超ショートショート「絵本と失くしたもの」No73
掲載日:2018/11/04
私は図書館で絵本を借りてきた。
普段は絵本なんか全然読まないし、手に取ったこと自体もすごく久しぶりだ。手にした時のそれのあまりの軽さに少し驚いてしまったほどだ。
図書館にいたらなんだか無性に読みたくなって、6冊ぐらいの民謡とその解説本に混じって1冊だけ借りた。
家に帰って暫く勉強をしていると、外はすっかり暗くなってしまった。
卓上ライトのあかりが目に染みる。
腫れたようにぼーっとする頭を動かして丸窓から空を見てみる。
残念なことに今日は雲が濃くて星空は見えない。黒い羊毛みたいな雲がもくもくと渦巻いて、なんだか不思議な有様だ。
私はふと思い出し、借りてきた絵本に目をやる。
この絵本は実は子供の頃何度か読んだことがあり、内容も全て覚えている。
私は、ゆっくりと、絵本を開いたー…
私が絵本を閉じた途端、私の意識は戻ってきた。
なにがあったんだっけ?
私の頬には感動した時の「それ」の跡があるが、私はそれを覚えていない。
時間として数分。その間の記憶が落っことしたみたいにすっかり消えていた。
多分だけど、私は絵本を読むにはあまりに感覚が衰えてしまい、既に今の私には理解できないことになってしまったのかもしれない。
私はちょっとだけお酒を呑んで、まだ残る「それ」の余韻に酔いしれていることにした。




