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そらのそこのくにせかいのおわり(改変版)4.1 < chapter.1 >

挿絵(By みてみん)




 スフィアシティの騒動から十日後、デニスとグレナシンはアリオラクレーターに向かっていた。

「まぁ~ったくもぉ~っ! ほぉんと、やんなっちゃうわぁ~!」

 例によって、御者を務めているのは車両管理部のデニスである。グレナシンは馬車の中で資料を何度も見返して、その都度愚痴をこぼしている。

「地形的に怪しい箇所だけでも三十以上ですってぇっ!? どうなってんのよ! なぁ~んでこんなに分かりやすいモノに誰も気付かなかったワケぇ~!? 意味分かんな~いっ!」

 そう言うと、グレナシンは座席に地図帳を投げ出した。

 地図に描かれているのは中央市近郊に点在するクレーターの一つ、アリオラクレーター。直径四キロメートル、深さ五百メートルにも及ぶこのクレーターは、何千万年も前に起こった天体衝突によってできたものだと伝えられている。

 しかし有史以来、このクレーターから天体衝突を裏付ける証拠は一つたりとも発見されておらず、近年では天体衝突説に否定的な見解を示す専門家も多い。

 ではなぜ、未だに天体衝突説が有力視されているのか。

 それはこのクレーターの立地から、その他の説が完全否定されてしまうことに所以する。

「周囲五十キロメートルに火山無し! プレート境界無し! 地下水脈が引き起こした地盤沈下の可能性も消えた! 古代文明や竜族の実験場だった可能性も、今のところ全くな~し! 怪しい! 怪しすぎるわよ、アリオラクレーターッ!!」

 地図帳の表紙をバッシバッシと叩くグレナシンだが、彼がキレ気味なのには訳がある。

 つい十数分前、別のクレーターを調べに行ったアル=マハから連絡があったばかりなのだ。

 アル=マハ曰く、

「ティラノサウルスの守護神とエンカウント、交戦中」

 ここは猫人間や犬人間、狼人間などが仲良く暮らす世界である。それぞれの種族には祖先となった神がいる。そりゃあティラノサウルスの守護神くらいいるわよね~、と軽く聞き流して、通話を切った後でこの有様だ。

 グレナシンは涙目で問う。

「ねえ、ちょっと! デニスちゃん!? アンタどう思う!? あっちのクレーター、直径五百メートルしかないのよ!? 五百メートルでティラノサウルスの守護神が出ちゃうんだったら、アタシたちは何と戦うっていうの!? こっちの直径、四キロよ!? 最小サイズでもスーパーサウルス級じゃない!? アタシ、全長四十メートルの巨大恐竜とタイマン勝負なんかできないわよ!? 代わってくれない!?」

 いやいやそんなの無理ですよ! と言おうとして、デニスは思い止まる。


 普通の人間はティラノサウルスとも戦えない。

 しかしつい十日前、ベイカーは少なくとも千メートルはある白虎と空中戦を繰り広げていた。

 常軌を逸した『神の器』の戦闘能力なら、スーパーサウルスくらいどうにかできるのではなかろうか。


 そう思ったデニスは、冗談めかしてこう言った。

「ま、そうですね~。僕が代われば勝てちゃうかもなぁ~! あっはっは~!」

「なんでそんなに笑ってられるのよぉ~!」

「いっやぁ~、だって僕についてるカミサマ、なんと言っても金色のラッキーバードですし? 二羽もいますし? なんとかなりそうじゃないですか?」

「なんとかって何よぉ~! その楽観的思考アタシにも分けてよぉ~っ!」

 と、グレナシンが大騒ぎしていたときだ。アル=マハから二度目の通信が入った。

 グレナシンはワンコールで通話に出る。

「ハァイ、アーク! もう終わったの!?」

「いいや、まだ交戦中だ。ティラノサウルスの野郎、闇堕ちしてやがる。そっちのクレーターにも闇堕ちが出現する可能性がある。こいつを倒して合流するまで、クレーターの外で待っていてくれ」

「大丈夫なの!? 応援行かなくて平気!?」

「ああ、何とかするさ。じゃあな!」

「あ、ちょ……アーク!?」

 一方的に切られた通話。グレナシンは唇を尖らせ、子供のように足をバタバタさせる。

「なによ、もうっ! たまにはアタシを頼りなさいよっ!」

 そうこう言っている間に、馬車は問題の場所に到着した。

 適当な場所に馬車を止め、デニスとグレナシンはアリオラクレーターを見下ろす。


 直径四キロ、深さ五百メートル。

 地質学的にあり得ない、巨大なすり鉢状の地形。


 中央市までたった三時間の距離でありながら、この周辺に民家はない。過去に幾度か淡水魚の養殖場にする計画が浮上したようだが、水源確保の面から白紙撤回されたらしい。

 見渡す限りの砂漠。クレーターの中にも外にも、乾いた砂と小石だけがある。

 けれども、グレナシンとデニスはすぐにおかしなことに気付いた。


 どんなに強い風が吹いても、クレーターの内側には砂が落ちない。


 まるで透明な蓋でもされているように、風で吹き上げられた砂粒はクレーターの縁の高さのまま、まっすぐ宙を滑っていく。しばらく観察していたが、たまたまではなさそうだ。このクレーターはすべての砂粒を弾いてしまう。

「……副隊長、これ……」

「ええ、間違いなさそうね。ここ、何かいるわ……」

 二人は頷き合い、ほぼ同時に足元の小石を拾い上げていた。

 そして「せーの」と声を合わせ、それを放る。

「あ!」

「入った!?」

 小石はクレーターの中に入り、斜面をコロコロと転がり落ちていく。砂は防げても、ある程度の大きさのものは防げないということだろうか。

 二人は申し合わせ、そこら中にある色々な大きさの石を投げ込み始めた。

「あ、ダメ。二センチは弾かれるわ」

「三センチくらいのは入りましたよ?」

「じゃあその間くらいの!」

「これなら……あ、入った」

「こっちは……ダメ。じゃあこっちは……入ったわ! ってことは、直径二十五ミリくらいがボーダーラインなのかしら?」

「まあ、そのくらいの直径があれば普通の風では飛びませんよね?」

「そうよね。ここら辺の石、けっこう重いみたいだし」

「砂に埋もれてクレーターがなくなることは回避しつつ、人や動物は入れるように、って感じですかね?」

「そんな感じっぽいわね。うん。ますます怪しいわ」

「いかにも『接触されるのを待っています』って感じですよねー……」

 話し合う二人の視線の先では、投げ込まれた小石が転がり続けている。

 なにしろ五百メートルもの深さである。ほんの数秒で底部に達するような、小さく浅い穴ではない。

 コロコロ、コロコロと、小石はどこまでも転がっていく。その軌跡を目で追ううちに、デニスの脳裏に、とても嫌な想像が沸き起こった。

「あー……っとぉ~……その、グレナシン副隊長?」

「なぁに?」

「このクレーターに、もしも何かがいるとして……どこにいると思います?」

「どこって、そりゃあ、一番底の部分じゃないの?」

「と、思いますよね?」

「まあ、普通はね?」

「あからさまに怪しい場所には、足を踏み入れる前に、小石とか投げ込みますよね?」

「ええ、まあ、実際そうしてるわねぇ」

「……石が投げられた音と振動で、獲物の居る場所を感知したりとかは……」

「……アンタ、嫌なこと言うわね……」

「すみません……」

 二人はあまり物音を立てないよう、じりじりと後ろに下がっていく。

 この先に発生しうる事態とその対処法について、彼らと、彼らの内に住まう神々は、せわしなく意見をやりとりした。


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