、ゴメンな。今日だけは勘弁してくれよ、状況が状況なんで。
「幸四郎、目的通り、彼に接触したわ。」
彼女はスマホを耳に当て誰かと話していた。
今、幸四郎とか言ったか?
まさか、ハメられた?
「ハメたんだな。」
俺は、目を閉じたまま言う。目を開けて彼女がどんな顔をして俺を見ているか、見たくなかった。
「ごめんねぇ、全部幸四郎の指示なの。こっからはどうするか私も知らないの。君から距離を取るなって。指示はそれだけ。」
俺の首に腕を回したまま、離れようとしない彼女だが、俺は、まだ目を開けない。
俺から距離を取るなだって?何がしたいんだろうか?
俺は、てっきり武器になるような物を仕込んでいて抱きついた隙に俺を殺す、そう考えていた。
幸四郎の使う魔法で1つ気になる魔法が頭から離れない。
人を爆弾にしてしまう上級魔法。それを彼女に発動されていたとしたら、俺と密着するよう指示するのも頷ける。
まさか、味方に使うわけないよな。使えば味方を見殺しにするような、もんだ。
「あばよ、ミズキ。」
彼女の電話越しに聞こえてきた声は確かにそう言った。
その数秒後に彼女は爆発した。