29話
霞は、呆れ過ぎて、肩を落としている。
浩二は……多分笑い堪えてるなあれは。
「おい、見ろよナツキ。俺のマグマの上で踊ってる馬鹿が居るぞ。ハハハッ。」
気付けば、ナツキと呼ばれる赤い髪の女とあの時にいた青い髪の女が幸四郎達に合流して、4人で俺を見て爆笑していた。
「魔法発動。ウォータースプラッシュ。」
浩二が見兼ねて魔法を発動させてくれた。俺の足元から凄い勢いで水が吹き出す。水の威力で俺の体は浮き上がる。
「熱い熱い!熱湯になってる!浩二!早く水を止めろ!」
「いつ止まるか俺にも分からん。」
「魔法発動。光の壁。」
宙に浮いた俺のすぐ横にみなみが光の壁で足場を作る。
光の壁はそのまま地面まで階段のように現れる。
「私に感謝しながら、その光の階段で降りてきなさい。」
足の火傷を庇いながら地上へと降りる。
パシンッ!
ここ数日で何度目だろうか?俺の後頭部はへこんでいないだろうか?
「あんた、リーダーなのよ!もう少しでマグマと一体化するとこだったじゃない!」
「俺は、いつでも脱出出来たんだよ!敵を油断させる演技だ演技。」
「演技にしては、えらく足の裏痛そうじゃない?」
演技な分けないだろ!死ぬほど痛んだ!
あの汚ねー髪の色したアホ、覚えとけよ。そう思いながら扉の方を睨む。
俺の視線の先には、隆史の影がオートロックの隙間を通り、ナツキとかいう赤い髪の女の首元を貫いていた。
さっきまで笑っていたその顔は、驚いたまま硬直している。
「ありがとう大輔。お前のお陰でコイツ等にスキができた。俺の影を極限まで細くした。まさか、この隙間を通り抜けれるとは思わなかったがな。」
ほら見ろ!!!
俺の名演技が役に立った。俳優にもなれる。まじで感謝します隆史様。
隆史がナツキの首から影を抜く。即死だったのか、声も出さずに倒れるナツキ。
「おい!ナツキ。死んだのか?嘘だろ?おいコラ!メガネ!そこ動くなよ!」
オートロックを解除して外に出ようとする幸四郎を青い髪の男と女が止める。
「おい、幸四郎。一旦引くぞ。」
両肩を抑えられ奥に引っ張られるように二人に連れて行かれる幸四郎は暴れて反抗する。
「おい、離せお前ら!あのゴミクズ殺さねーと気が済まない。」
正気を保てない様子を見て、やっぱりあの赤い髪の女は彼女かなんかだっのか。残念。
丁度、扉の隙間の真ん前に立ってるやつが悪い。
そのまま幸四郎を抑えるようにエレベーターに乗り込む3人。
「隆史、どうする?この扉、壊す?」
「俺の影で内側の解除ボタンまで届きそうにないな。壊すしか無いだろ。」
「壊れんのか?この扉。」
金髪の浩二が扉をベタベタ触りながら言う。
やっぱお前のスキル全然役に立たないな。
「俺にやらせろ。リーダーだからな。」
俺は、一国のリーダーにまで駆け上がったのだ。その、一国のリーダーの力を見せ付ける時が来た。
本気出さなくてもこれくらいは行けるだろう。
何故だ?リーダーと云うだけで、自信が溢れて来る。
溢れ過ぎて大洪水だ。
俺は、ストーンブラストを発動させた。
どでかい岩の塊を頭上に出してそのまま、ぶつける筈だったが、体積が大きすぎたのだろうか、動けと念じてもちょっとずつしか動かない。
凄いスピードで扉にぶつかるイメージを繰り返すが、一歩ずつ踏みしめるように動く岩。
スロー再生で動く岩の塊を仲間の全員が静かに見守る。
ようやく、扉付近まで運ぶことが出来た。その間5分。
「もう、集中力の限界だ。」
俺が、ふっと気を抜いた瞬間に、岩はストンッと
大きな音を立てて、扉の目の前に落下し砕け散った。
パシンッ!!
「イッテーな!何回も何回も!」
多分岩が落ちる前から、俺を叩く準備してたんだろうな。
「何がしたいのよ、この変態リーダー!岩をそこから、そこに、移動させただけじゃない!時間の無駄よ。」
隆史の表情は変わらず、浩二は爆笑してる。
霞は呆れて遥か彼方を向き、ゆいは、痴漢を見るような目で俺を見ている。
俺、リーダー辞めます。少し、落ち込む時間を下さい。
「どいでくれる。私がやるわ。ちょっと離れていてくれる。」
さっきから、呆れっぱなしの霞が扉の前に立つ。
霞は既に魔法で出した、刀を手に構える。
「殺し屋の女、刀で斬れるのか?その分厚いガラスが。」
「殺し屋ではないわ。この刀は斬れ味に割り振った錬成の仕方をしているの。恐らく斬れない物はないわ。まぁ、斬れ味に極端に振っているから一回使えば使えなくなる、使い捨てなんだけど。」
両足を揃えたまま、霞は刀を斜めに振り下ろす。
早すぎて、剣筋は見えなかった。
なんせ、音かしなかったので斬れてるのかさっぱり分からない。
斜めにスライドしていく扉を見て、斬れていると気付いた。あれで、良く斬れるな。
パンっと扉を前蹴りする霞。
霞は、見事に突破口を開いてくれました。俺とは出来が違いすぎる。
落ち込む時間を貰ったので座り込んで俯き、落ち込んでいると辺には誰も居なくなっていた。
「あれ?みんなアジトに入って行ったのか?リーダー置いていくやつが有るか!」
相手のリーダーの一ノ瀬先生は屋上に居るんだろ。まともに、玄関から入って行かなくても、別でもっと簡単に屋上に行けるルートがあるのではないか。
そう思って俺は、一人アジトの周りを回ってみた。
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