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101番目の百物語異聞  作者: サイトウケンジマンA
3/5

異聞外話・迷いの森のロア②

 やがて列車は減速して……。


「あ、どこかに到着するみたいよ? なんか灯りが見えるもの」


 スナオさんが窓に顔を貼り付けて線路の先を見ています。


「あの世に到着した、ということではないことを祈りましょう」

「んー、そうね。あの世っていうより、超小さい駅って感じっ」


 スナオさんの言う通り、列車は小さなホームに到着しました。

 プシュー……ドアがゆっくりと開きます。

 特に到着のアナウンスもなければ、誰かがやってくる気配もありません。


「なるほど、さて、何が出るかなー」


 アリサさんはさっさと列車を降りて、駅の看板を眺めていました。

 私も一度だけ列車の中を見回してから、開いたままのドアからホームに降り立ちます。

 ごく普通に造られた小さな無人駅。少し地方に行けばこのタイプの駅はよくあるでしょう。駅にある小さな電球のような灯りと、列車の明るさのおかげで視界に不自由はしませんが、駅周辺は真っ暗闇と言ってもいいくらいに暗く何も見えません。


 草木がサワサワと風になびいている音が聞こえるくらいです。調査してみないことには何があるのかは不明ですが……。


 なんとなく、闇の中に何かがいるような気がするので警戒は強めておきます。


「看板の文字ははっきりとは読めないが、まあ三番目の説で間違いないだろう」


 アリサさんのため息まじりの言葉を聞いて、私も看板を見てみました。

 行き先も、今来た駅も、そしてこの駅のことも、全て文字がかすんでしまっていて読めません。なんとなく『……さ……ぎ……』のように見えなくもありませんが、長い年月放置されていたのか、文字の形をなしていないので明確には理解できませんでした。


「こいつは幽霊列車でも、地獄列車でもない。『きさらぎ駅』だ、リア」


 アリサさんが手を組みながら告げました。


「きさらぎえき?」


 スナオさんが看板をコンコン叩きながら尋ね返しています。


「ああ。元々は十年くらい前にインターネットのオカルト系掲示板に載っていた話だな。列車の中にいた女が、気がついたら全く知らない駅に辿り着いたってスタートだ。元々乗ってた伊豆の方の列車にはそんな『きさらぎ』なんて駅はなくて、ちょっとパニックになるって感じのホラー話さ」

「ふえー。その時は看板に『きさらぎ駅』って書いてあったの?」

「みたいだな。そのままそいつは、歩いて帰ることにして線路沿いに歩き出したわけよ。今来た線路を辿っていけば、元の場所に帰れるって思って。その後はえーと……トンネルがあったり、祭りの音が聞こえたりしたんだっけな?」

「お祭り? なんだかファンキーな話なのね」


 ファンキーなのかどうかは解りませんが、確かに色々な要素が混ざり合った話なのかもしれない、と聞いている私も思いました。


「こいつの愉快なところは、他にも『オレもきさらき駅に着いたことある!』とか、実は色んな地方で似たような駅があったとか、そういう話が生まれまくったことだな。ひとつのきっかけをベースに『同じ体験をしたことがある』って言い出すヤツが増えたのさ。その地方のバリエーションも多彩で、伊豆だったり東北だったり九州だったり。列車から降りれなかったり、降りても何もなかったり、降りないおかげで助かったり、とかな」

「ふえー……んで、オチはなんなのよ、アリサ」

「うむ。実際のきさらぎ駅には、実はもう一人の登場人物が現れるんだ。あれ? その前にじじいがいたんだっけな? まあいいや。トンネルを抜けた先に、なんか車を持ったおっさんがいて。安心して話しかけてみると、今日はもう遅いからホテルかどっかに案内するとかなんとか。そのまま車に乗ってると、なんか怪しい……どこかに連れて行かれるのかもしれない……みたいなところで、その後の書き込みはなかったって感じのはずだ。どっかで後日談が語られたとかいう噂もあるが、本人かどうかも解らないってのもいかにも都市伝説向きだろう。オカルト好きなニトゥレストならもっと詳しく覚えているんだろうが、私だとこんなもんだよ」


