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078 婚約

「勇ましいね。

では、これで全員の予定は決まったね。

こんな時期にやって来たんだ、有意義な時間を過ごして欲しい」


デイムが締めの言葉を告げる。

だが、メイソンはデイムの言葉を聞き逃さない。


こんな時期とは、つまり、ゴルド伯爵がメイソンとエレインの婚約を発表した直後の時期という意味だ。


「やはり御迷惑でしたか?」


メイソンが身を固くして尋ねる。


「いやぁ別に、うちは困らないよ。

困るのはそちらではないのか、と気を揉んでいるんだよ」


目を細めてメイソンを見つめるデイム。


「ご心配をお掛けし申し訳ございません。

ですが、カイル君のおかげで、結婚ではなく婚約で話は落ち着きました」


メイソンに余裕があるのは、ゴルド伯爵の計画が停滞したからだ。


メイソンとエレインの婚約話がフット領に届いた時、意外に思った。

いつ結婚するか明言されていなかったからだ。

ゴルド伯爵ならば、邪魔なメイソンをさっさとゴルド家に婿入りさせて無力化すると思っていた。


「それは、フット家が介入するか否かを判断するための様子見だろう?」


デイムはそう読んでいた。


「仰る通りです。

ゴルド伯爵が警戒しているのは、フット伯爵、貴女だけです」


「それはどうかね」


デイムは、俺をちらりと見て小さく呟いた。


「それで、メイソン殿は何を望む?」


「ミルズの伯爵位は、ミルズの者に継承させたい。

それだけです」


きっぱりと告げるメイソン。


「自分はもういいのかい?」


「それが約束ですから」


「そう。

割り切ったんだね。若いのに立派だよ」


デイムはメイソンの前向きな姿勢を褒める。


「いえ、そんな事ありません。

私は、ゴルド伯爵に負けてから、何も決断できずに頭を抱えていました。

今の希望もカイル君が提案してくれたものです」


そう言って俺に微笑むメイソン。


確かに言った。

だが、それを実現させるには、対価が必要だ。


デイムの瞳に冷たい光が宿る。


「それを許してもらえるように、ゴルド家に便宜を図るか、

ゴルド家から守ってもらえるように、他の貴族の傘下に収まるか、

二つに一つだと思うが、

メイソン殿はどのようにお考えか?」


デイムがメイソンに決断を迫る。


メイソンはどちらを選ぶのか?


固唾を飲んで見守る俺。


「僭越ながら申し上げます。

フット領領主デイム・フット伯爵閣下に、我らミルズ家の後ろ盾になって頂きたい」


メイソンが真剣な眼差しでデイムを見つめる。

それに対してデイムは冷めた声を返す。


「見返りは?」


「金銭でお支払い致します。

もちろん、ゴルド家と衝突した際は、こちらも戦力を供出させて頂きます」


「その辺は当然だね。

もう一つ追加でお願いしようか」


デイムが足を組み替える。

身構えるメイソン。


「取り合えず、二年間でいい。

ミルズ家も獣人討伐に反対して欲しい」


デイムの発言に、メイソンもアリシアも目を見張る。

俺も驚く。


見返りとしては、デカすぎる要求だ。

下手をすると王国を敵に回す事になる。

飲み込めるわけがない。


だから、期限を切ったのか?

でも何で二年間?

それ位なら政局は動かないと判断した?

分かんね。


俺はメイソンの返事を待つ事にした。


「二年間で、ゴルド家との問題を解決しろと仰るのですか?

それとも、二年間で伯爵が解決してくれると期待してよろしいのでしょうか?」


メイソンの表情から焦りが見える。


デイムはゴルド家と事を構えるリスクを最小に抑えるために、

導火線に火のついた爆弾をミルズ家に押し付けてきた、とメイソンは判断したようだ。


やはり、メイソンも獣人問題に関わるのは遠慮したいらしい。


「だから、取り合えず二年間と言っているだろ。

延長しても構わないよ?」


メイソンの心情を知らん振りして、自分に都合が良い発言をするデイム。

少なくとも二年間で決着をつける気は無さそうだ。


デイムは獣人保護のカードを交渉のテーブルから取り下げたりしないだろう。

だから、メイソンが爆弾を抱え込む胆力を見せるか、交渉のテーブルから席を立つかの

二つに一つだ。


「どうして二年間なのですか?」


俺も気になる質問をするメイソン。


「獣人擁護派にまわって、余計な敵を作りたくないって気持ちはよく分るよ、メイソン殿。

だから、こちらも見返りを提供したい」


デイムは笑む。


見返りって何だ?


