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086 魔眼対策の授業①

マーカスは狩人として旅立っていった。

旅立つ際の晴れ晴れしい顔に、思うところが無いと言えば噓になる。


マーカスは、闘技場という地の利を最大限に有効活用して勝利を手にした。

捨て身の攻撃も後で回復できると分かっていたからこそ実行できたのだ。

反対に、グレアムには、その辺りの経験が足りなかった。

それが勝敗を分けた要因だと俺は思っている。


竜殺しと不良狩人の決闘という夏休み最後の一大イベントが終わり、

ガジャ魔法学校も新学期が始まっている。


まだまだ残暑の厳しい初秋

教室の窓の外の陽光に目を細める俺。

今日の魔法の授業は座学なので、先生の話を聞いているだけで済むので気楽だ。


「残念ながら、竜殺しは剣闘士に負けてしまいましたが、

止めを刺すまで油断するなという、当たり前ではありますが大事な教訓を教えてくれました」


魔法教師ローラ・アトリーが決闘の感想を語っている。


先生も観戦していたんですね。

さすが一大イベントと思うが、なぜ授業中にこの話をするのだろうか?


教壇に立つアトリーを見つめながら話の流れを追う俺。


「竜殺しという偉業をなした人物でも負ける時は負ける。

敗北という残念な結果でしたけど、希望のある結果でもあったと私は思います」


希望とは何ぞや?


「希望とは、つまり、絶対的な実力者ではなくても、竜を討伐できるという事実です」


どやぁと自慢気に胸を張るアトリー。


二十代の女性としては、あざとい仕草なのではと思わなくもない。

まあ、可愛いのでよし。


それにしても、アトリーの発言は極論だと思う。

サンプルがグレアムの一例だけでは誰も納得はしないだろう。

現に生徒達の反応は鈍い。

知識として、竜は危険な存在だと学習しているので倒せると言われても実感が湧かないのだろう。


「皆さん、きょとんとした顔ですね。

イメージしづらいですか、自分が竜を屠る場面を?」


アトリーが問い掛ける。


「……」


誰一人答えない。


「そうですか。

イメージ出来ませんか。それは非常に危険な状態です。

皆さんは、竜に襲われた時にどうするか、その算段が出来ていないというわけですね?」


アトリーの厳しい問い掛け。


不真面目さを責めるような質問に、教室が重苦しい雰囲気になる。


仕方ないじゃん、竜なんてレアモンスターそうそう遭遇するわけないんだから

対策なんて立てないよ。


皆もそう思っているだろう。


確かに考えが甘いといえば甘い。

甘さがあれば、それを指摘するのが教師の仕事だといえば仕事だ。


「甘いですよ、皆さん。

これまでは運よく遭遇しなかっただけです。

これからは竜と遭遇する事を想定し、それに備えなければなりません」


アトリーが、無茶だが前向きな発言をする。


叱責のターンは過ぎたと、生徒達が顔を上げアトリーを見る。


「緑竜は、大した事ありません。

私達人間より丈夫な肉体と空を飛ぶという利点しか持っていません。

優秀な魔法使いなら一対一でも勝つ事が出来るでしょう。

安全面を考えれば、一頭に対して複数人で挑むのが大怪我を負うリスクが少ないと良いと思います」


アトリーは、緑竜を大した事ないと言いつつも、戦力的に侮っているわけではない。

その発言のちぐはぐさに生徒達は困惑する。


「緑竜は、今の皆さんの実力でも十分に渡り合えます。

しかし、赤竜相手には通用しないでしょう」


俺達を上げて落とすアトリー。


ディスられても誰も抗議の声を上げないのは赤竜の恐ろしさを知っているからだろう。

……というか、この先生、俺達に竜との戦闘をさせようとしているのか?


アトリーの厳しさに若干引く俺。


「赤竜には『魔法封じの魔眼』があります。

その瞳に囚われれば、攻撃魔法はもちろん、普段何気なく使っている肉体強化の魔法も使用出来なくなります。

魔法が使えない人間は、ただの脆弱な生き物です。

それは皆さんも例外ではありません。

ですが、貴方達は、それでも赤竜の襲撃に備え、対抗策を準備しておかなければなりません」


アトリーの無茶振りに生徒達に動揺が走る。


「なかなか無茶を言うね、先生は」


俺の隣の席に座るメイソンが苦笑する。


「そうですね。

この国で赤竜を倒せるのは、お祖母様位ですからね」


メイソンに応える俺。


別に、祖母自慢というわけではない。

赤竜といえばデイム・フット、

デイム・フットといえば赤竜という具合でセットで語られる事が多いのだ。


「この国で赤竜が討伐されたのは、皆さんが生まれる前、

現在のフット領領主デイム・フット伯爵が若かりし頃に討伐された一例だけです」


アトリーもデイムの名を挙げる。


視線が集まるのを感じる。

アトリーもにこりと笑顔を向けてくる。


「はは」


乾いた笑い声で応える俺。


「凄いですよねぇー格好良いですよねぇー。

この国でただ一人の『赤竜殺し』なんですからぁー」


やたらとデイムを持ち上げるアトリー。


「そんな凄い御方から赤竜の魔眼対策を直接伝授されたのが、

この私ローラ・アトリーなのです」


またもや自慢気に胸を張るアトリー。


何だと!?


にわかに騒がしくなる教室。

目の前に、赤竜の魔眼への対抗策を知っている人物がいる。

もしかしたら、それを教えてもらえるかもしれない、と期待に目を輝かせる生徒達。


「今日は皆さんに、『赤竜殺し』フット伯爵直伝の『魔法封じの魔眼』対策をお教えします!」


「「「おおお!!!」」」


待っていた言葉がアトリーの口から発せられた。

生徒達から歓声が上がる。


皆喜んでいる。

その策を会得し、伝授したのがデイムだ。

やはりデイムは偉大な人物だなと、喜ぶ生徒達を眺めながら、そう思う自分がいた。

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