 ニトゥレスト、と聞いて私はつい表情を固くしてしまいました。

 兄さんといつも一緒にいる相棒の一人……『ロア喰い』とも呼ばれる危険な魔女。

 確かに彼女の知識量は多いので、このロアについても詳しく知っていたでしょう。


「聞いてる限り、なんか変なロアねー。結局なに? 人さらいしたいの? だったらそんな回りくどいことしないで、わたしみたいにサッ! とかっぱらっちゃえばいいのに」

「ロアってのは面倒な手順があるヤツも多いのさ。だけどまあ、言われてみれば確かに、こいつは単なる人さらいの噂話かもな。単純に読む限りは『神隠し』の一説みたいなものなわけだが」


 ロアの中でも有名過ぎる存在として確立されている『神隠し』。

 その話は世界中に広がっているため、その力は決して衰えないどころか日に日に増すばかり、という恐ろしいロアです。

 ……そんな危険極まりないはずの『神隠しのロア』も兄さんのそばにいたりするのですが、今度は表情を固くせずに済みました。


「リア、ちょくちょく嫉妬してる場合じゃないぜ」

「リアは乙女だから仕方ないのよー」


 しかし、二人にはバレバレだったようで少し恥ずかしくなります。


「こほん。私のことはいいんです。この駅が『きさらぎ駅』だとした場合、この駅そのものがロアとみなすべきなのでしょうが……なんとなく、それだけではない気がしています。移動先にあるトンネル、その先にいる男性など。いくつかの要素がこの話の中には絡み合っていますから」

「そうなの? この駅をぶっ飛ばせばいいんじゃないの?」

「単なる神隠しならばそれで問題ありません。ですが、この駅は単なるスタート地点に過ぎない可能性があるんです、スナオさん」


 そう。『きさらぎ駅』というタイトルの都市伝説だから駅そのものがロア、というのは安直な考え方であることを思い知っていました。この駅が開始地点であり、その先にいくつもの『神隠しトラップ』が待ち構えているものだった場合……私の敵は単なる駅のロアではなく、別種の『神隠し』になります。それも……。

 十数年くらい前に生まれたばかりの、情報の少ない相手ということです。


 トンネル、祭りの音、男性、移動先……。


 場合によっては、かつて兄さんが倒したロアである『人喰い(カーニヴァル)』のように、この駅を開始場所としてかなり広範囲を含めたものである可能性もありました。


「ま、色々探してみようぜってことだな」


 アリサさんは早速改札の方に向かっています。ロアである彼女にとって恐怖心というものは無縁であり、魔女でもある彼女は好奇心の塊でもあります。


「私たちも色々調べてみましょう、スナオさん」

「そうね。リアのヒントを探さないと」


 そう、私の対抗神話を使うためには、ロアのヒントを探す必要がありました。

 いかなるロアをも消すことができるという能力であるため、最強最悪の主人公とまで呼ばれている私ですが……消すための夜話は調査と想像によって作り上げるものです。

 それはつまり『その都市伝説は嘘だった』『その話はもう解決している』『原因が解っているから不思議な話ではない』というものを人々に信じさせる話を読み上げること。

 ある程度、対抗神話の中に創作要素が入っていたとしても、より多くの人が信じるものであれば効果的、というものです。


 ここで『きさらぎ駅』に関しての夜話を創作する必要があるとします。たとえば、『もう二度と、その駅に辿り着く人はいなくなりました』のようなものを対抗神話として朗読するとしましょう。

