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その日、単上は学校にいた。
「単上さん、今日はどうするんだろうか?」
チャイムが鳴り終わると、彼はすぐに立ち上がる。それから大崎の席へ近寄った。
「大崎さ、さっきのところ、答えだけ見せてもらっていい?」
「また?いいけど合ってるかどうか分かんないよ」
「大丈夫、大丈夫。前だって8割近く正解だったんだから」
自然にノートを分捕った。あのやり口には毎度ながら感嘆する。課題を自分で済ませたことなどおそらく一度もない。成績の良い人間を選んで媚び、調子よく答えだけをいただくのだ。何度か、彼が人を怒らせる様子を見たことがある。しかし、思うに彼は謝るのが上手い。どうせ反省の気持ちなど微塵もないくせに、申し訳なさそうな、何とも言えない顔をして詫びるのだ。彼の愚行に痺れを切らした教師など、大声で怒鳴り散らすことも珍しくはない。しかし、単上はどう怒鳴られればいいのかを知っているようだった。怒っている側からすれば反省しているのだろうと少しは気持ちを緩めるが、事情を知っている僕からすれば、あれは暖簾に腕押し。まったくもって効果などない。
そうこう言っているうちに単上さんは答えを写し終えたのか、ノートを返していた。これまたやりすぎなくらいのおべっかを大崎に飛ばすと、颯爽と教室を出ていった。
昼食の時間が近付いていた。彼の行動が気になるが、毎日12時半には屋上で、彼女とランチをすると決めている。泣く泣く、軽やかにスキップをする単上さんの背中を見送った。