屋上
その日、僕たちは学校にいた。
「単上さん、今日は何をするんだろうか?」
彼は屋上にやってきた。雲ひとつない晴れ渡った秋の空。吹き抜ける風が心地いい。単上さん、空を見るためだけに屋上へ?彼ならばそれもあり得てしまう。彼はくだらないところから感動を見つけるのが実にうまい。
彼はどこからかモップを取り出してくる。それからカメラを地面に置いた。自撮りでもするのか?困惑する僕を差し置いて準備は着々と進んでいく。彼はモップを持ったまま貯水タンクの方へ。まさか。モップを貯水タンクへと近付けるようにして持ち上げる。青空と貯水タンク、そしてそこへモップを掲げる単上さん。やっぱり。それは、青空をバックにした給水塔が印象的なとある映画のポスターを思い起こさせる。『バグダッド・カフェ』。あの映画において、砂漠に立つ給水塔は乾いた人間の心を潤す、いわば象徴的な役割を果たしていた。
タイマーが作動し、設置されたカメラのシャッター音が響く。確かに知る人間からすればニヤリとできる光景ではあるが、だからどうしたという感は否めない。少なくとも学校の屋上で、それも一人でやることではない。しかし、彼は本当に楽しそうだった。あの不気味な笑顔を見て、その幸せを否定できる者など誰もいない。
撮影が終わったにも関わらず、彼はポーズを取り続けていた。世界に浸っているのか、あるいは止め時が分からないだけなのか。
昼食の時間が近付いていた。この画をいつまでも見守りたいところだが、毎日12時半には屋上で、彼女とランチをすると決めている。泣く泣く、先生が呼んでいると嘘をつき単上さんを追い払った。