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そらのそこのくにせかいのおわり(改変版)4.1 < chapter.8 >

 スーパーサウルスとの戦いから三日、第二運動場には黒山の人だかりができていた。

 衆人の視線は運動の中央、向かい合う二人の男に向けられている。

「ルールを確認させていただきます。時間切れ、場外、一時中断無し。武器、魔法、呪符、その他アイテムの使用に一切の制限を設けない完全無制限勝負。これでよろしいですね?」

「ああ。何の問題もない」

「では、始めましょう」

「いつでも来いよ」

「ええ、言われなくとも……っ!」

 マルコは初手から飛び道具を使う。マルコの魔導式短銃『ネイキッドデザイア』は、今は一切のアタッチメントパーツを外した状態である。使用した魔弾は《ブラッドギル》。肉食淡水魚の挙動を模した散弾で弾幕を形成、正面からの接近を制限する。

 この攻撃は予想外だったのか、トニーの反応はややもたついた。右か左に避けさせようとしているのなら、その思惑に乗るわけにはいかない。絶対に何か仕込んでいるからだ。

 トニーは軽いフェイントを入れ、横に避けるふりをした。すると案の定、『散弾を回避した場合、トニーが確実に通るルート』で強烈な爆発が巻き起こった。

 マルコは戦闘開始と同時にゴーレム呪符を起動させ、超極小の、ハエ型ゴーレムを出現させていたのだ。《ブラッドギル》によって視界を遮り、同時にトニーの移動ルートを制限。その隙にゴーレムを先回りさせ、タイミングを合わせて自爆させたというわけだ。

 だが、トニーは《銀の鎧》の耐久限界を正確に理解している。散弾タイプの《ブラッドギル》は破壊力が低く、《銀の鎧》ならば余裕をもって防ぎきれる。トニーは走力に任せて正面突破を敢行し、マルコに肉薄。搦め手の先制攻撃に対し、真正直なカウンターアタックを叩き込んだ。

「ハアアアァァァーッ!」

「くっ……!?」

 恐るべき速度で繰り出される蹴撃ラッシュコンボ。トニーはジョリーの開発したパワードブーツを着用し、機械的に速度と攻撃力を増幅されている。全身が機械化されたサイボーグ戦士には数段劣るが、元々の格闘センスが十二分に高いため、部分的な強化でも格段に強さを増している。

 マルコは《物理防壁》によって防御しつつ、反撃の機を窺う。が、いかんせん速すぎる。斬り込む隙が見当たらない。

「どうした? この程度か!?」

「いいえ! 斬り込めないのなら、こうするまでです!! 《鏡の迷宮》!!」

 マルコは攻撃魔法を跳ね返す上級呪文《魔鏡》の、さらに上位の魔法を使った。これは666枚の魔鏡を同時出現させ、敵の魔法を跳ね返して攻撃する呪文である。

 しかし、今トニーは魔法を使っていない。

「何を……まさか!」

 トニーは瞬時に身を翻す。

 出現した魔鏡から可能な限り距離を取るつもりだったが、マルコがそうさせない。

「《虚像崩壊ファルスブレイカー》!」

「――ッ!」

 砕け散る魔鏡。同時に巻き起こる爆発に、トニーはハエ型ゴーレムがなおも複数機存在したことを知った。だが、いまさら知っても手遅れである。ゴーレムの自爆攻撃により、鏡の破片は鋭利な刃物としてトニーに襲い掛かる。

「この……程度ォォォーッ!」

 幾つかの破片は《銀の鎧》の耐久限界を超えてトニーに傷を負わせたが、程度は軽い。どれも『ちょっとした切り傷』と呼ぶべきものだ。

 マルコはこの隙に《緊縛》を展開し、得意の全方位型攻撃に持ち込もうとしている。

 トニーは考えた。


 魔鏡は割れてなくなった。今ならば、こちらの魔法は跳ね返されない。


 考えがまとまった瞬間、トニーは全力で魔法を放っていた。

「《冥府の狂宴》!!」

 巨大な大砲が一斉に出現し、炎の砲弾を連射する。最大666発もの弾を撃ち出す超級攻撃魔法に、マルコは《魔法障壁》以外の対抗策を持たない。

「うっ……この、ままでは……っ!?」

 新たに考案した必殺技《虚像崩壊ファルスブレイカー》はまだまだ練度が足らず、思ったような効果を出せなかった。素直に次の技に繋げさせてもらえないとは思っていたが、よもやここで最大技を使われるとは。

 この先考えられる打開策は三つ。

 一つ目はこのまま、トニーの魔力切れを待つこと。

 二つ目は《銀の鎧》の重ね掛けで炎の中を突っ切ること。

 三つめは、一か八かの賭けなのだが――。

(実戦では不可能でも、訓練であれば……!)

 たとえ失敗したとしても、命を落とすことはない。マルコはその安心感から、三つ目の選択肢を実行に移した。

「発動! 《封魔結界》!!」

「なっ……!」

 ブゥンと鈍い音を立て、《封魔結界》が第二運動場を覆う。

 この結界内では一切の魔法、呪詛、ゴーレム巫術、魔導式兵器の使用はできなくなる。

 一瞬にして掻き消えた大砲と砲弾。マルコは剣を構えてトニーに突進し、トニーはそれを舌打ちしながら迎え撃つ。

 この舌打ちの理由が何か、戦いの様子を見守る仲間たちには事情がよく分からない。

「なあ、ジョリー? あのパワードブーツって、完全な機械式じゃねえのか? なんかアイツ、スッゲエ戦いづらそうだけど……?」

 急に動きの鈍ったトニーを見て、ロドニーが尋ねた。

 ジョリーは軽く肩をすくめ、残念そうに答える。

「基本的な駆動系は機械式です。内臓されているリチウムイオン電池で八時間の連続稼働が可能となっていますが……」

「が?」

「パワードブーツ表面の耐電・耐熱・耐水プロテクトは魔導式です。おそらく今、トニーさんのヘッドセットにはプロテクトの強制解除に伴う異常通知アラートがひっきりなしに……」

