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その日、僕たちは学校にいた。
転校生がやってくるというのだから、教室はいつも以上にやかましい。そんな中でも単上さんは涼しい顔をしている。彼の机の上にはペットボトル。それも初めて見るようなマイナーなやつ。ド田舎の自販機にあるような、毒々しいデザインをしている。よく目を凝らしてみると、キャップの部分に何かが付いていた。あれは、一時はやったボトルキャップフィギュアだろうか?
大きな目玉をした化け猫のようで、こちらもおそらくドが付くほどにマイナーな作品のものだろう。いったいあんなもの、どこで買ってきたんだろう。しかし、見れば見るほど気持ちが悪い。三毛猫のようではあるが、異様なまでに大きな目と小さな顔、それから細すぎる手足はまさしくグレイ型の宇宙人を連想させた。これじゃあまるで…。
「じゃあ、入ってきてください」
先生のこの一言で、教室が静まり返る。そして現れたのは、モデルのような美少女だった。背丈はおそらく170を越えており、何よりも目につくのはすらりと伸びた四肢。肌はミルクを流したように白く、女子としては長身であったが、なんとも儚げな印象を与えた。
「こんにちは。一之瀬 一乃と言います。よろしくお願いします」
拍手。
このとき、単上さんを除いた教室中の誰もが彼女の内面を思い描いていたに違いない。慎ましく、落ち着いた性格だとか、休み時間には小難しい本を読んでいそうだとか、言葉遣いが丁寧そうだとか、とにかく誰もが彼女をそういった、おしとやかな少女だろうと考えていた。
しかし、現実とはなかなかに難しい。強面の中年が実はお化けを怖がる小心者であったり、清楚な女の子に限って性に貪欲だったりするものだ。そしてそれと同様に、彼女はあり得ないほど意地の悪い性格をしていたのだ。さらにたちが悪いのは、彼女は図抜けた天才だった。ただの秀才と言うより、天賦の才とも称すべき、万事を器用にこなしてしまう要領の良さを備えていた。要領の良さの根源ともいうべき並々ならぬ好奇心はあらゆるものへと向けられ、当然のようにその矛先は単上さんにも向かった。
だが、このときの僕はまだ何も知らない。休み時間になり、彼女に群がる大質問団に加わっていろいろと情報を仕入れても、肝要なことは何一つ得られなかった。そして僕は彼女から何ら魅力を感ぜず、すぐさま単上さんの観察へと戻ったのだった。