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異世界ソウルチェンジ -家出少年の英雄譚-  作者: 宮永アズマ
第1章 異世界オンユアマーク
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防衛開始

高い。

意外と高い。


それが防壁の上に立った俺の所感だった。


15メートルはある壁から見下ろすと地面が遠い。

その壁も外側は所々黒く焦げていて魔狼の炎に晒されたのだと分かる。

壁だけでなくあたりの地面も焦げている。


これ、マジで命懸けじゃん。


その焦げっぷりにちょっとびびる。

俺は地理を把握するため街の周囲を見渡す。


収穫の終わった畑が広がっており、その中に等間隔に薪の小山がある。

畑の先は木々で埋め尽くされている。

街の周りに森があるのではなく、森の中に街があるといった方が正確だろう。

そして森の先、俺は視線を上昇させる。この場で一番の存在感を放っている山脈を見上げる。


天覧山脈。

この大陸を分断する大山脈でその頂は雲に隠れて見ることが出来ない。

呆れるぐらいの壮大さに俺は目線を左右に向けるが山脈の終わりが見えない。


「すごい」


他の言葉なんて出て来ない。

俺はしばらく呆然とした後、麓に目を向けた。


その麓に広がる平地にはフット領がある。

いくつかの城塞都市がぽつぽつと点在している。

壁で街を囲っているということは外敵が存在するという事だ。

敵が人間か魔獣かは判断付かないが、ここに暮らす人達は常に危険に晒されて生きているのだと感じた。


「出て来たぞ」


誰かの声に俺は慌てて視線を戻した。

森の中から魔狼達が現れていた。ゆっくりとした歩調でこちらに近づいてくる。

その慎重な動きからこちらを警戒しているのだと分かる。


数が少ない。

俺達が4,5人で1頭を相手できるくらいの頭数だ。


魔狼達も連戦で数を減らしているのか。

だったら撤退しても良いはずだ。

その判断が出来るほど魔狼は頭が良くないのかもしれない。


俺はあれこれ考えながら魔狼達の様子を観察し続ける。


相変わらずゆっくりと近づいてくる。

魔狼達もこのまま近づいてくれば格好の的となると分かっているはずなので、どこかで仕掛けてくるはずだ。


いつだ?


緊張してきた。

心臓がバクバクいっている。


「どうするんですか」


俺はデイムに尋ねる。


「まだ時機じゃない。奴等は陽が落ちてから仕掛けてくる。姿を見せている魔狼達は私達の初撃を誘発する為の囮だ」


マジかよ。囮使うって賢いじゃないか。


知性がある動物を相手にするなら油断することは出来ない。

俺は気を引き締めて状況を見守った。

暫くするとデイムの言う通り、魔狼達は動きを止めた。

目算で100メートル。


魔狼達は寝転がったり座り込んだりしてその場から動かないことを示した。

ただ、視線だけはこちらを捉えている。


だんだんと日が暮れて夜の気配が濃くなってきた。

黒い体毛の魔狼は視認しづらい。

これから奴らの有利な時間が続く。

夜は奴らの味方だ。


獣人達もその不利を解消するために歩廊にあるかがり火をつけ始めた。

歩廊の視界は確保できたが、魔狼のいる外までは十分に照らすことが出来ていない。


そこで気付いた。


「火矢を放て」


サリムの短い号令に従って獣人達が畑にある薪の小山に火矢を射かける。


おお、きれいだ。


宵闇に赤い線が引かれていく。

火矢は別々の方向に飛んでいき、薪に火をつけた。


それと同時に魔狼達が走り出した。


「総員、戦闘用意」


サリムの勇ましい声が響く。


始まるのか。

心臓の鼓動が早くなる。


俺は氷の矢を手元に創り出す。

練習通り魔法が成功した。俺は誰にも気付かれないように小さく息を吐いた。


よし、狙ってやるぜ!


俺は意気込む。そして指先を魔狼の一頭に向ける。


「まだだよ」


デイムも氷の矢を宙に浮かせながら声を掛けてきた。

俺は指示に従う。


あと80メートル。

あと60メートル。

まだ遠い。


50メートル切った。


「総員、放て!」


俺は魔狼に向けて氷矢を放った。


外した。

矢は狙った場所に突き刺さっている。

魔狼は健在でこっちに突っ込んできている。


放った時点から魔狼が移動する距離を失念していた。


マズイ。


俺は慌てて氷矢を創り出し狙いを定める。


これでいいのか?

これで失敗したら魔狼に壁に取り付かれる。

それはダメだ。

当てなきゃ。


だが、魔狼の位置予想なんて完璧にはできない。

1本ではダメだ。

なら数を増やすしかない。


俺は出来るだけ多くの氷矢を創り四角形の形に並べた。

面攻撃。

これなら当たるはずだ。


すでに20メートル切っている。


「当たれ!」


俺は祈るように叫び氷矢を放った。


涼やかな音色の耳元に残し飛んでいった氷矢は魔狼の悲鳴を返してきた。


「良し」


俺は拳を握る。

何とか自分の持ち場を守れた。

氷矢に射貫かれた魔狼は絶命している。

そして外れた氷矢が辺りを取り囲んでいる。


創りすぎたな。


焦っていたとはいえ無駄撃ちしすぎた。


「カイル!」


1人反省会をしていた俺にデイムから叱責に似た声で名前を呼ばれた。

俺はデイムの横顔を見ようとするが、


「気を抜くな。魔狼の本陣がもう来ている。迎撃しろ!」


デイムの言葉にギョッとし視線を飛ばした。


波だ。

黒い波が迫ってきている。


俺は一瞬そう錯覚した。


だが、あれは波なんかではない。

あのうねり一つ一つが1頭の魔狼だ。それが群れと成って襲ってきているのだ。


防壁まで50メートルを切っている。


ここからが防衛戦の本番だ。


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