077 デイムとメイソン
応接室
俺のせいで実現してしまったトップ会談
俺は緊張しながらデイムとメイソンの会談を見守る。
俺の隣に座るデイムが口を開く。
「こんな田舎によく来てくれたね。
メイソン殿、アリシア嬢、歓迎するよ」
男装姿のデイムが快活な声で告げる。
「お招き頂き有難うございます。
妹ともども感謝しております」
「有難うございます、伯爵閣下」
メイソン、アリシアが礼を述べる。
俺達の対面に座るミルズ兄妹は、輝いて見える。
湯浴み後で、柔らかそうな茶髪が日の光を反射しているからかもしれない。
「孫の友人が遊びに来るって聞いたら断れないよ。
仲がいいんだね」
「はい、仲良くさせて頂いております。
カイル君は若いのにしっかりしていて、私も見習わなければと常日頃から思っております」
メイソンが俺をおだてる。
「そうかい。
カイルは、学校では上手くやっているかい?」
「はい。
貴族平民、分け隔てなく接しておられるので交友関係は良好だと思います」
何か、小学校の家庭訪問を思い出す会話だな。
「良好か、それはいい。
魔法学校に入学する前は、入学するのを嫌がっていたから心配していたんだ」
「なっ!」
思わず声が出てしまう俺。
何言ってんの、デイムさん!
それ、言わなくていい情報でしょ!?
「ふふ」
含み笑いのデイム。
俺の反応を面白がっている。
「へぇ、意外ですね。
学校では普通に過ごされていたので、気付きませんでした」
メイソンがデイムから俺に視線を移し、問い掛ける。
「年齢を気にしていたのかな?」
「まぁ、それも理由の一つですが、
知り合いの誰もいない場所に一人で赴くのは、僕も不安を覚えてしまったという普通の話ですよ」
会話の主題になってしまった居心地悪さから、素っ気なく回答してしまう。
「年上の方々と学び舎を共にするのですから、心細く思われても仕方がない事です。
その不安に打ち勝って、魔法学校に入学されたのですから、カイル様はご立派ですよ」
アリシアが笑顔で俺を褒める。
アリシアの衣装は、白いワンピースで、袖と裾が青色のレースで彩られている。
彼女の所作で動く青に視線が奪われる。
「いや、大袈裟ですよ」
「いやいや、そんな事はないよ、カイル君」
メイソンが俺の発言を否定して言葉を続ける。
「その若さで魔法学校に入学した事も立派だが、
国中から選抜された学生達の中で、頭一つ抜けた強さを証明してみせたんだから。
その若さで入学してもおかしくないと思わせる、納得の強さだったよ」
俺を称賛するメイソン。
自分が決勝戦で負けた学年代表戦の話題を、俺よいしょに利用している。
完全に、デイムの好感度を上げる作戦だ。
「い、一年生の中だけですけどね」
メイソンの本気にたじろきながら謙遜の言葉を絞り出す。
「それで十分だよ。
カイル・フットの威名は、国中に鳴り響いた。
伯爵も、領民の皆がカイル君の事を話題にしているのを、既にご存じかと思います」
「そうだね。
一時お祭り騒ぎだったから、よく覚えているよ」
デイムは、口元にしわを刻む。
「これは恥ずかしいですね。
僕の話はこれ位にしませんか?
メイソンさん達は魔獣狩りのためにフット領にお越しになったのですから」
もうギブアップ。
次の話題に移って欲しい。
「そうだったね。
魔獣は好きに狩ってくれて構わないよ。
ただ、うちの騎士団を案内役につけるから、彼らの指示に従って欲しい」
デイムが真面目に忠告する。
「承知致しました。
ご配慮有難うございます。
貴重な機会ですので、勉強させて頂きます」
頭を下げるメイソン。
「若者が魔獣相手に腕試しするのは、よくある話だ。
アリシア嬢も一緒に参加するのかな?」
デイムがアリシアに話を振る。
「いえ、私は足手まといになってしまうので、
大人しくお兄様達のお帰りを待っていようと考えております」
丁寧に受け答えするアリシア。
大人との会話に慣れている感じがする。
「そうかい。
だったら、うちのライラの遊び相手になってくれないかい?」
デイムが孫娘のライラを見つめる。
「喜んで。
ライラ様、宜しくお願いします」
アリシアが柔らかな微笑を向ける。
「こ、こちらこそ、宜しくお願い致します。
アリシア様」
ライラが人見知りを発動している。
緊張した受け答えに新鮮さを感じてしまう俺。
普段のつんけんした態度しか見てないからだろうな。
「カイルもメイソン殿と一緒に狩りに行くんだろう?」
「はい。狩って狩って狩りまくりますよ」
話を振られたので元気に答える。
狩人ギルドに加入しているが、アーロン親方の方針で実戦経験を積めていない。
フット領にいる間に出来るだけ経験を積んでおきたい。
今回はメイソンの付き添いだが、俺は俺でやる気に満ちているのだ。
「勇ましいね。
では、これで全員の予定は決まったね。
こんな時期にやって来たんだ、有意義な時間を過ごして欲しい」
デイムが締めの言葉を告げる。
だが、メイソンはデイムの言葉を聞き逃さなかった。