19話
この黒龍刀とやらの切れ味の凄さは、半端じゃない。ドラゴンの首付近から刺さった刃は口まで貫いた。
「ギャオォォォッ!!!」
咆哮と共に消えていく黒いオーラ。
このまま前のめりに倒れそうだ。
「不味い!浩二が下敷きになる!」
咄嗟にみなみが駆けつけ、光の壁を撃つ。
「おい、みなみ、早く浩二をどかせ!光の壁が消えたらおわりだぞ!」
「分かってるわよ!爪が刺ってるから動かせないんじゃない!」
ゆいと二人係で爪を抜こうとしているが動かないらしい。
俺もドラゴンから降りるとみなみとゆいに合流する。
「くそっ!三人係でも抜けないのか。」
このままでは、みんなドラゴンの下敷きだ。
「四人ならいけそうか?」
頭から血を流しながら俺らに合流する隆史。
「隆史、お前大丈夫なのかよ。」
「浩二に比べればカスリ傷だ、こんなの。」
四人係でようやく抜けた爪ではあったが傷口からの出血が止まらない。
浩二を安全な場所へ運んだは良いものの、どうするべきか。
「救急車呼ぶわ………繋がらないじゃない!」
ゆいが止血しようと傷口をタオルで抑えているが、ゆいの手も、赤く染まっていく。
「お前、回復魔法とかないのかよ。」
「あるけど、買えないのよ、高くて。」
「ドラゴン倒したから、最低でも10万ポイント入ってるだろ。」
自分のスマホを見ると10万ポイント入ってる。1.5倍にはならないのか。
「あっそっか。買えるわ回復魔法。」
みなみが買った魔法は、ヒール。
この回復魔法が一番安いらしいが5万ポイントもするらしい。指定したプレイヤーの体力をある程度回復させる。
ある程度って適当かよ。
みなみが、ヒールを放ち浩二は一命を取り留めた。
傷口は綺麗に塞がっているが浩二は眠ったままだ。
「病院に連れて行った方が良いわね。」
浩二を、背負って駅前の病院へ行く事になった。
もうすぐ、病院って所で、俺の背中で目を覚ました浩二。
「あれっ?俺……生きてる?あの時女と体が入れ変わって、女子高に行くことになって、それからどうなったっけ?」
それからどうなったどころの、話ではないぞ。お前死にそうな時にどんな夢見てんだよ!
「ドラゴンの爪が突き刺さったんだよ、覚えてねぇのか?」
「いや、微かに覚えてるけど、痛すぎてほとんど記憶がないな。」
ここまで、歩いてくる時もそうだったが、建物という建物がほとんど壊滅状態で戦争後みたいになってるんだが……
「あれだけ強いドラゴンが来たら街もこうなるのは頷けるな。まぁ何体この街にドラゴンが来たのか知らんが。」
隆史の傷もみなみのヒールで治っている。
そして目の前にあるはずの病院も倒壊している。
ちょうど、病院を壊し終えたばかりなのだろうか、その上空に今一番見たくない姿を見つけてしまった。
2体目のドラゴンに遭遇してしまう。今の状態で戦ってもさっき以上の被害がでそうだ。戦闘は、避けたい。
「おい、まだ見つかってない。隠れるぞ。」
俺の指示に珍しく全員が、静かに頷き、瓦礫に身を隠す。
「ねぇ、大ちゃん。さっきの刀で戦えば勝てるんじゃないの?」
ドラゴンに気づかれぬよう小声で問いかけるみなみ。
「いや、黒龍刀錬金の発動をさっきから、タップしてるんだけどエラーって表示されるんだよ。どうやら、あのドラゴンの黒いオーラが近くにないと錬金できないらしい。」
「使えないわね。」
お前誰のおかげで、ドラゴン倒したと思ってんだよ。
「でもなんか、購入魔法一覧に新しく、召喚魔法 黒龍ってのがあるぞ。」
「それで、召喚できるの?あのドラゴンを。」
「多分、そうじゃないか。でも100万ポイントいるけど。」
「……」
「……」
「……」
「……」
みんなで俺を冷たい目で見るな!俺が悪いみたいじゃないか!
「見て!ドラゴンの前に一人、女の子がいるよ。」
ゆいがドラゴンの方を指差す。
「ホントだ。どっかで見たことない?」
みなみが首を傾げる。
「おい、あの後ろ姿は絶対に美人だ。声掛けに行こう。」
引っ込めこのタラシ野郎。さっきまでお前死にかけてたじゃねーか。美人見たら元気になるんならヒールとかいう魔法いらねーじゃねぇか。
右手には俺と似たような日本刀を持っている。
「あっ!あの人、大ちゃんが押し倒した人じゃないの?」
確かに言われてみればそうかもしれない。霞とか言ってたな。
「あの娘、一人で戦うつもり?無茶でしょ。」
「ああっ!!!」
パシンッ!
容赦なく俺の後頭部を叩くみなみ。ちょっと歳の行った人なら死んでるぞ、それ。
「いきなり、大声出すな!気づかれるでしょ。」
「いや、結婚の約束思い出して……いや何でもない。」