ドローン
その日、僕たちは河川敷にいた。
「単上さん、今日は何をするんだろう?」
彼が今日なにをするのか、それは一目瞭然だった。彼の手には大型のドローン。そう、あれを飛ばすというのだ。先月、5.8Ghz帯の無線電波を利用するための資格を取った彼はここしばらくドローン飛行に凝っていた。
彼が飛ばすのはもっぱらFPVドローン。First Person Viewの名の通り、ドローンにカメラが搭載されていて、対応するHMDを装着することでさながら鳥の気分が味わえる。
今日も優雅に夕焼けの空を飛んでいる。僕はドローンが飛ぶ間、単上さん本体を見ないようにしていた。彼は持ち前の感受性で、100%ドローンと一体化している。だから彼は自分自身が飛んでいるかのように振る舞うのだ。本人はさぞや楽しいだろうが、端から見れば奇人である。草むらの中で珍妙なヘルメットを被り、くねくねと身体を揺らす。そして例のごとくニヤニヤしているのだから堪らない。
いつものことながら、彼は僕に見られていることを知らない。誰に向けられるものでもない、ありのままの笑顔はその純粋さゆえに不気味だった。しかし、これもいつながら思うことだが、これこそが現代人の忘れた幸福ではないのか。インターネット、SNSが発達した今日、誰もが自分を少しでも良く見せようと的はずれな努力を続けている。ありのままの自分を発信するというより、もはや誇張にまみれたコマーシャル。宣伝にばかり労力を割いて、肝心の中身はスッカラカン。本当の自分を抑え、嫌々ながら世間体に沿う生き方をするものだから、少しでもそれに反発する者を見つけると親の仇のように吊し上げる。
僕は単上さんの笑顔にこそ幸福を見出だした。彼は誰かに認められるためにドローンを飛ばしているのではない。たとえ彼の笑顔が不気味に映ろうと、彼の姿が奇人に見えようと、彼が幸せを感じているならばこれは誰も否定することのできない幸せなのだ。
本来、幸せとは誰かから規定されるものではない。それは…。
ドローンがこちらに近付いていることに気付く。僕はさっと草むらに伏せた。バレたとしても、おそらく怒られはしないだろうし、ましてや嫌われることもないだろうが、僕が恥ずかしい。あれだけご高説をのたまっておいてこの有り様かと自虐した。
夕食の時間が近付いていた。鳥は夜目が利かないが、単上さんはどうだろう。しかし、毎日18時には飯を食うと決めている。泣く泣く、僕はほふく前進で帰途についた。