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1-3

その日、単上は家にいた。


「単上さん、今日は何をするんだろうか?」



彼は嬉しげに椅子に座っていた。机には料理が置いてある。今から夕食だろうか。あの特徴的な形の食器はマイセンのものだろう。ナイフフォークに至ってはステンレスでなくシルバー製に見える。今日は何かの記念日か?少なくとも誕生日ではない。単上さんのことだ、どうせ意味もなく高い食器で飯を食べたくなったのだろう。あいつ、バイトもしてないくせに…。


皿に乗っているのはテリーヌ。自分で作ったのか。誰に振る舞うわけでもなく、自分のためだけに。待てよ。何か音楽がかかってる。壁に耳を近付ける。微かではあるが、これはバッハだ。ブランデンブルク協奏曲第1番、第4楽章。一人であんなに盛り上がって。常人にあんなことができるか?端から見れば正気の沙汰じゃない。ずっと目を閉じて、音楽に耳を傾けている。皿の上に乗っかっているのは食品サンプルか?さっさと食べろよ。


しかし微動だにしない。いったい何が目的なんだ。単上さんの身体が揺れる。もちろん寝落ちしたわけではなく、音楽に乗せてリズムを取っている。得意気な微笑みも手伝って、見る者を不快にしかねない画が出来上がっている。そもそも、席についていて、目の前に料理があるにも関わらず、ずっと両手を膝に乗せて、笑顔を浮かべながら身体を揺らすこの状況そのものが常人には理解しえない。


外廊下で足音が響く。しばらくして、単上さんの顔が扉の方を向く。誰かが彼の部屋をたずねてきた。彼はすっと立ち上がり、ニヤリとしながら玄関へ向かった。人を待っていたのか。しかし、誰が?ワクワクしながら画面を見つめていると、段ボール箱を抱えた単上さんが戻ってきた。なんだ、通販か。


単上さんは手際よく準備を進めていく。中にびっしりと入っていたのはラウンドキャンドル。僕は頭を抱えた。まさかこれを待っていたのか?

テーブルにキャンドルを不規則に置くと火を付けていく。そして一通り火付けを終えると、電気を消した。暗がりの中で淡くキャンドルの炎が輝いている。暖かく柔らかな色合いの光が照らし出すのは艶やかな白の皿、それからテリーヌ、そして単上さんのにやけ顔。







夕食の時間が近付いていた。彼のディナーはおそらくまだまだ続くだろう。毎日18時には飯を食うと決めている。泣く泣く、僕はモニターの電源を切って部屋を出た。

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