この場にいるデイム以外の人間が思っただろう。


「お姫様を守るのは騎士の務めだ」


デイムがアリシアを見つめる。


アリシアは姫ではなく貴族令嬢だ。

ってか、デイムは何の話をしているんだ?


何かを察したメイソンが俺を見つめる。


メイソンさん、何ですか?


「なるほど。

だから二年間なんですね。

未成年者同士なら、ゴルド伯爵も本気を出して潰しに来ないと」


「その通り。

仮に本気で潰しに来ても、解消して煙に巻けば済む話だ。

只で出来るし両家の繋がりを強調する事も出来る、

良い案だろう」


デイムが楽しそうに告げる。


なるほどね。

二人が何を話しているか理解した。

アリシアも理解している。

こっち、ちらちら見てるし。


「僕がアリシア様と婚約して、ゴルド伯爵から彼女を守れって事ですね、お祖母様」


俺は呆れ顔でデイムを見る。


カイルは、この秋で十三歳。

十五歳、成人になるまで、二年ちょっとある。


この国では、貴族の結婚は国王の承認が必要になるが、その一歩手前の婚約は必要としない。

故に、婚約は政略の道具として使い勝手が良い。


それに未成年者は、そもそも結婚出来ないので、破談に追い込みたい他家も干渉する時間的余裕が十分にある。

他家の妨害工作が緩くなるのが、未成年者同士の婚約の優位な点だ。


デイムは、これを利用しようと提案してきたのだ。


「察しがいいじゃないか、カイル」


嬉しそうに笑うデイム。


「カイル君、アリシアの婚約者になれば、

ゴルド伯爵から何らかの嫌がらせを受ける恐れがある。

大丈夫なのか?」


メイソンが心配してくれる。


「なぁに、心配はいらないさ。

矢面に私とカイルが二人で立てば、嫌がらせも分散させられる。

それに、嫌がらせを受けたら、

逆に証拠を掴んで、陛下に訴えてやればいい」


剛毅なデイムは、真っ向から受けて立つつもりだ。


デイム一人を矢面に立たせてはいけない。

これは俺が持ち込んだ問題だ。

俺も責任を背負わなければいけない。


「やりましょう。

二年間位、余裕ですよ、メイソンさん」


何の根拠もないが、覚悟を決めて安請け合いする俺。


「よく言った。

流石、私の孫だ」


デイムが俺の頭を撫でる。


ちょ、やめて。


メイソンはしばらく悩んだ。

大事な選択だ。仕方がない。

しかし、


「分かりました。

カイル君がアリシアの婚約者になってくれれば、

ゴルド伯爵も迂闊には手を出してこないはずです。

この話、お受け致します」


メイソンは立ち上がり、デイムに握手を求める。

デイムもゆっくり立ち上がり、手を伸ばす。


「こちらこそ、宜しく頼むよ」


二人は力強く握手を交わした。


話はまとまったが、それはそれとして、俺も言わねばならない。


静かに立ち上がりアリシアのもとに行く。

こういう場面では、跪くのが格好いいのだろうが、流石に恥ずかしい。


「アリシア様」


呼び掛ける。


「はい」


短く返事をし立ち上がるアリシア。


「「……」」


しばらく見つめ合って、俺は右手を差し出す。

ゆっくりと、アリシアが右手を重ねる。


温かくて柔らかい掌。


それが嬉しくて、俺は両手で包み込む。


「アリシア様、貴女は僕が守ります。

僕と婚約して下さい」


「……はい、喜んで」


微笑むアリシア。


彼女の左手が重なり、互いの熱を感じる。

こうして、俺とアリシアは婚約した。

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