「え、それ、うるさくね?」

「ええ、まあ、非常用のアラートですから。相当な騒音になっていると思います」

「だから動きが鈍ったのか……?」

 トニーは顔をしかめながら戦っている。ヘッドセットを外したくとも、戦況を見る限りその余裕はない。魔法なしでの直接対決ならばトニーの圧勝となったはずだが、今のところ勝負は五分。マルコが選択した『まさかの戦法』に、ギャラリー一同は納得の顔で頷いた。

 対戦の前、マルコはジョリーに尋ねていたのだ。「この機械の操作マニュアルはありますか?」と。

 ロドニーはジョリーのタブレット端末を覗き込み、基本機能の説明に目を通す。

「あ、なんだよ。ハンズフリー操作可能なんじゃねえか、あのヘッドセット」

「ええ、そうなんです。ですからトニーさんがこのマニュアルに目を通していれば、騒音に集中を乱されることも無かったはずです」

「使い方は体で覚える、とか言ってたもんな。せっかくマニュアルあるのに」

「非常に残念です。読みやすさを第一に、徹夜で漫画仕立てにした労力が……」

「ジョリー、漫画描くの上手いな。プロ目指せばいいのに」

「いえ、私は研究職のほうが性に合っておりますので」

「メチャクチャ描き慣れてる感あるんだけど、もしかして同人誌とか出してる?」

「ギクッ……」

「あ、やっぱ出してるんだ? 何だよ、早く言ってくれれば良かったのに。商工会議所でやってる『コミワンサミット』って知ってる? あれ、主催してんのうちの妹なんだぜ?」

「えっ!? コミワン主催!? ということは、もしや妹さんはサークル名『漢、人狼、一直線!』のワイルドウルフ先生ですか!?」

「うん。何がいいんだか、ハードゲイポルノ描いてるぜ。身バレ対策で本人は会場行かねえけども……」

「まさかハドソン家のご令嬢とは……。あの漫画は、男性が描いているものとばかり……」

「普通にそう思うよな。剛毛マッチョの胸毛とかスゲエもんな」

「はい……私、てっきり『その筋』のガチな方かと……女性作家だったなんて……」

「ジョリー、何ジャンル?」

「ノビータとドナテルロです。不思議道具を実際に作ってみよう、という技術検証系同人誌を……」

「既刊全種一部ずつください! 新刊予定があるならそれも予約しまーす!」

「なんとっ!? ありがとうございまーす!」

 漫画オタクと技術オタクが商談を成立させている間に、トニーとマルコの勝負は大詰めを迎えていた。

 《封魔結界》が作用しているため、二人は防御魔法が使えない。今はトニーのナイフをマルコが剣で受けている状態だったが、純粋な剣術ならばマルコに分がある。マルコは押されているように見えて、その実、トニーのナイフを落とすタイミングを窺っていた。

 トニーが斬り込んだ瞬間、絶妙な力加減でその手を蹴り上げるマルコ。

 次の瞬間、トニーのナイフが宙を舞う。

「しま……っ!」

 トニーの視線がそちらに逸れた一瞬の隙に、マルコは《封魔結界》を解除。同時に《緊縛》を発動していた。

「っ!?」

 魔法の鎖に絡めとられ、トニーは一切の動きを封じられる。魔法で反撃しようにも、トニーは額に《封魔呪符》を貼り付けられていた。もうこれ以上打てる手は無い。

「そこまで! 勝者、マルコ!」

 ベイカーのコールによって二人の勝負は終了。その後は仲間たち全員でのダメ出し&反省会ということになったのだが――。

「反省点なんて一つしかないだろう?」

 キールの言葉に、ベイカーは大きく頷いている。

「説明書はちゃんと読め! 対戦相手のほうが機能を詳細に把握しているなんて、間が抜けているにも程がある!」

 叱られることを見越して、トニーはあらかじめ犬に変化している。キールが犬好きなのを知っているので、都合の悪いときはたいてい犬の姿なのである。

 案の定、毒気を抜かれたキールは上目遣いの犬を叱ることができず、激甘飼い主モードに突入してしまった。

「そんな顔するなよぉ~! 分ればいいんだ、分かれば! なっ? 次から頑張ろうなぁ~っ!」

 これに対して、ベイカーはツッコミを入れない。なぜなら、ベイカーも犬好きだからだ。

 マルコは小声でロドニーに尋ねる。

「トニーさんが暴走しがちなのは、あのお二人が原因なのでは……?」

 訊かれたロドニーも、小声で答える。

「間違いなくそうなんだけど、犬好きには何を言ってもダメなんだ。犬好きだから」

「その……このところ非常に強く感じていることなのですが……トニーさん、最強すぎません?」

「え? 今日はお前の勝ちだったじゃん?」

「いえ、勝負の話ではなく、こう、キャラクター的な問題で……あの上目遣いに勝てる人間はいるのかと……」

「あ、うん、それな! いるわけがない!」

 いつの間にかキールは、トニーをあちこち撫でまわして「お前はイイ子」と連呼しまくっている。これではトニーが反省するはずもなかった。

 ダメ出し&反省会はなし崩し的に終了。特務部隊は戦闘訓練を終え、見物人たちも解散していく。


 誰もいなくなった運動場に、いつもと変わらぬ、明るい日差しが降り注ぐ。


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