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097 魔法少女のローザ

厳しいなぁ。


あまりの厳しさに考え込んでしまう俺。


それは、魔法の授業の終わりにローラ・アトリーから告げられた悲報。

期末の学年代表戦についての事だった。

規則が見直されて、前期より、開始位置が相手に近くなるらしい。


俺、圧倒的に不利過ぎる。


……何で皆、俺の方見ているんですかね?

授業終わりましたよ、早く教室に帰ったらどうですか?


訓練服を着た一年生達が、学舎に帰らず、こちらを見ている。


秋晴れの空の下、行われた魔法の授業で訓練場はほのかに暖かい。

期末の試験と代表戦を見据えて、火弾を撃ち合うという実戦に近い訓練を皆でやっていたからだ。


「大丈夫かよ、カイル?」


ネイトが心配そうに話し掛けてきた。


今日は蒼穹寮のメンバーと一緒に授業を受けていたので、俺の周りには、いつもの四人がいる。


「厳しいね」


俺は本音を伝える。


「そうだよな」


ネイトが眉間に皺を寄せて考え込む。


対策を考えてくれているのだろう。


肉体強化が出来ない俺は、接近戦にとても弱い。

改定後の開始位置だと、魔法の早撃ちより剣の方が早く届く。

剣での勝負は避けられない。


「どうしようかなぁ」


これは困った。


俺が打開策を考えていると、一人の少女が近づいて来る。


「カイル様、どうするんですか!?」


怒ったように眉を吊り上げ、驚いたように目を見開いているローザ。


ローザから話し掛けてくるとは珍しい。


「どうしましょうか?」


俺は尋ね返す。


俺も不利だが、ローザも不利だ。

前期の代表戦、魔法科目代表者として参加したローザは、闘う事なく降参している。

理由は、剣を持って襲ってくるロジャー・レインに恐怖し戦意を喪失したからだ。


気持ちは分かる。

剣を持った相手に襲われたら、怖いに決まっている。

だから、誰もローザを嘲笑しなかった。


納得できないのは、ただ一人。

ローザ本人だ。

不甲斐ない自分に怒り、前期の汚名を返上しようと期末の代表戦に並々ならぬ情熱を注いでいる。


剣の実力はへっぽこだけど。


「ローザ、ヤバいじゃん!」


ルーシーがローザに抱きつく。


「ちょっと、くっつかないでよ」


ルーシーを引きはがそうとするローザ。


「これはもう覚悟を決めて剣でやり合うしかないでしょ」


ルーシーが身も蓋もない事を言う。


それが出来たら苦労しないって話だ。


「うっ」


怒りを引っ込め言葉に詰まるローザ。


「一度、剣で受け止めてしまえば、何とかなりますよ」


俺も助言を送る。


ローザに足りないのは勇気だ。

ローザは、普通に肉体強化が出来るので、肉体的な不利はない。

剣の実力がへっぽこなのも、技術の問題ではなく、気持ちの問題が大きい。


「! ……」


一瞬俺に鋭い視線を投げるも、すぐに俯くローザ。


「「「「……」」」」


押し黙ってしまったローザに、何と声を掛ければいいのか分からない俺達。


「まあまあ、そんな深刻に悩まなくてもいいでしょ。

開始直後に逃げれば魔法戦に持ち込めるんだから」


ルーシーが、ローザの頭をなでなでしながら、まともな解決策を提示する。


「……それは格好悪いから嫌」


ローザが小声で答える。


初手逃げ。

汚名返上、名誉挽回を目指すローザには選択し難い作戦だ。


俺なら逃げる。

ただ、逃げ足がないので相手に捕まるのがオチだが。


「だから、カイル様はどうするんですか?」


上目遣いのような可愛さはなく、睨め付けるような目で俺を見るローザ。


その表情から必死さが窺える。


なるほど、だから俺の所に来たのか。


「そうですね……」


俺はしばし考え込む。


「……僕は棄権しようと思います」


「逃げるんですか!?」


我を忘れ大声を出すローザ。

ネイト達も驚いている。


「まあ、そうなりますかね?

でも、接近戦で僕が勝つのは難しいですから

素直に棄権するのが潔いのではないかなと」


剣術も格闘術も授業中しょっちゅう負けている。

なので、負けて傷つくような名誉は、俺には無い。

接近戦必至の代表戦に、俺が出なくても皆は納得するだろう。


唖然としているローザ。


「き、貴族の、フット家的な名誉は?」


ローザが動揺しながら言葉を絞り出す。


「大丈夫ですよ。

この程度でフット家の名誉は傷つきません」


俺は断言する。


フット家とは、デイムの事を指す。

デイムが負けなければ、フット家は負けないのだ!


「そ、そんな……」


自信満々に言い放った俺を見て、うなだれるローザ。


ちょっと可哀想だな。


今回の規則改定は、たぶん俺のせいだ。

前期の代表戦、俺はまともに剣を使っていない。

魔法だけで優勝してしまった。


このままでは期末の代表戦も同じ結末になってしまう。

そう危惧した学校側が、用意した俺対策。


ローザは、それに巻き込まれてしまっただけだ。


「ローザ、大丈夫?」


ナタリアが、ローザに寄り添う。


ナタリアも対人戦は得意ではないので、ローザの心情がよく分るのだろう。

俺達の中で一番同情的だ。


「もうむりかも」


ローザが、ナタリアに弱音を呟く。

隣にいるルーシーがやれやれと困った表情をつくる。


どうするか?


逃げないで闘う方法。

ちょっと真面目に考える俺。


「相手の頭上を跳び越える、というのは、どうでしょうか?」


俺は、ルーシーと同じような作戦を提案する。


「……」


ローザから否定の言葉が返って来ない。


どうやら検討の余地はありそうだ。


この作戦は、向かってくる相手に向かって跳躍しなければならない。

相手に向かって踏み込む勇気が必要とされる。


ローザが気にしているであろう勇敢であるか否か。


勇気が必要な行動は、逃げとはいえない。

しかも、この作戦は上手くいけば剣での勝負を避け魔法戦が仕掛けられる中々良い作戦だ。


「……」


ローザは黙り込んだままだ。


「うちの作戦とどう違うのさ」


不満気なルーシー。


逃げなのか回避なのか。

それを決めるのは、ローザ本人だ。


俺達ではないのだよ、ルーシー君。


「なあ」


今まで、黙っていたミックが口を開く。


「まだ期末試験も始まってないのに、

代表戦の心配するの早くない?」


代表戦は期末試験の成績優秀者が出場する。

そのため、ミックの指摘は正しい。


ローザが鋭い視線をミックに向ける。


「な、なんだよ」


たじろぐミック。


敢えてスルーしていた前提条件。


「何だよ、何か言えよ」


動揺するミック。


「……」


何も言わず睨み続けるローザ。


「何だよ、何も間違った事言ってないだろ?」


抗議するミック。


「……」


無言睨みのローザ。


やはりスルーが正解だったか。

ありがとう、ミック。

正解を教えてくれて。

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