 そうすればこの不思議な駅に辿り着く犠牲者は確かにいなくなるかもしれません。ですが、他にもこの不思議な空間への入り口があった場合、何の解決にもならないのです。

 そして別の都市伝説か何かで、どこかに迷い込んだ人が『駅に辿り着いてみると、そこにはきさらぎ駅と書いてあった』などと言ってしまった場合……。


 私の『千の夜話』は破られ、『きさらぎ駅』は復活します。


 だからこそ私が夜話を創り上げる時は、より詳細なデータが必要となるのです。


「とりあえず改札にも誰もいなかった。完璧な無人駅だな。お金カード系も使えないみたいだったぜ。リア、知ってるか? 昔は切符をカチンカチン切ってたんだぞ」


 アリサさんが何かで切符を挟むような仕草を見せました。


「キップをきるの? べらんめー、てやんでー、みたいな?」


 スナオさんはこれまた勘違いしているようです。それはきっぷの良い人、のような時に使用する全く別の言葉だったはずでした。


「そうだな。つまり昔の駅員さんはかなりいなせな男だったってわけさ」

「へえー、べんきょーになったわね、リア!」

「そ、そうですね」


 本当のことを話していいものなのか、それとも別に嘘ではないからツッコミは入れなくていいのか。アリサさんの人を喰ったような物言いはなんとも言葉に困ります。


「……それで、アリサさん。改札を出た先はどうなっていましたか?」

「草ボーボーで道みたいなのも覆い尽くしている感じだったな。あれだけ背丈の高い草を三人で進むと、離れ離れになる可能性は高いとみたぜ」

「三人で手を繋いでいればいいんじゃないの?」

「ま、それも手なんだが。いかんせん、その草の先がどこに繋がってるかも解らんだろ? 無理して三人で突き進んでも仕方ないさ」

「アリサがバビューン! って飛んで見てくるってのは?」

「真っ暗過ぎてよく解らんが、一個の手ではあるっちゃあるな。もっとも、月どころか星すら出てない闇夜だから正直勘弁して欲しい。私が飛び去った後、この場所に戻ろうとしたら戻れなかった……ってのもあるかもしれんし」


 この手のロアの世界は、ロアそのものが持つ世界観に囚われます。空を飛んで脱出を図ろうとした場合、良くて同じ場所に戻ってくるのですが。最悪のパターンだとそのまま永久にどこにも戻れない、ということも有り得るのです。


「朝になったら何か見えるかもしれないわよ?」

「朝が来る場所ならそれも手なんだろうけどな?」

「あ……そっか。そうよね、ロアの世界だものね」


 当たり前の感性でアリサさんに質問してくれるスナオさんのおかげで、私の中でも情報が整理できていました。

 改札を出て先に進むこともできず。

 行けるとしたら、線路を戻るか先に進むか、という二択に絞られた場所。


「この列車に乗り続けるという選択肢もないのですね」


 私が最終確認も兼ねて尋ねると。


「きっと動かないだろうしな。こいつはここまで被害者を乗せてお役御免ってことさ。列車っていうのはレールに従って人を運ぶものだ。なのに、全く違う場所に連れて行かれてしまうかもしれない……そんな不安感を煽られた結果、こういうロアができたんだろ」


 アリサさんはそんな分析結果を教えてくれました。

 流石は魔女のロア。様々なものを研究し考察することを得意とする、ロアの中でもかなり敵に回してはいけないタイプの一人です。


「寝過ごした時の超ビックリした感じね! わかるわー」


 スナオさんは確かに、何度も寝過ごしそうな雰囲気がありました。

 外国からこちらに住むようになってからはあまり列車に乗ることはなかったはずなので、おそらく元々いた外国での話なのかもしれません。

 ……外国の列車って、結構駅と駅の間が離れているような印象がありますが、スナオさんは大丈夫だったのでしょうか。


「で、どうするリア?」

「まずは物語をなぞりましょうか。襲われた時は宜しくお願いします、スナオさん」

「うん、まかせて! さいきょーの『夜霞(やがすみ)のロッソ・パルデモントゥム』の実力をバリバリ見せてあげるわっ!」

「では、ええと……」

「インターネットの書き込み通りなら、このまま線路に降りて元来た道を戻れって感じになるけどな」

「線路の先ってどこに繋がってるのかしらね?」


 スナオさんは列車の進行方向が気になっているようです。

 進むにしても戻るにしても、真っ暗闇に向かっていく形。


「結局どこにも繋がってなくて、戻ることもできなくて、そのまま消えちまうってことも充分に考えられるぜ」

「うわぁー、厄介なロアね! 本体が現れてぶっ殺す! とかなら楽なのに!」


 実際、本当に厄介なロアでした。

 情報を整理すればするほど、悪い方向に進む以外の選択肢が消されている気がします。

 とはいえ、こうしてロアの挑戦を受けた以上は立ち向かわなくてはなりません。

 何故なら私は。


「そうですね、本体を見つけて懲らしめるとしましょう。一体誰に喧嘩を売ってしまったのか、きちんと教えこむ必要があります」


 私はホームの後ろに向かって歩きながら、拳をきゅっと握り締めました。


「そいつは最強の主人公に、ってことかい?」

「それもあります。ですが、今の私たちは……」


 そのまま、真っ暗闇の奥。何かが潜んでいるような気配の先。

 そこにいるであろう、私たちを待ち構えているロアを睨みつけるように。


「『101番目の百物語』、その所属ロアを敵に回すということが、どれほど普通のロアにとって危険であるのかを知らしめる必要があります」


 兄さんの妹、兄さんの物語として。

 私は絶対にこんなロアに負けるわけにはいきませんでした。

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