表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/140

083 竜殺しの決闘相手

『竜殺し』グレアム

隣国レイリー王国で緑竜を討伐した狩人


エンマイア王国出身の狩人という事もあって

『竜殺し』は、この街でも好意的に受け入れられている。


そのため『竜殺し』が闘技場で決闘を行うというイベントも、日に日に注目度を増していっている。


そんな有名人の情報を集めようと狩人ギルドに足を運ぶ俺。


「失礼します」


ギルド二階のアーロン親方の事務室に入る。


部屋の奥の事務机にアーロンがいる事を確認する。

その手前の卓には、エレノアと


「あれ、珍しいですね。

兄弟子がいるなんて」


マーカスがいた。


「ふん。最後の挨拶に来たんだよ」


マーカスが素っ気なく応える。


俺の発言に素直に応えるなんて、珍しい。


「最後の挨拶?」


俺は聞き返す。


「アーロン組を抜けて、独立するんだって」


エレノアが補足説明しながら、手振りで席に座るように促す。

俺は指示に従い着席する。


「へぇ、それはおめでとうございます」


俺はマーカスを言祝ぐ。


独立は、一人前の狩人だからこそ出来る事だ。


「お前も清々するだろ」


マーカスが憎まれ口を叩く。


マーカスが組を抜けると、俺との関係も解消される。

目の前にいる人物が、兄弟子ではなくただの他人になるのだ。

有難い。


「そうですね。

でも殆ど活動していませんでしたから、

あまり実感ないですね」


俺もつれなく返す。


「……」

「……」


「空気が悪いぞ、お前ら」


エレノアがツッコミを入れる。


「もう最後なんだから、仲良くしなさいよ」


呆れて溜息を吐くエレノア。


まあ確かに、と思わなくもない。

俺も態度を改めるか。


「すみません、兄弟子。

兄弟子の新たな門出を祝う気持ちは本当ですので、

お許し下さい」


非礼を謝る俺。


「もうお前と絡む事もねぇからな……」


そっぽを向くマーカス。


気勢がそがれ雰囲気が柔らかくなった。

どうやら俺の存在を受け入れたようだ。

それならば踏み込もう。


「でも、どうしてこんな時期に独立を?」


マーカスに尋ねる俺。


狩人の仕事は、親方の下にいた方が安定して稼ぐ事が出来る。

そのため一人前になっても独立しない者は多い。

逆に独立したい者は、二十歳前に独立してしまう。


マーカスはどちらにも該当しない。

だから、何か切っ掛けがあったはずだ。


「隣国で竜が出たじゃねぇか」


「出ましたね……?」


マーカスの言葉数が少なくて真意が読み取れない。


「『竜殺し』さんが討伐済みですよ?」


「そいつが倒した緑竜は、はぐれ竜だ。

緑竜が群れで行動する生き物なら、

そのはぐれ竜にも仲間がいるはずだ」


確かに、緑竜は群れで行動する習性がある。

マーカスと同じように、緑竜の本隊が存在すると考えているお偉いさんも多い。

緑竜の群れに備えて、北部の国境に戦力を集中させようという話があるとかないとか。


「本隊を叩きに行く気ですか?」


「そうだ」


マーカスが短く肯定する。


「来るか来ないか、まだ分からないんですよ?」


マーカスの思い切りの良さに驚く俺。


「でも今行かないと、グレアムに追いつけないからね」


エレノアが意味深な笑みをマーカスに向ける。


「ふん」


そっぽを向くマーカス。


エレノアからグレアムの名前が出てきた。

やはり二人は『竜殺し』グレアムと顔見知りらしい。


グレアムがアーロン組だった事は、情報として把握している。

俺と同じ組だった事には驚いたが、修業期間はどこかの組に所属するのだから、グレアムがアーロン組であったとしても別に不思議ではない。


グレアムが元アーロン組であれば、年頃が近い組員がグレアムの事を知っているだろうと情報収集にやって来たのだが、どうやら俺の予想は見事に的中していたようだ。


「どういう関係なんですか?」


エレノアとマーカスの顔を交互に見る俺。


「グレアムと幼馴染なのよ」


エレノアがマーカスを指差しながら笑む。


「あ~、なるほど~」


何となく察しがついた。


「何が、なるほどだ」


マーカスが噛みつく。


「竜殺しを成し遂げた幼馴染の凱旋に、焦ったから独立するんですね?」


狩人として名を上げたグレアムと仕事しない不良狩人のマーカス。

世間の評価は比べるまでもなく、グレアムの圧勝だ。

この現状で、笑って流せる程大人ではないのがマーカスだ。


そうだろ、兄弟子!


「ちげーよ!

あいつと決着をつけられるから、独立すんだ!」


マーカスが語気を強め、俺の言葉を否定する。


「決着? ……とは?」


「今度の『竜殺し』の決闘相手、あれマーカスなの」


エレノアがあっけらかんと告げる。


「え! そうなんですか?

初耳です」


思わぬ新情報をゲットしてしまった。


「口外するの男爵に禁止されているからね。

近いうちに、面白おかしく公開するんじゃない?」


エレノアが他人事のように言う。

まあ他人事だが。


「そんな事、よく許可しましたね」


俺は驚きながらマーカスに尋ねる。


エイベル男爵は、子供の治療費を稼ぐために奴隷落ちしたニールを

『悲劇の父親』として闘技場で見世物にしようと画策した男だ。


マーカスとグレアムとの間に、何かがあれば、それを面白おかしく宣伝して興行に利用しようとするだろう。


「あの人の玩具になる気はない。

宣伝文句なら、既に打ち合わせ済みだ」


動揺している俺に対して、マーカスは落ち着いている。


俺はいまいちエイベル男爵を信用していない。


「信用できるんですか?」


「あの人は腹の底は見せないが、

約束は守る人だ」


静かに答えるマーカス。


マーカスは男爵を信じているようだ。

意外だ。

いや、それだけの付き合いがあるのだろう。


エイベル男爵は約束は守る。

俺は半信半疑ながら男爵の評価を更新した。


っと俺は、男爵のひととなりを聞きに来たのではない。


「それで、肝心の『竜殺し』さんは、どんな人なんですか?」


そこから俺は、マーカスとエレノアに『竜殺し』グレアムについて質問を始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